佐藤信『日本古代の歴史6 列島の古代』

 『日本古代の歴史』全6巻の第6巻として2019年3月に吉川弘文館より刊行されました。本書は第1巻~第5巻で扱われた、更新世~平安時代にかけての概説となっており、ユーラシア東部世界を視野に入れた叙述になっていることと、考古学的成果も積極的に取り入れているのが特徴です。本書は、更新世~平安時代という長期間を対象とした概説だけに(更新世~縄文時代への言及はきわめて少ないので、実質的には弥生時代以降となりますが)、第1巻~第5巻と比較してやや薄くなっていることや、源頼朝が征夷大将軍に固執していたとの認識など、疑問の残る見解があることは仕方ないかな、とは思います。

 ただ、10世紀には国司のなかでも長官に権限が集中していったことが再度述べられているように、更新世~平安時代という長期間を対象とした概説として、こうした繰り返しはやや構成に問題があるように思います。あるいは、これは本書の刊行の遅れと関連しているのかもしれません。また、長期間を対象とした概説として、考古学的成果も取り入れたいのは分かるとしても、平城京の解説はやや細かすぎるのではないか、と思います。本書は、中央政治史・地方情勢・文化史と多岐にわたっての解説となっているだけに、平城京に関する細かい考古学的成果は、どうも浮いているように思います。どうも本書は、大まかな概説とするのか、特定の観点からの通史とするのか、焦点が定まっていないように思います。率直に言って、『日本古代の歴史』第1巻~第5巻まではなかなか楽しんで読み進められただけに、本書は期待外れでした。ただ、これは期待値が高かったからでもあり、弥生時代~平安時代の概説としては、一読の価値があると思います。


なお、第1巻~第5巻の記事は以下の通りです。

木下正史『日本古代の歴史1 倭国のなりたち』
https://sicambre.seesaa.net/article/201307article_28.html

篠川賢『日本古代の歴史2 飛鳥と古代国家』
https://sicambre.seesaa.net/article/201312article_10.html

西宮秀紀『日本古代の歴史3 奈良の都と天平文化』
https://sicambre.seesaa.net/article/201402article_20.html

佐々木恵介『日本古代の歴史4 平安京の時代』
https://sicambre.seesaa.net/article/201402article_25.html

坂上康俊『日本古代の歴史5 摂関政治と地方社会』
https://sicambre.seesaa.net/article/201601article_17.html

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