刷り込みによる種分化

 刷り込みによる種分化についての研究(Yang et al., 2019)が公表されました。性的刷り込みとは、子が親の形質を学習して、それを後に自身の配偶相手の選り好みのモデルとして用いる現象のことで、これは種間の生殖障壁を作り出す場合があります。刷り込みの対象となるのが交配に関わる形質で、若い系統の間で違いがある場合、刷り込まれた選好性が行動隔離に寄与し、種分化を促進する可能性があります。しかし、性選択による種分化のモデルの大半では分岐自然選択も必要で、これが、性選択された単一あるいは複数の形質、さらにはそうした形質に影響を与える配偶相手の選り好みに多様性を生じさせ、それを維持する作用が働きます。この研究は、刷り込みが、雌の配偶相手の選り好みに関わるだけでなく、雄同士の攻撃における偏りをも形成し得る、と明らかにしています。こうした偏りは、自然選択と同様に働き、形質や配偶相手の選り好みの多様性を維持させ、これが性選択によってのみ引き起こされる生殖隔離を促進します。

 この研究は、里親実験を行ない、中米に生息してさまざまな皮膚色を示すと知られているイチゴヤドクガエル(Oophaga pumilio)の雄と雌の両方で、最近急激に分岐した交配形質である配色の刷り込みが起こることを明らかにしています。里親に育てられた雌は、育ての母と同色の配偶者を好み、里親に育てられた雄は、育ての母と同色の競争者に対してより強い攻撃性を示しました。また、単純な集団遺伝学モデルを使うことで、雄の攻撃性の偏りと雌の配偶相手の選り好みの両方が親の刷り込みを通して形成された場合には、性選択だけにより同所的多型が安定化され、形質と選好性の関連が強化されて行動的な生殖隔離につながり得る、と実証されました。こうした知見は、両生類で刷り込みが起こる証拠を提供します。またこうした知見により、これまでほとんど考慮されていなかった、競争相手の刷り込みと性的刷り込みの組み合わせにより、分岐的な交配形質を持つ個体間の遺伝子流動の減少の可能性が提示され、それが性選択による種分化の準備となる、と示唆されました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:刷り込みが種分化の準備をする

Cover Story:親の導き:イチゴヤドクガエルでは刷り込みが種分化につながる

 表紙のカエルはイチゴヤドクガエル(Oophaga pumilio)で、中米に生息し、さまざまな皮膚色を示すことが知られている。今回Y Yangたちは、イチゴヤドクガエルにおいて、母親の影響が、子の配偶相手の選り好みや競争をどのように形作るのか、そしてこれがいかにして新たな種の形成を駆動し得るのかについて明らかにしている。刷り込みでは、子は親から形質を学び、これは後に、行動の形成に役立つ。著者たちは、イチゴヤドクガエルの雌の子は、母と色が同じ雄の個体との交配を選ぶことを見いだした。同様に、雄の子は母と色が同じ雄に対してより攻撃的だった。著者たちが示唆する総合的な結果は、こうした刷り込みによって、分岐的な交配形質の多様性を有する個体間の遺伝子流動が低下するため、それが性選択によって種分化が生じる準備となるということである。



参考文献:
Yang Y, Servedio MR, and Richards-Zawacki CL.(2019): Imprinting sets the stage for speciation. Nature, 574, 7776, 99–102.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1599-z

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