河辺俊雄『人類進化概論 地球環境の変化とエコ人類学』

 東京大学出版会より2019年3月に刊行されました。本書は大学初年次クラスの自然人類学の教科書として執筆されたとのことで、人類の誕生から農耕の始まりの頃までを概観しています。表題にあるように、環境変化を重視しているのが本書の特徴で、最初に1章を割いて地球環境の変化を解説しています。本書は700万年にわたる人類の身体および行動面での進化を概観し、ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の下限年代について旧説(12000年前頃)を採用しているなど(新説では5万年前頃)、古い知見もあるものの、全体的には近年の研究成果を取り入れた適切な内容になっており、人類進化の教科書としてたいへん優れていると思います。本書は当分、人類進化史に関心を抱き始めた人にまず勧めるべき概説書となることでしょう。私も人類進化史に関する認識を自分なりに整理でき、たいへん有益な一冊となりました。

 本書は人類進化史を、地球環境の変化だけではなく、霊長類進化史の文脈にも位置づけており、視野の広さが窺えます。霊長類進化史についてあやふやな私にとって、有益な解説となりました。また、人類進化史の概説とはいっても、単に年代順に淡々と解説しているのではなく、直立二足歩行と脳の進化に1章ずつ割いているように、とくに重要と思われる事項を重点的に取り上げていることも、教科書として優れている点であるように思います。確かに、直立二足歩行と脳の大型化は、人類の重要な特徴と言えるでしょうから、妥当な配分だと思います。

 霊長類の集団の分類について、本書は母系・父系・非単系と3区分しています。ヒト上科(類人猿)では、チンパンジー属が父系、テナガザルとオランウータンとゴリラが非単系です。これまで当ブログでも述べてきましたが、現生類人猿社会はヒトの一部社会を除いて非母系です。その観点からも、人類社会がもともと母系だった可能性は低いように思います。まあ、人類系統がチンパンジー属系統と分岐した後に、母系社会に移行し、そこから多様化していった、という可能性も「全否定」はできませんが、その可能性はきわめて低いだろう、と私は考えています。なお、「デニソワ人のDNAは東アジアやヨーロッパの集団には認められていない」とありますが(P126)、その前のページでは「現在東アジアや南アジアに住む人にもデニソワ人のDNAが0.2-0.6%含まれている」とあり、「東アジア」は「西アジア」の誤記だと思います。


参考文献:
河辺俊雄(2019)『人類進化概論 地球環境の変化とエコ人類学』(東京大学出版会)

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