腸内の細菌断片中和による自己免疫の改善

 腸内の細菌断片中和による自己免疫の改善に関する研究(Huang et al., 2019)が公表されました。細菌は強力な免疫系活性化因子です。以前の研究では、ヒトの微生物相(ヒトの体内や体表に正常に生息している細菌)と自己免疫疾患の発症に関係がある、と示唆されています。また、微生物相から細胞壁の断片が血液中に放出される可能性があることや、そうした細胞壁が動物の自己免疫疾患を悪化させる場合があることも明らかにされています。

 この研究は、ペプチドグリカンサブユニットと呼ばれる細胞壁断片が免疫系を活性化し、自己免疫性関節炎を悪化させる、とマウスで明らかにしました。次にこの研究は、こうした断片を特異的に中和する抗体を開発し、この抗体をマウスに投与すると、いくつかの自己免疫疾患の程度が軽減したり、発症が減ったりすることを示しました。この研究は、自己免疫疾患に対する新しい治療の道が開ける可能性を提示しました。望ましくない副作用の可能性がある免疫抑制剤を使う代わりに、細菌性の免疫シグナルを除去する抗体を投与するという方法です。ただ、この中和治療が安全で、ヒトの自己免疫疾患患者にも有効かを判断するには、さらに研究を進める必要がある、とも指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


腸内の細菌断片を中和すると自己免疫が改善する

 細菌細胞壁の特定の断片を中和する抗体が、マウスで数種類の自己免疫疾患の程度を軽減することを報告する論文が、今週掲載される。この中和治療が安全で、ヒトの自己免疫疾患患者にも有効かを判断するには、さらに研究を進める必要がある。

 細菌は、強力な免疫系活性化因子である。以前に行われた研究では、ヒトの微生物相(ヒトの体内や体表に正常に生息している細菌)と自己免疫疾患の発症に関係があることが示唆されている。また、微生物相から細胞壁の断片が血液中に放出される可能性があることや、そうした細胞壁が動物の自己免疫疾患を悪化させる場合があることも明らかにされている。

 今回Yue Wangたちは、ペプチドグリカンサブユニットと呼ばれる細胞壁断片が免疫系を活性化し、自己免疫性関節炎を悪化させることをマウスで明らかにした。次に、Wangたちはこの断片を特異的に中和する抗体を開発し、この抗体をマウスに投与するといくつかの自己免疫疾患の程度が軽減したり、発症が減ったりすることを示した。

 この研究によって、自己免疫疾患に対する新しい治療の道が開ける可能性がある。望ましくない副作用の可能性がある免疫抑制剤を使う代わりに、細菌性の免疫シグナルを除去する抗体を投与するという方法である。



参考文献:
Huang Z. et al.(2019): Antibody neutralization of microbiota-derived circulating peptidoglycan dampens inflammation and ameliorates autoimmunity. Nature Microbiology, 4, 5, 766–773.
http://dx.doi.org/10.1038/s41564-019-0381-1

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