最初期の鋏角類


 最初期の鋏角類に関する研究(Aria, and Caron., 2019)が公表されました。鋏角類は節足動物(関節のある付属肢1対を備えた体節が複数ある動物群)を構成する主要な動物群で、現生の鋏角類にはクモ類・サソリ類・ダニ類・ウミグモ類などが含まれ、おもに昆虫の捕食者として、また分解者として、現在の陸上生態系に著しい生態学的影響を及ぼしています。かつて鋏角類にはさまざまな絶滅種が数多く存在しましたが、その起源については議論が続いています。化石記録からは、鋏角類が古生代の海洋生態系において、遅くともオルドビス紀という早い時期に多様化していたことが示されています。しかし、鋏角類が出現した時期、さらに鋏角類の最初期の構成種を特徴付けるボディープランの種類に関しては、議論が続いています。これまでに、大付属肢類(Megacheira)は鋏角類に類似していると解釈されており、サンクタカリス類(Sanctacaris)を含むハベリア類(Habeliida)は鋏角類の直接のステム群系統に属することが示唆されていますが、鋏角類の特徴である特殊化した摂食用付属肢(鋏角)の存在を示す証拠は得られていません。

 この研究は、有名な中期カンブリア紀のバージェス頁岩(カナダ・ブリティッシュコロンビア州マーブルキャニオン)の極めて保存状態の良い豊富な化石試料を用いて、新種Mollisonia plenovenatrixが両眼の間のごく前方に頑丈で短い鋏角を有する、と明らかにしています。これは、鋏角がおそらく短い小触角の変形したものとして、特殊化した摂食機能を早期に獲得した、と示唆しています。頭部には1対の大きな複眼があり、その後ろに3対の長い単枝型歩脚と3対の太く丈夫な顎基の咀嚼用付属肢が位置していて、この配列はハベリア類を真鋏角類(ウミグモ類を除く「真の」鋏角類)と結びつけるものです。胴は、最後部に4つに分節した尾節があり、また全体にわたって11対の同一構造を持つ肢が並んでいます。これらの肢は、それぞれ3つの幅広い層板状フラップからなる外肢で、内肢は縮小しているか存在しません。これらの重なり合う外肢フラップは真鋏角類の書鰓に類似していますが、真鋏角類に特徴的な蓋板は持っていません。さらに、M. plenovenatrixの眼は3つの視覚ニューロピルによって神経支配されており、これは、軟甲類様の複雑な視覚系が全てのクラウン群真節足動物の原始形質であったかもしれない、とする見解を裏づけるものです。この化石は、鋏角類がカンブリア爆発の中心において、底生の微小捕食者として大顎類と共に出現したことを示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古生物学:鋏角および原始的な書鰓を有する中期カンブリア紀の節足動物

古生物学:明らかになった最初期の鋏角類

 鋏角類は、節足動物(関節のある付属肢1対を備えた体節を複数持つ動物群)を構成する主要な動物群である。現生の鋏角類にはクモ類、サソリ類、ダニ類、ウミグモ類などが含まれるが、かつてはこの他に、さまざまな絶滅種が数多く存在した。鋏角類の起源については議論が続いている。今回C AriaとJ Caronは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の中期カンブリア紀の有名なバージェス頁岩から得られたMollisonia類の一種について化石を調べ直し、最初期の鋏角類がどのような動物だったかを解き明かしている。新たな化石標本からは、鋏角類を定義付ける特徴的な鉤爪様の鋏角の他、鰓や神経系の構造など、これまでほとんど知られていなかった数々の特徴が明らかになった。総合すると今回の化石は、鋏角類の全般的な定義を改善するものである。



参考文献:
Aria C, and Caron JB.(2019): A middle Cambrian arthropod with chelicerae and proto-book gills. Nature, 573, 7775, 586–589.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1525-4

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