昆虫の卵の独特な進化

 昆虫の卵の独特な進化に関する研究(Church et al., 2019)が公表されました。この研究は、昆虫の卵が、サイズに関するさまざまな進化理論を検証するための強力な系であることを明らかにしました。昆虫の卵は多様ですが、量的形質を用いれば、近縁関係にない系統間の比較も可能となります。この研究では、既発表の論文における昆虫の卵に関する記述(10449件)のデータベースがまとめられました。この昆虫のリストには526科6706種が含まれ、現在記述されている六脚目(昆虫とそれ以外の生物)が全て含まれています。最も大きな卵の体積は、最も小さな卵の10の8乗倍で、最も大きいのがブルーベリー大のセンチコガネ科の昆虫(Bolboleaus hiaticollis)の卵(豆粒サイズ)で、最も小さいものは小さ過ぎて人間の目には見えません。

 この研究は、発生期間、体のサイズまたは卵殻の推定「コスト」との進化的トレードオフ関係に関する先行仮説を検証し、昆虫の卵のサイズと形状を比較したところ、これらの仮説が当てはまらない、と明らかになりました。卵のサイズと形状は、単純に体サイズや発生速度と関係しているわけではなく、また単純なアロメトリー(相対成長)関係で表されるいかなるスケーリング則にも従っていない、というわけです。この研究は、発生期間が卵のサイズと無関係なことを明らかにし、その一方で、細胞の数や分布などの発生の他の特徴は、卵のサイズに応じて予測可能な法則で拡大縮小する可能性がある、との見解を提示しています。

 さらに、この研究は、水生環境での孵化への移行が、より小さな卵の進化と関連しており、托卵による孵化への移行がより小さく、より非対称的な卵の進化と関連していることを示す証拠も示しました。これらの知見は、最も見事な仮説でも膨大なデータという圧倒的な力の前では崩壊し得ることを示す華麗な一例で、複雑な生物システムが単純なアロメトリースケーリング則に従い得る、という考え方に異を唱えるものです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【進化発生生物学】昆虫の卵の独特な進化

 昆虫の卵のサイズと形状は、産卵の仕方と産卵場所の影響を受けているが、昆虫の体のサイズや発生速度には影響されないとする研究論文が、今週掲載される。

 今回、Cassandra Extavour、Samuel Churchたちの研究グループは、昆虫の卵が、サイズに関するさまざまな進化理論を検証するための強力な系であることを明らかにした。昆虫の卵は多様だが、量的形質を用いれば、近縁関係にない系統間の比較も可能となる。今回の研究では、既発表の論文における昆虫の卵に関する記述(1万件以上)のデータベースがまとめられた。この昆虫のリストには6700種以上、526科が含まれ、現在記述されている六脚目(昆虫とそれ以外の生物)が全て含まれている。最も大きな卵の体積は、最も小さな卵の10の8乗倍で、最も大きいのがブルーベリー大のBolboleaus hiaticollis(センチコガネ科の昆虫)の卵で、最も小さいものは小さ過ぎて人間の目には見えない。

 この研究グループは、発生期間、体のサイズまたは卵殻の推定「コスト」との進化的トレードオフ関係に関する先行仮説を検証した。昆虫の卵のサイズと形状を比較したところ、これらの仮説が当てはまらないことが判明した。この研究グループは、発生期間が卵のサイズと無関係なことを明らかにし、その一方で、細胞の数や分布などの発生の他の特徴は、卵のサイズに応じて予測可能な法則で拡大縮小する可能性があると考えている。さらに、この研究グループは、水生環境での孵化への移行が、より小さな卵の進化と関連しており、托卵による孵化への移行がより小さく、より非対称的な卵の進化と関連していることを示す証拠も発表した。


進化発生生物学:昆虫の卵のサイズと形状は発生速度ではなく生態によって進化する

進化発生生物学:アロメトリーではなく産卵生態と関連付けられた昆虫の卵のサイズ

 C Extavourたちは今回、文献の情報から昆虫の卵のサイズと形状に関するデータベースを作成し、生物のスケーリングについて広く行き渡っている考え方の検証を行った。その結果、卵のサイズと形状は、単純に体サイズや発生速度と関係しているわけではないことが明らかになった。卵のサイズと形状はまた、単純なアロメトリー(相対成長)関係で表されるいかなるスケーリング則にも従っていない。系統発生について適切に調整すると、卵のサイズと形状はいずれの場合も産卵の状況に支配されることが分かった。今回のデータベースは、出版された科学文献から収集した卵の形態に関する1万449件に及ぶ描写からなり、526科、6706種を網羅するとともに、これまでに記載されている全ての現生昆虫および非昆虫六脚類を含んでいる。これらの卵は、ムネアカセンチコガネの一種Bolboleaus hiaticollisの豆粒サイズの大きなものから、捕食寄生バチPlatygaster vernalisの塵サイズの微小なものまで、体積に8桁もの幅がある。今回の結果は、最も見事な仮説でも膨大なデータという圧倒的な力の前では崩壊し得ることを示す華麗な一例であり、複雑な生物システムが単純なアロメトリースケーリング則に従い得る、という考え方に異を唱えるものである。



参考文献:
Church SH. et al.(2019): Insect egg size and shape evolve with ecology but not developmental rate. Nature, 571, 7763, 58–62.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1302-4

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