mtDNAの選択における核DNAの影響
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の選択における核DNAの影響に関する研究(Wei et al., 2019)が報道されました。例外も報告されているとはいえ(関連記事)、mtDNAは基本的には母系継承で、ヒトも例外ではありません。細胞によっては数千個存在するミトコンドリアのDNAは基本的にはほぼ同一なのですが(同質性、homoplasmy)、変異型の共存も見られ、異質性(heteroplasmy)として知られています。この異質性はミトコンドリア病と関連している場合があります。
本論文は、おもにイギリスの国立衛生研究所の膨大な遺伝データを利用し、異質性mtDNAがどのように母親から子供へと継承されたのか、1526組の母子を含む12975人の全ゲノム配列を分析し、その結果を他の40325人でも検証しました。1526組の母子のうち45.1%で、mtDNAの1%以上に影響を及ぼす異質性が確認されました。女性の生殖細胞発生中に、細胞あたりのmtDNA量は減少します。これはおもに遺伝的浮動により制御されており、子の世代での異質性の水準の相違をもたらしますが、ヒト以外の一部の動物において、この過程でmtDNAの多様体にたいして何らかの選択圧が生じているのではないか、と推測されています。本論文は、ヒトでも同様の選択圧が生じているのか、また核DNAが影響しているのか、検証しました。
この異質性多様体は、タンパク質をコードしていない領域の場合は継承される可能性が高く、逆にタンパク質をコードしている領域の場合は継承される可能性が低い、と明らかになりました。mtDNAの遺伝においては、単純な遺伝的浮動だけではなく、何らかの選択を受けており、継承されやすい多様体とそうではない多様体がありそうだ、というわけです。また、以前に世界中で観察されていたmtDNAの多様体は、新たな多様体よりも継承される可能性が高い、ということも明らかになっています。
核DNAとの関連で注目されるのは、多くのヒトでは、核DNAとmtDNAの遺伝的多様体の地理的起源は同じであるものの、少数ながら両者が一致しない個体も存在することです。たとえば、核DNAがヨーロッパ人由来の一方で、mtDNAはアジア人由来といった事例です。これは、母系のある時点で異なる地域集団の母親が存在したためです。本論文は、異なるmtDNA系統と核DNA系統を有する人々では、最近生じたmtDNA多様体は、同じmtDNA系統よりも同じ核DNA系統と合致している場合が多い、と推測しています。これは、mtDNAの異質性多様体の生殖細胞発生中の選択圧に核DNAが関与していることを示唆します。
この知見が「実用的観点」で重要となるのは、ミトコンドリア病の治療です。ミバエやマウスでの研究では、mtDNAと核DNAの不適合が寿命や心血管系および代謝系の合併症に影響を与えた、と指摘されています。ミトコンドリア病の治療として、他者からミトコンドリアを提供してもらう方法が用いられていますが、そのさいにmtDNAと核DNAとの適合を調べる必要があるかもしれず、ミトコンドリアの交換は以前に考えられていたほど容易ではないだろう、というわけです。
参考文献:
Wei W. et al.(2019): Germline selection shapes human mitochondrial DNA diversity. Science, 364, 6442, eaau6520.
https://doi.org/10.1126/science.aau6520
本論文は、おもにイギリスの国立衛生研究所の膨大な遺伝データを利用し、異質性mtDNAがどのように母親から子供へと継承されたのか、1526組の母子を含む12975人の全ゲノム配列を分析し、その結果を他の40325人でも検証しました。1526組の母子のうち45.1%で、mtDNAの1%以上に影響を及ぼす異質性が確認されました。女性の生殖細胞発生中に、細胞あたりのmtDNA量は減少します。これはおもに遺伝的浮動により制御されており、子の世代での異質性の水準の相違をもたらしますが、ヒト以外の一部の動物において、この過程でmtDNAの多様体にたいして何らかの選択圧が生じているのではないか、と推測されています。本論文は、ヒトでも同様の選択圧が生じているのか、また核DNAが影響しているのか、検証しました。
この異質性多様体は、タンパク質をコードしていない領域の場合は継承される可能性が高く、逆にタンパク質をコードしている領域の場合は継承される可能性が低い、と明らかになりました。mtDNAの遺伝においては、単純な遺伝的浮動だけではなく、何らかの選択を受けており、継承されやすい多様体とそうではない多様体がありそうだ、というわけです。また、以前に世界中で観察されていたmtDNAの多様体は、新たな多様体よりも継承される可能性が高い、ということも明らかになっています。
核DNAとの関連で注目されるのは、多くのヒトでは、核DNAとmtDNAの遺伝的多様体の地理的起源は同じであるものの、少数ながら両者が一致しない個体も存在することです。たとえば、核DNAがヨーロッパ人由来の一方で、mtDNAはアジア人由来といった事例です。これは、母系のある時点で異なる地域集団の母親が存在したためです。本論文は、異なるmtDNA系統と核DNA系統を有する人々では、最近生じたmtDNA多様体は、同じmtDNA系統よりも同じ核DNA系統と合致している場合が多い、と推測しています。これは、mtDNAの異質性多様体の生殖細胞発生中の選択圧に核DNAが関与していることを示唆します。
この知見が「実用的観点」で重要となるのは、ミトコンドリア病の治療です。ミバエやマウスでの研究では、mtDNAと核DNAの不適合が寿命や心血管系および代謝系の合併症に影響を与えた、と指摘されています。ミトコンドリア病の治療として、他者からミトコンドリアを提供してもらう方法が用いられていますが、そのさいにmtDNAと核DNAとの適合を調べる必要があるかもしれず、ミトコンドリアの交換は以前に考えられていたほど容易ではないだろう、というわけです。
参考文献:
Wei W. et al.(2019): Germline selection shapes human mitochondrial DNA diversity. Science, 364, 6442, eaau6520.
https://doi.org/10.1126/science.aau6520
この記事へのコメント