アーモンドの栽培化を可能にした変異

 アーモンド(Prunus amygdalus)の栽培化を可能にした変異に関する研究(Sánchez-Pérez et al., 2019)が公表されました。日本語の解説記事もあります。まだ議論もあるものの、アーモンドの木の最初の栽培化は近東で完新世前半に始まったと考えられており、エジプトとギリシアにおけるナッツの初期の考古学的証拠により支持されています。しかし、野生アーモンドの種には苦くて毒性のある青酸配糖体アミグダリンが蓄積されます。これまでの研究から、アーモンドの最初の栽培化は、食べられない野生型に由来する食用の甘い種の遺伝子型を選抜することで可能になった、と示唆されています。しかし、最初の栽培化以来、アーモンドは地球上で最も広まったナッツ類となっているものの、アーモンドの分布と経済的重要性にも関わらず、そのゲノムの詳細な理解はバラ科の植物など他種よりも遅れており、甘い食用のナッツを作り出せる遺伝子の性質も分かっていませんでした。

 本論文は、アーモンドの完全な参照ゲノムを報告し、アセンブルした配列を用いて、毒性のある苦いアーモンドと甘いアーモンドの遺伝的差異を解明しました。これにより、甘い種の遺伝子型に関連する転写因子のクラスターが発見されました。このうちbHLH2が毒性化合物アミグダリンの産生の生合成経路の制御に関与している、と明らかになりました。この結果から、bHLH2の変異によりアミグダリンの産生が抑制され、その結果甘いアーモンドの遺伝子型が生み出され、栽培化中に積極的に選抜された、と示されました。私は植物の進化史や栽培化の歴史には本当に疎いのですが、人類進化史とも深く関わっているので、今後少しずつ知見を得ていこう、と考えています。


参考文献:
Sánchez-Pérez R. et al.(2019): Mutation of a bHLH transcription factor allowed almond domestication. Science, 363, 6445, 1095–1098.
https://doi.org/10.1126/science.aav8197

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