森恒二『創世のタイガ』第5巻(講談社)
本書は2019年5月に刊行されました。第5巻は、タイガが、住まわせてもらっている現生人類(Homo sapiens)の集落を襲撃してきたネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と戦う場面から始まります。タイガは苦戦しつつも、ウルフ(タイガが飼っている狼)と共同してネアンデルタール人を殺していきます。タイガはネアンデルタール人を殺していく中で、気分が高揚していくのを感じます。タイガは、自分たちが戦っているところを上から眺める、ネアンデルタール人の長らしき男性に気づきますが、集落の救出を優先します。
タイガの仲間たちもネアンデルタール人と戦っていましたが、恐怖のあまりレンは逃げ出し、残りの仲間もネアンデルタール人に殺されそうになります。そこに現れたのがティアリで、ネアンデルタール人相手に善戦しますが、やはり一人では苦戦します。ティアリも殺されそうな状況のなか、タイガとウルフが現れ、ネアンデルタール人を倒していきます。タイガは気が高ぶり雄叫びをあげ、状況が不利と見たネアンデルタール人たちは撤退していきます。タイガはティアリの兄であるナクムたちと喜びを分かち合います。ネアンデルタール人の長らしき男性は、「ベラード、イルドゥガ」と呟いて仲間たちとともに撤退します。これで終わりと思うなよ、というような意味でしょうか。現生人類の死者3人は丁寧に埋葬され、ネアンデルタール人の死者20人以上は一括して埋められました。
勝利に沸く現生人類部族でしたが、ティアリは、タイガが現代人(ティアリからは未来人)の仲間たちと無事を喜んでいる姿を見て、立ち去ります。この戦いの結果、タイガたちは現生人類部族から一層の信頼を得て、柵の中に住むことを許されました。ウルフはネアンデルタール人との戦いの中で、斧や棍棒により怪我をしたため、タイガはその対策としてウルフと訓練に励んでいました。そこへレンが現れ、ネアンデルタール人を殺すのは殺人だ、お前は戦いを楽しんでいた、とタイガを責め立てます。レンは、ネアンデルタール人の遺伝子は現代人にも存在しているのに、ネアンデルタール人を殺してよいのか、とタイガに指摘します。けっきょく二人は分かり合えず、物別れとなります。
ティアリとの関係が微妙になったと感じていたタイガは、ティアリを誘って狩猟に行きます。そこでタイガは、タイガの仲間の女性たちは綺麗なのに、自分は傷があり醜いのではないか、とティアリが悩んでいることを知り、戦うティアリは綺麗だ、と励まします。命を救われたことからタイガに恋心を抱き続けてきたティアリは、タイガの言葉に喜びます。ティアリは日本語も習得しつつあり、一部日本語を交えてタイガと話しています。一方、タイガはこの時代の現生人類の言語を次第に解するようになってきましたが、タイガの仲間たちはほとんど話せないようです。タイガの仲間たちは捕虜にされていた期間もそれなりにありましたし、もっと言語を習得していても不思議ではなさそうなのですが。
狩猟の途中で、ティアリはマンモスの群れに気づきます。現生人類の部族はマンモスのことをドゥブワナと呼んでいます。マンモスの群れが普段より早い時期に近づいていることを知った現生人類の男性たちは、集落一帯の草木をマンモスに食べつくされる前に移動しようと考えます。タイガが仲間たちにそのことを話すと、アラタは、人類はまだマンモスに勝てない段階だ、「地上の王」になっていない、と指摘します。するとレンは、マンモスを滅ぼすつもりか、思いあがっている、と怒ります。
タイガとアラタは、新拠点を探す現生人類に同行し、その中にはティアリもいました。南からマンモスの群が迫り、北にはネアンデルタール人(現生人類の部族はムシェンジと呼んでいます)がいる中、ネアンデルタール人を倒してマンモスを狩る、とタイガは言います。ところが、新たな集落と予定していた土地には、別の現生人類部族がすでにいました。ナクムはこの部族を「東の民」と呼んでいます。ナクムは「東の民」に、先々代のその前からここは我々の土地と決まっている、と主張します。しかし、「東の民」は、そんな大昔の約束は知らない、東の地はマンモス(ドゥブワナ)の群れが絶え間なく出現してもはや人の住める土地ではなくなった、お前たちを皆殺しにしたくないから去れ、と言います。現生人類の2部族の間で今にも戦いが勃発しそうな中、マンモスの群れが出現し、2部族には迎え撃つ力がなく、逃げまどうばかりです。タイガはマンモスに殺されそうになった「東の民」の1人を助けたものの、「東の民」にはかなりの死者が出ました。マンモスの群れが去った後、タイガたちも「東の民」もその場を離れます。
タイガたちが受け入れてもらった部族では、マンモスの群れにどう対処するのか、議論が続きますが、どこに行けばよいか分からず、かといってここに留まってもマンモスの群れに荒らされるだけなので、結論が出ません。賢者ムジャンジャは、何か話したそうに近づいてきたタイガに、発言を促します。タイガは、マンモスを倒そう、と集落の人々に訴えますが、当然のことながら、無謀だとして反対する人は少なくありません。しかし、ネアンデルタール人との戦いでも活躍した「戦士」タイガの勇敢さと知恵に期待する人々もいました。ムジャンジャは、タイガの提案に従うか否か、人々の判断に委ねます。タイガの仲間たちでも、レンだけではなくアラタもマンモスと戦うことに反対します。レンはタイガに、お前は英雄になりたいだけだ、と指摘します。そこへ集落の女性と子供たちが現れ、タイガは改めて、マンモスと戦う決意を固めます。
タイガは、マンモスと戦えるだけの力が自分たちにはある、と集落の人々に納得させるため、狩りに出ます。タイガはリクにチョッキ銛を、集落の女性たちにロープを作ってもらい、オオツノジカを見事に仕留めます。これで集落の男性たちも覚悟を決め、タイガとともにマンモス狩りに出かけます。タイガは火を使ってマンモスの群れを追い立て、1頭のマンモスに標的を定めて、次々にチョッキ銛を投げ込みます。そこへ、マンモスが2頭戻って来て、タイガは崖から落ちてしまい、集落男性たちも逃げ出そうとします。しかし、タイガが立ち上がり、ティアリがそれを集落の男性たちに告げるところで、第5巻は終了です。
第5巻は、タイガの活躍によりネアンデルタール人の襲撃を退けるところから、マンモス狩りの始まりまでが描かれました。タイガの仲間たちの中でも、レンは旧石器時代に馴染めず、ネアンデルタール人の襲撃以降、旧石器時代に適応しているタイガとのすれ違いが多くなっています。タイガたちはいきなり旧石器時代に飛ばされたわけですから、極限環境への適応を強いられているわけで、そこでの人間の対応は普遍的な物語の定番の一つと言えるでしょう。この普遍性は、本作の魅力の一方の基礎になっていると思います。
本作の魅力のもう一方は、人類進化にまつわる謎解き要素です。現生人類はいかにネアンデルタール人との競合で優位に立ったのか、という謎は本作の主題の一つだと思います。現時点では、ネアンデルタール人と現生人類との競合で、現生人類の方が技術面では優位に立っていることを示唆するような描写はありますが、決定的ではないようです。タイガたちのもたらす知恵・技術により、現生人類はネアンデルタール人を圧倒するようになるのかもしれません。そうだとすると、本作の舞台はレヴァントでしょうか。
本作の謎と言えば、ティアリを除いて旧石器時代人の女性が登場しないこともあったのですが、第5巻では多くの現生人類女性が描かれました。女性で狩りや偵察に出るのはティアリだけなので、これまで現生人類の女性は登場しなかった、ということなのでしょう。ティアリが狩りや偵察に出向くのは、ティアリが武勇に優れていることや性格もあるのでしょうが、「まざり者」の子供という出自が大きいのかもしれません。第5巻では現生人類の別部族も描かれましたが、ティアリの父親か母親は、おそらく現生人類の別部族出身なのでしょう。
現生人類とネアンデルタール人との関係も本作の大きな謎だと思います。第5巻でも、ネアンデルタール人の女性は相変わらず登場しませんでした。やはり、現生人類もネアンデルタール人も、戦いや偵察といった危険な行為は男性の担当という設定なのでしょうか。第5巻ではレンが現生人類とネアンデルタール人の交雑について言及していましたが、これは伏線かもしれません。あるいは今後、ネアンデルタール人の女性も登場し、タイガや他の現生人類男性と配偶関係を結ぶような話になるのかもしれません。ともかく、今後の展開がひじょうに楽しみです。
第1巻~第4巻までの記事は以下の通りです。
第1巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201708article_27.html
第2巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201801article_28.html
第3巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201806article_42.html
第4巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201810article_57.html
タイガの仲間たちもネアンデルタール人と戦っていましたが、恐怖のあまりレンは逃げ出し、残りの仲間もネアンデルタール人に殺されそうになります。そこに現れたのがティアリで、ネアンデルタール人相手に善戦しますが、やはり一人では苦戦します。ティアリも殺されそうな状況のなか、タイガとウルフが現れ、ネアンデルタール人を倒していきます。タイガは気が高ぶり雄叫びをあげ、状況が不利と見たネアンデルタール人たちは撤退していきます。タイガはティアリの兄であるナクムたちと喜びを分かち合います。ネアンデルタール人の長らしき男性は、「ベラード、イルドゥガ」と呟いて仲間たちとともに撤退します。これで終わりと思うなよ、というような意味でしょうか。現生人類の死者3人は丁寧に埋葬され、ネアンデルタール人の死者20人以上は一括して埋められました。
勝利に沸く現生人類部族でしたが、ティアリは、タイガが現代人(ティアリからは未来人)の仲間たちと無事を喜んでいる姿を見て、立ち去ります。この戦いの結果、タイガたちは現生人類部族から一層の信頼を得て、柵の中に住むことを許されました。ウルフはネアンデルタール人との戦いの中で、斧や棍棒により怪我をしたため、タイガはその対策としてウルフと訓練に励んでいました。そこへレンが現れ、ネアンデルタール人を殺すのは殺人だ、お前は戦いを楽しんでいた、とタイガを責め立てます。レンは、ネアンデルタール人の遺伝子は現代人にも存在しているのに、ネアンデルタール人を殺してよいのか、とタイガに指摘します。けっきょく二人は分かり合えず、物別れとなります。
ティアリとの関係が微妙になったと感じていたタイガは、ティアリを誘って狩猟に行きます。そこでタイガは、タイガの仲間の女性たちは綺麗なのに、自分は傷があり醜いのではないか、とティアリが悩んでいることを知り、戦うティアリは綺麗だ、と励まします。命を救われたことからタイガに恋心を抱き続けてきたティアリは、タイガの言葉に喜びます。ティアリは日本語も習得しつつあり、一部日本語を交えてタイガと話しています。一方、タイガはこの時代の現生人類の言語を次第に解するようになってきましたが、タイガの仲間たちはほとんど話せないようです。タイガの仲間たちは捕虜にされていた期間もそれなりにありましたし、もっと言語を習得していても不思議ではなさそうなのですが。
狩猟の途中で、ティアリはマンモスの群れに気づきます。現生人類の部族はマンモスのことをドゥブワナと呼んでいます。マンモスの群れが普段より早い時期に近づいていることを知った現生人類の男性たちは、集落一帯の草木をマンモスに食べつくされる前に移動しようと考えます。タイガが仲間たちにそのことを話すと、アラタは、人類はまだマンモスに勝てない段階だ、「地上の王」になっていない、と指摘します。するとレンは、マンモスを滅ぼすつもりか、思いあがっている、と怒ります。
タイガとアラタは、新拠点を探す現生人類に同行し、その中にはティアリもいました。南からマンモスの群が迫り、北にはネアンデルタール人(現生人類の部族はムシェンジと呼んでいます)がいる中、ネアンデルタール人を倒してマンモスを狩る、とタイガは言います。ところが、新たな集落と予定していた土地には、別の現生人類部族がすでにいました。ナクムはこの部族を「東の民」と呼んでいます。ナクムは「東の民」に、先々代のその前からここは我々の土地と決まっている、と主張します。しかし、「東の民」は、そんな大昔の約束は知らない、東の地はマンモス(ドゥブワナ)の群れが絶え間なく出現してもはや人の住める土地ではなくなった、お前たちを皆殺しにしたくないから去れ、と言います。現生人類の2部族の間で今にも戦いが勃発しそうな中、マンモスの群れが出現し、2部族には迎え撃つ力がなく、逃げまどうばかりです。タイガはマンモスに殺されそうになった「東の民」の1人を助けたものの、「東の民」にはかなりの死者が出ました。マンモスの群れが去った後、タイガたちも「東の民」もその場を離れます。
タイガたちが受け入れてもらった部族では、マンモスの群れにどう対処するのか、議論が続きますが、どこに行けばよいか分からず、かといってここに留まってもマンモスの群れに荒らされるだけなので、結論が出ません。賢者ムジャンジャは、何か話したそうに近づいてきたタイガに、発言を促します。タイガは、マンモスを倒そう、と集落の人々に訴えますが、当然のことながら、無謀だとして反対する人は少なくありません。しかし、ネアンデルタール人との戦いでも活躍した「戦士」タイガの勇敢さと知恵に期待する人々もいました。ムジャンジャは、タイガの提案に従うか否か、人々の判断に委ねます。タイガの仲間たちでも、レンだけではなくアラタもマンモスと戦うことに反対します。レンはタイガに、お前は英雄になりたいだけだ、と指摘します。そこへ集落の女性と子供たちが現れ、タイガは改めて、マンモスと戦う決意を固めます。
タイガは、マンモスと戦えるだけの力が自分たちにはある、と集落の人々に納得させるため、狩りに出ます。タイガはリクにチョッキ銛を、集落の女性たちにロープを作ってもらい、オオツノジカを見事に仕留めます。これで集落の男性たちも覚悟を決め、タイガとともにマンモス狩りに出かけます。タイガは火を使ってマンモスの群れを追い立て、1頭のマンモスに標的を定めて、次々にチョッキ銛を投げ込みます。そこへ、マンモスが2頭戻って来て、タイガは崖から落ちてしまい、集落男性たちも逃げ出そうとします。しかし、タイガが立ち上がり、ティアリがそれを集落の男性たちに告げるところで、第5巻は終了です。
第5巻は、タイガの活躍によりネアンデルタール人の襲撃を退けるところから、マンモス狩りの始まりまでが描かれました。タイガの仲間たちの中でも、レンは旧石器時代に馴染めず、ネアンデルタール人の襲撃以降、旧石器時代に適応しているタイガとのすれ違いが多くなっています。タイガたちはいきなり旧石器時代に飛ばされたわけですから、極限環境への適応を強いられているわけで、そこでの人間の対応は普遍的な物語の定番の一つと言えるでしょう。この普遍性は、本作の魅力の一方の基礎になっていると思います。
本作の魅力のもう一方は、人類進化にまつわる謎解き要素です。現生人類はいかにネアンデルタール人との競合で優位に立ったのか、という謎は本作の主題の一つだと思います。現時点では、ネアンデルタール人と現生人類との競合で、現生人類の方が技術面では優位に立っていることを示唆するような描写はありますが、決定的ではないようです。タイガたちのもたらす知恵・技術により、現生人類はネアンデルタール人を圧倒するようになるのかもしれません。そうだとすると、本作の舞台はレヴァントでしょうか。
本作の謎と言えば、ティアリを除いて旧石器時代人の女性が登場しないこともあったのですが、第5巻では多くの現生人類女性が描かれました。女性で狩りや偵察に出るのはティアリだけなので、これまで現生人類の女性は登場しなかった、ということなのでしょう。ティアリが狩りや偵察に出向くのは、ティアリが武勇に優れていることや性格もあるのでしょうが、「まざり者」の子供という出自が大きいのかもしれません。第5巻では現生人類の別部族も描かれましたが、ティアリの父親か母親は、おそらく現生人類の別部族出身なのでしょう。
現生人類とネアンデルタール人との関係も本作の大きな謎だと思います。第5巻でも、ネアンデルタール人の女性は相変わらず登場しませんでした。やはり、現生人類もネアンデルタール人も、戦いや偵察といった危険な行為は男性の担当という設定なのでしょうか。第5巻ではレンが現生人類とネアンデルタール人の交雑について言及していましたが、これは伏線かもしれません。あるいは今後、ネアンデルタール人の女性も登場し、タイガや他の現生人類男性と配偶関係を結ぶような話になるのかもしれません。ともかく、今後の展開がひじょうに楽しみです。
第1巻~第4巻までの記事は以下の通りです。
第1巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201708article_27.html
第2巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201801article_28.html
第3巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201806article_42.html
第4巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201810article_57.html
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