『卑弥呼』第19話「黄泉返り」
『ビッグコミックオリジナル』2019年7月5日号掲載分の感想です。前回は、山社(ヤマト)の楼観で自分が日見子であると証明するための儀式を始めたヤノハが、自分が日見子である、イスズとウズメに名乗るところで終了しました。今回は、ヤノハが義母とともに、毒蛇に咬まれて瀕死の弟であるチカラオを救おうとする回想場面から始まります。ヤノハは「日の鏡」でチカラオに日光を当てますが、チカラオは目を覚ましません。不安になるヤノハに、チカラオの魂は天照様と須佐之男(スサノオ)様の中間、つまり生死の境で彷徨っている、と義母は説明します。チカラオを甦らせるにはどうするのか、とヤノハに問われた義母は、退路を断つのだ、と答えます。黄泉の国への出入り口である「地の鏡」を粉々に割れば、須佐之男様も追ってこられない、というわけです。義母はヤノハに「地の鏡」を渡し、割るように促します。ヤノハは「地の鏡」を地面に打ちつけますが、割れなかったので石の槌で叩き割ろうとします。しかし、「地の鏡」はわずかにひび割れするだけでした。この間、義母はヤノハの行動をにこやかに見守っていました。けっきょく、義母は銅鏡を粉々に割り、チカラオは翌日、朝日とともに目を覚ましました。喜ぶヤノハに、これが黄泉返りの秘儀だ、と義母は言います。万物のほとんどは生きていない、もうすでに死んだか、まだ生まれていないか、死こそが普通の状態だ、と義母はヤノハに教えます。生は一瞬の大切な奇跡なので、生の世界に長く留まりたいならなりふりかまわず戦え、と義母はヤノハに言い聞かせます。
舞台は現代の山社(ヤマト)に戻ります。ヤノハは楼観で山社の祈祷女(イノリメ)の長であるイスズと、副長のウズメに、天照大御神の秘儀を見せよと言うのか、と尋ねます。イスズはやや躊躇うような表情を見せつつも、ぜひお願いしたい、と答えます。ヤノハは二人に、自分が日見子(ヒミコ)である証が欲しいのか、と尋ねます。暈(クマ)の国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)の祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメと同様に、自分を偽者の日見子と思うのか、というわけです。ヤノハは答えない二人に、秘儀とは天照様の弟で黄泉の国の王である須佐之男様との対面だ、と説明します。これはイスズもウズメも知っていました。無意味な儀式を行なえば、二柱の神の怒りを買い、災いがイスズとウズメに及ぶかもしれない、というわけです。イスズは、天照大御神の秘儀とは死んだ人間を甦らせる方法で、同時に生者を殺す呪術と知っていました。承知のうえで秘儀を見せよというのか、と問われたイスズとウズメのうち、ウズメは自信のある様子でそうだと答えますが、イスズは沈黙で答えます。
ヤノハはイスズとウズメに「地の鏡」を渡すよう、イクメに命じ、「地の鏡」を渡された二人は、鏡を表に向けて覗くよう、ヤノハに命じられます。ヤノハはイスズとウズメに、二人の魂は今、黄泉の国の入り口で彷徨っている、地より蛇が出れば魂は黄泉へと導かれる、と伝えます。思わず鏡から目をそらしたウズメは、秘儀を体験したいのになぜ目をそらすのか、とヤノハに問い質され、再び鏡に目を向けます。すると、ケシの実の樹液を粉にしたものを焚いている効果なのか、ウズメは蛇の幻覚を見て狼狽し、お許しください、と言い続けます。何か見えたか、とヤノハに問われたイスズは、大蛇が顕われた、と答えます。狼狽したウズメは、自分は死ぬのですか、とヤノハに尋ねます。するとヤノハは、いつかは自分も分からないが、ごく近いうちに、と答えます。するとウズメはすっかり怯え、お助けください、と懇願し続けます。その様子を見たヤノハは、二人の魂を取り戻すのが天照様より授かった秘儀だ、と言ってイスズとウズメを安心させます。ヤノハは、天照大御神(アマテラスオホミカミ)、又の名を大日靈貴神(オオヒルメノムチノカミ)、又の名を天照坐皇大御神(アマテラシマススメオホミカミ)、とその名を唱え始め、一瞬沈黙した後、天照様が怒っておられる、二人の魂を黄泉から戻すのは嫌だとおっしゃっている、と述べ、なぜですか、と天照大御神に問いかけます。この様子を見たウズメは顔面蒼白になります。
その頃、那と暈の国境の戦場の最前線の那の陣営側で、那のトメ将軍と、ヤノハの命を受けたヌカデとが面会していました。トメ将軍は暈の陣地に放った乱波(ラッパ)は、暈のタケル王が鹿屋(カノヤ)を出て最前線に向かっている、と報告を受けていました。するとヌカデは、日見子(ヤノハ)様の予言通りと言います。ヤノハは、大河(筑後川と思われます)さえ無事越せれば那軍の勝利と予言していました。トメ将軍は、大河を渡れば勇敢な自軍が勝利すると分かっているが、渡河の途中で暈軍から弓や槍で攻撃されて自軍は全滅するので不可能だ、と言います。するとヌカデは、暈軍の兵が数日間河岸からいなくなったとしたら、とトメ将軍に問いかけます。日見子はそう予言したのか、タケル王がオシクマ将軍たちの陣地を訪れる目的は軍勢を最前線から動かすためなのか、とトメ将軍に問われたヌカデは肯きます。トメ将軍は痛快といった感じで、もし現実にそうなれば、自分も日見子を支持する、と言います。
山社では、狼狽したウズメが楼観から鏡を投げ落としましたが、イクメの弟で地上にいるミマアキが確認したところ、鏡は割れていませんでした。ますます狼狽したウズメは地上に降りて行き、ヤノハはイクメに、同行するよう指示します。ウズメは槌で鏡を割ろうとしますが、ひび割れして歪むだけで割れず、絶望した様子を見せます。黄泉の国から戻るには、「地の鏡」を割らねばならないのでしょう。ウズメ殿が狼狽しているのにイスズ殿は冷静ですね、とヤノハは言います。イスズは、自分もまだ黄泉の国に召されたくない気持ちは同じだと言い、そのためにはヤノハを日見子と信じなかったことで怒った天照様を鎮めねばならず、天照様は自分たちがヤノハを日見子と信じた証を欲しがっておられるのか、とヤノハに確認します。ヤノハが沈黙するのを見て、ついにイスズは、ヤノハに天照大御神からお告げがあったのだろう、と認めます。イスズは、ヤノハの様子を見て、お告げの内容を悟ります。それは、イスズが生きたければ、姉と慕うヒルメを即刻殺せ、というものでした。ヤノハが義母からの、生の世界に長く留まりたいならなりふりかまわず戦え、との教えを回想しているところで、今回は終了です。
今回は、生に執着するヤノハの生き様の根源が明かされました。ヤノハが義母から、生きていくうえで必要な知識を授かったことは、これまでにも描かれていました。それだけではなく、ヤノハの人生観の根源も義母の教えに由来すると明かされ、ヤノハが危険を冒してまで義母の遺体を敵兵から回収したほど、義母を強く慕っていたことも納得できました。義母がどのように「地の鏡」を割ったのか、今回は明かされませんでしたが、それがイスズとウズメを心服させる重要な鍵になる、とヤノハは考えているのでしょう。ヤノハの機知と度胸には感嘆させられます。ヤノハの「本性」を知っているヌカデとアカメがヤノハに賭けようとするのも、納得できます。ヤノハがタケル王をどう動かしてこの危地を脱しようとしているのかも、少し見えてきましたが、タケル王はヤノハの策に踊らされそうではあるものの、鞠智彦(ククチヒコ)の方は一筋縄ではいかなそうです。ヤノハが暈と那の争いをどう利用してこの危地を脱するのか、面白い話になりそうで期待しています。次回は巻頭カラーとのことで、たいへん楽しみです。
舞台は現代の山社(ヤマト)に戻ります。ヤノハは楼観で山社の祈祷女(イノリメ)の長であるイスズと、副長のウズメに、天照大御神の秘儀を見せよと言うのか、と尋ねます。イスズはやや躊躇うような表情を見せつつも、ぜひお願いしたい、と答えます。ヤノハは二人に、自分が日見子(ヒミコ)である証が欲しいのか、と尋ねます。暈(クマ)の国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)の祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメと同様に、自分を偽者の日見子と思うのか、というわけです。ヤノハは答えない二人に、秘儀とは天照様の弟で黄泉の国の王である須佐之男様との対面だ、と説明します。これはイスズもウズメも知っていました。無意味な儀式を行なえば、二柱の神の怒りを買い、災いがイスズとウズメに及ぶかもしれない、というわけです。イスズは、天照大御神の秘儀とは死んだ人間を甦らせる方法で、同時に生者を殺す呪術と知っていました。承知のうえで秘儀を見せよというのか、と問われたイスズとウズメのうち、ウズメは自信のある様子でそうだと答えますが、イスズは沈黙で答えます。
ヤノハはイスズとウズメに「地の鏡」を渡すよう、イクメに命じ、「地の鏡」を渡された二人は、鏡を表に向けて覗くよう、ヤノハに命じられます。ヤノハはイスズとウズメに、二人の魂は今、黄泉の国の入り口で彷徨っている、地より蛇が出れば魂は黄泉へと導かれる、と伝えます。思わず鏡から目をそらしたウズメは、秘儀を体験したいのになぜ目をそらすのか、とヤノハに問い質され、再び鏡に目を向けます。すると、ケシの実の樹液を粉にしたものを焚いている効果なのか、ウズメは蛇の幻覚を見て狼狽し、お許しください、と言い続けます。何か見えたか、とヤノハに問われたイスズは、大蛇が顕われた、と答えます。狼狽したウズメは、自分は死ぬのですか、とヤノハに尋ねます。するとヤノハは、いつかは自分も分からないが、ごく近いうちに、と答えます。するとウズメはすっかり怯え、お助けください、と懇願し続けます。その様子を見たヤノハは、二人の魂を取り戻すのが天照様より授かった秘儀だ、と言ってイスズとウズメを安心させます。ヤノハは、天照大御神(アマテラスオホミカミ)、又の名を大日靈貴神(オオヒルメノムチノカミ)、又の名を天照坐皇大御神(アマテラシマススメオホミカミ)、とその名を唱え始め、一瞬沈黙した後、天照様が怒っておられる、二人の魂を黄泉から戻すのは嫌だとおっしゃっている、と述べ、なぜですか、と天照大御神に問いかけます。この様子を見たウズメは顔面蒼白になります。
その頃、那と暈の国境の戦場の最前線の那の陣営側で、那のトメ将軍と、ヤノハの命を受けたヌカデとが面会していました。トメ将軍は暈の陣地に放った乱波(ラッパ)は、暈のタケル王が鹿屋(カノヤ)を出て最前線に向かっている、と報告を受けていました。するとヌカデは、日見子(ヤノハ)様の予言通りと言います。ヤノハは、大河(筑後川と思われます)さえ無事越せれば那軍の勝利と予言していました。トメ将軍は、大河を渡れば勇敢な自軍が勝利すると分かっているが、渡河の途中で暈軍から弓や槍で攻撃されて自軍は全滅するので不可能だ、と言います。するとヌカデは、暈軍の兵が数日間河岸からいなくなったとしたら、とトメ将軍に問いかけます。日見子はそう予言したのか、タケル王がオシクマ将軍たちの陣地を訪れる目的は軍勢を最前線から動かすためなのか、とトメ将軍に問われたヌカデは肯きます。トメ将軍は痛快といった感じで、もし現実にそうなれば、自分も日見子を支持する、と言います。
山社では、狼狽したウズメが楼観から鏡を投げ落としましたが、イクメの弟で地上にいるミマアキが確認したところ、鏡は割れていませんでした。ますます狼狽したウズメは地上に降りて行き、ヤノハはイクメに、同行するよう指示します。ウズメは槌で鏡を割ろうとしますが、ひび割れして歪むだけで割れず、絶望した様子を見せます。黄泉の国から戻るには、「地の鏡」を割らねばならないのでしょう。ウズメ殿が狼狽しているのにイスズ殿は冷静ですね、とヤノハは言います。イスズは、自分もまだ黄泉の国に召されたくない気持ちは同じだと言い、そのためにはヤノハを日見子と信じなかったことで怒った天照様を鎮めねばならず、天照様は自分たちがヤノハを日見子と信じた証を欲しがっておられるのか、とヤノハに確認します。ヤノハが沈黙するのを見て、ついにイスズは、ヤノハに天照大御神からお告げがあったのだろう、と認めます。イスズは、ヤノハの様子を見て、お告げの内容を悟ります。それは、イスズが生きたければ、姉と慕うヒルメを即刻殺せ、というものでした。ヤノハが義母からの、生の世界に長く留まりたいならなりふりかまわず戦え、との教えを回想しているところで、今回は終了です。
今回は、生に執着するヤノハの生き様の根源が明かされました。ヤノハが義母から、生きていくうえで必要な知識を授かったことは、これまでにも描かれていました。それだけではなく、ヤノハの人生観の根源も義母の教えに由来すると明かされ、ヤノハが危険を冒してまで義母の遺体を敵兵から回収したほど、義母を強く慕っていたことも納得できました。義母がどのように「地の鏡」を割ったのか、今回は明かされませんでしたが、それがイスズとウズメを心服させる重要な鍵になる、とヤノハは考えているのでしょう。ヤノハの機知と度胸には感嘆させられます。ヤノハの「本性」を知っているヌカデとアカメがヤノハに賭けようとするのも、納得できます。ヤノハがタケル王をどう動かしてこの危地を脱しようとしているのかも、少し見えてきましたが、タケル王はヤノハの策に踊らされそうではあるものの、鞠智彦(ククチヒコ)の方は一筋縄ではいかなそうです。ヤノハが暈と那の争いをどう利用してこの危地を脱するのか、面白い話になりそうで期待しています。次回は巻頭カラーとのことで、たいへん楽しみです。
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