アフリカ南部の初期ホモ属の授乳期間

 アフリカ南部の初期ホモ属の授乳期間に関する研究(Tacail et al., 2019)が報道されました。化石記録からの育児行動の推測は困難で、身体サイズや歯の発達や化学的な分析に基づいています。歯の組織の高解像度元素分析からは、幼少期の食性を推定できます。バリウムとカルシウムの比率から母乳育児とその経時的な減少を推定できますが、近年、乳歯のエナメル質のカルシウム同位体比(Ca44/Ca42)が、乳児期における授乳停止年齢に対応して変化する、と明らかになりました。本論文は南アフリカ共和国で発見された初期人類を対象に、歯のエナメル質のカルシウム同位体比を分析しました。対象となったのは、アウストラロピテクス・アフリカヌス(Australopithecus africanus)、パラントロプス・ロブストス(Paranthropus robustus)、初期ホモ属で、草食動物と肉食動物とゴリラが比較されました。

 分析の結果、母乳の消費を示す低いカルシウム同位体比は、初期ホモ属では測定されたものの、アフリカヌスとロブストスでは測定されませんでした。これは、アフリカヌスとロブストスでは、初期ホモ属よりも授乳量が少なく、なおかつ・あるいは授乳が低頻度で、授乳期間が短かったことを示唆します。初期ホモ属では、アフリカヌスとロブストスよりも長く授乳への依存度のずっと高い育児期間が続いた(おそらく3~4歳頃まで)、と推測されます。初期ホモ属におけるこの離乳の遅さは、出産間隔がアフリカヌスとロブストスよりも長かったことを示唆します。

 こうした初期ホモ属における母乳育児期間の長さ(離乳時期の遅さ)は、脳の発達のようなホモ属系統の特徴の出現と、社会構造の大きな変化に重要な役割を果たしたのではないか、と推測されています。この仮説を検証するには、化石記録におけるカルシウム同位体比のさらなる調査が必要となります。最近公表された研究でも、アフリカヌスの(母乳が主要な栄養源ではないという意味での)離乳時期の早さ(生後1年弱ほど)が指摘されていました(関連記事)。ただ、その研究では、アフリカヌスが定期的に食料不足に陥り、その時期には授乳で対応し、それが長期にわたった、とも推測されています。その意味で、アフリカヌスの方が初期ホモ属よりも出産間隔が短かったのか、まだ確定したとは言えないように思います。


参考文献:
Tacail T. et al.(2019): Calcium isotopic patterns in enamel reflect different nursing behaviors among South African early hominins. Science Advances, 5, 8, eaax3250.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aax3250

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