『卑弥呼』第16話「情報戦」
『ビッグコミックオリジナル』2019年5月20日号掲載分の感想です。前回は、ヌカデがトメ将軍の陣地に行き、山社国からの使者と名乗り、トメ将軍との面会を求めるところで終了しました。今回は、トメ将軍とヌカデが会見する場面から始まります。トメ将軍はまず、1日待たせたことをヌカデに謝ります。トメ将軍は那国と暈国の境の陣地を抜け、穂波(ホミ)国に赴いていた、とヌカデに説明します。那軍の半分を東南に移動させ、そこから暈を攻めようとして穂波の将軍に協力を求めたものの、暈と同盟関係にある穂波は即座に断った、とトメ将軍はヌカデに打ち明けます。トメ将軍が率直に打ち明けたことにヌカデが驚くと、色香のあるお姫様には嘘をつけない、とトメ将軍は言います。すると、ヌカデは鋭い目つきでトメ将軍を睨みます。トメ将軍は、ヌカデが紫の衣を着ていたため、高貴な出自と考えていましたが、戦女(イクサメ)か女忍(メノウ)だと見抜きます。自分が女好きなのを知って寝所での暗殺を命じられたのか、とトメ将軍に尋ねられたヌカデは、最初はそのつもりだったが、日見子たるヤノハの命で策を変えた、と答えます。トメ将軍は、ヌカデが自分と対峙する暈のオシクマ将軍を裏切った、と悟ります。
トメ将軍は話題を変え、暈で新たな日見子が顕われ、山社(ヤマト)に逃げ込むという大騒動が勃発した、とヌカデに語りかけます。するとヌカデは、日見子(たるヤノハ)は逃げたのではなく、山社の独立を宣言したのだ、と反論します。トメ将軍は、山社を国にするとは考えたものだ、と感心したように言います。トメ将軍に用件を問われたヌカデは、山社で新たに生まれた国を支持して助けてもらいたい、と願い出ます。トメ将軍に山社を助ける理由を問われたヌカデは、新たな日見子は倭国の支配を考えておらず、国々の自治を尊重するつもりだ、と答えます。トメ将軍に新たな日見子が何者なのか、尋ねられたヌカデは、この百年で初めてトンカラリンの儀式より生還した祈祷女(イノリメ)で、正真正銘。天照大神に選ばれたお方だ、と答えます。するとトメ将軍は、偽物か本物かはどうでもよい、人としての日見子を知りたい、とヌカデに尋ねます。ヌカデは、新たな日見子の名前はヤノハといい、日向(ヒムカ)の日の守(ヒノモリ)の養女で、秀でた戦女だ、と答えます。戦場で会いたかったな、と言ったトメ将軍は、ヤノハのどこを気に入ったのか、ヌカデに尋ねます。ヤノハはこのままでは暈国のタケル王に嬲り殺しにされるわけで、なぜ負ける側につくのか、というわけです。ヌカデは、ヤノハの生きる力に惚れたからだ、と答えます。ヤノハは生き残るためなら躊躇なく百人、千人の命を犠牲にする鬼鬼しき心を有している一方で、倭国を平和にせねばならないと考える賢き心も持ち合わせているからだ、というわけです。自分はヤノハに賭けた、どうせ短い命なら、目的をもって全力で生きたい、と決意を述べるヌカデにたいして、面白いではないか、とトメ将軍は言います。
その頃山社では、ミマト将軍が娘のイクメに、鞠智彦(ククチヒコ)の命に従い、ヤノハを鞠智の里に連行することにした、と告げていました。イクメは反対しますが、イクメの言う通りヤノハが本物の日見子だとしても、勝ち目はなく、自分は戦人なので負ける戦いはしないし、恩のある人を裏切れない、とミマト将軍はイクメを諭します。ミマト将軍は、イクメと同様にタケル王が偽の日見彦だと言知っていましたが、吉野(吉野ケ里遺跡のことだと思います)を捨てた我々一族を拾ってくれた鞠智彦には恩義がある、とイクメに言います。ミマト将軍は、タケル王の命にしたがってヤノハの手足を砕き、目鼻を削ぎたくないし、暈の「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)の祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメの命に従い、種智院の私怨にも巻き込まれたくない、せめてもの誠意が鞠智への護送だ、とイクメに説明します。するとイクメは、ならぶ自分はここで死ぬ、一生のお願いなので、自分と日見子様(たるヤノハ)を見逃してもらえないだろうか、と父のミマト将軍に懇願します。ミマト将軍が気づいた時にはヤノハとイクメはどこかに出奔し、行方不明になったと報告してほしい、というわけです。ミマト将軍は困惑した様子で、どこに逃げるのだ、とイクメに尋ねます。するとイクメは、渡海して東に向かう、と言います。豊秋津島(トヨアキツシマ)の日出処(ヒイズルトコロ)にあるという新たな山社を探す、というわけです。豊秋津島とは本州を指すと思われます。筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の王たちは信じているようだが、サヌ王が築いた日下(ヒノモト)の国はただの言い伝えかもしれない、とミマト将軍は東方行きを諦めるよう、イクメを説得します。しかしイクメは、ヤノハとともに東方に行く、と固い決意を示します。説得は無理だと判断したのか、考えさせてくれ、とミマト将軍は言い、イクメは感謝します。ミマト将軍は話題を変えて、息子のミマアキが帰ってきたことをイクメに伝えます。ミマアキはオシクマ将軍のもと、暈と那の最前線で修行しており、兵500人が増員されたので、ミマト将軍が呼び戻した、というわけです。ミマト将軍は、息子が一人前の武人に育ったことを喜び、イクメも弟との再会をたいそう喜びます。
鞠智の里では、普段は鹿屋(カノヤ)にいるタケル王が鞠智彦と会っていました。わざわざ鞠智の里に来たタケル王に鞠智彦が恐縮して見せると、今や一刻の猶予もない、とタケル王は言います。それほど切迫した事態ではないと思う、と鞠智彦は誤魔化そうとしますが、自分と天照大神を貶める輩が出たのに、何を悠長にしているのだ、とタケル王は鞠智彦を嘆息します。タケル王は焦っているのでしょうが、鞠智彦を信頼しているためか、詰問するといった雰囲気ではありません。今すぐ鞠智彦に預けた自分の手勢を返してもらいたい、とタケル王は鞠智彦に言いますが、すでにタケル王の手勢は暈と那の国境に配備済みだ、と鞠智彦は答えます。するとタケル王は、すぐ呼び戻すよう、鞠智彦に伝えます。1000人の兵で山社を囲めば、偽の日見子も降伏するだろう、というわけです。鞠智彦は、タケル王の手勢は500人のはずなのに、と困惑します。するとタケル王は、オシクマ将軍の兵を含めて千人だ、と答えます。つまり、那との最前線の全軍を山社に向かわせるわけです。那との最前線から山社まで行軍に3日、偽の日見子(たるヤノハ)の拘束に1日、最前線までの帰還に4日の、ほんの8日だけだ、とタケル王は鞠智彦に説明します。すると鞠智彦は、ミマト将軍が日見子を拘束するのは時間の問題だ、とタケル王に進言します。余所者のミマト将軍を信じるのか、とタケル王に問われた鞠智彦は、自信に満ちた表情で、ミマト将軍は絶対に裏切らない、と答えます。
山社では夜を迎え、寝所にいるヤノハにアカメが一連の経緯を報告していました。那と暈の戦況をヤノハに問われたアカメは、暈の兵は1000人で那の兵は500人なので、兵力は暈が圧倒的に優位だ、と答えます。兵数は関係ないだろう、とヤノハに指摘されたアカメは、その通りで、暈の兵は疲弊している一方で、那の兵の士気はきわめて高く、大河(筑後川と思われます)を渡ることさえできれば、トメ将軍の率いる那軍が有利だ、と答えます。何としてもトメ将軍には大河を渡ってもらわねば、と言うヤノハに、ミマト将軍がどう決断したのか、アカメは尋ねます。するとヤノハは、ミマト将軍は律義に人なので、自分を拘束しようと決意したはずだ、と答えます。狼狽するアカメにたいしてヤノハは、指示を伝えます。それは、鹿屋と鞠智の里で、ミマト将軍がタケル王と鞠智彦を裏切り、新たな日見子の下、山社の独立を策している、という噂を流すことでした。飛語は志能備(シノビ)が最も得意とする技なので容易ですが、と言うアカメは、その噂がヤノハにとって吉と出るのか、危ぶんでいました。自分の策が凶と出ても、それはそれで面白いではないか、とヤノハが不適に言うところで、今回は終了です。
今回も、主要人物の思惑と駆け引きが描かれ、たいへん楽しめました。ずっと掲載順が良いので、読者から支持を得ているのでしょうか。まあ、『ビッグコミックオリジナル』が、人気順に作品を掲載しているのか、定かではありませんが。今回まず注目されるのは、これまで何度も言及されており、やっと初登場となった那国のトメ将軍です。トメ将軍は二枚目の優秀な人物といった感じで、違和感のない人物造形になっていました。トメ将軍は那国要人のウラからは信頼されていないような感じでしたが(第14話)、これはトメ将軍が武人として優秀ではないというよりは、庶民出身であることと、那国の方針を巡る対立が関わっているのではないか、と思います。この点も、今後描かれるのではないか、と期待しています。トメ将軍がヌカデの提案にどう答えるのか、まだ分かりませんが、トメ将軍の決断は物語を大きく動かすことになりそうです。
暈では、タケル王がヤノハをすぐにでも事実上の死刑にしたいと考えているのにたいして、ヤノハの能力に興味を抱いている鞠智彦は、ヤノハを鞠智の里に連れてきて、面会しようとしています。タケル王は鞠智彦を信頼しているようですし、鞠智彦はタケル王に少なくとも表面上は敬意を払っていますが、両者の思惑には違いがあるので、二人のやり取りは緊張感のある面白いものとなっています。鞠智彦はヤノハをどうするつもりなのか、まだ明示されていないのですが、優秀なので自分の配下として使おうとしているのでしょうか。
ミマト将軍は、ヤノハと鞠智彦が考えているように、義理堅い武人のようです。ミマト将軍は、今では没落したかつて筑紫島で最大だった吉の国の出身で、鞠智彦に取り立ててもらった恩義に今でも強く感じ入っているようです。しかし、暈では余所者だからということなのか、家族の絆を大事にしているように見えるミマト将軍は娘のイクメに甘いところがあり、今回も、娘とヤノハの逃亡を見逃すべきか、悩んでいました。そこで重要な役割を担いそうなのが、今回初登場となったミマト将軍の息子でイクメの弟となるミマアキです。トメ将軍と同じく今回が初登場となったミマアキですが、トメ将軍がこれまでたびたび言及されていたのにたいして、ミマアキの存在は前回までまったく明らかにされていませんでした。しかし、ミマアキは同じ作画者の『天智と天武~新説・日本書紀~』の主人公である中大兄皇子(天智天皇)と大海人皇子(天武天皇)を足して2で割り、さらに中大兄と大海人、とくに中大兄の邪悪な要素を取り除いたような爽やかな外見になっていましたから、重要人物であることは間違いないと思います。何よりも、ミマアキという名前は、『日本書紀』の御間城入彦五十瓊殖天皇、つまり崇神天皇を想起させますから、その意味でも重要人物ではないか、と思います。イクメは父のミマト将軍に、ヤノハとともにおそらくは本州である豊秋津島へと渡り、その昔サヌ王(おそらくは『日本書紀』の神武天皇)が日向から東征して築いたという新たな山社を目指すつもりのようです。もしイクメの計画通りに話が進むならば、本作の邪馬台国は現在の有力説にしたがって奈良県の纏向遺跡一帯に設定されているのかもしれません。これまでは、『三国志』の記述と本作の地理設定から、現在の宮崎県である日向が邪馬台国で、卑弥呼(日見子)となったヤノハの晩年に纏向遺跡一帯に「遷都」するのではないか、と予想していたのですが、意外と早い段階で舞台は現在の奈良県に移るのかもしれません。私の予想はともかく、魏や呉も登場しそうで、たいへん壮大な物語になりそうなので、今後の展開がたいへん楽しみです。
トメ将軍は話題を変え、暈で新たな日見子が顕われ、山社(ヤマト)に逃げ込むという大騒動が勃発した、とヌカデに語りかけます。するとヌカデは、日見子(たるヤノハ)は逃げたのではなく、山社の独立を宣言したのだ、と反論します。トメ将軍は、山社を国にするとは考えたものだ、と感心したように言います。トメ将軍に用件を問われたヌカデは、山社で新たに生まれた国を支持して助けてもらいたい、と願い出ます。トメ将軍に山社を助ける理由を問われたヌカデは、新たな日見子は倭国の支配を考えておらず、国々の自治を尊重するつもりだ、と答えます。トメ将軍に新たな日見子が何者なのか、尋ねられたヌカデは、この百年で初めてトンカラリンの儀式より生還した祈祷女(イノリメ)で、正真正銘。天照大神に選ばれたお方だ、と答えます。するとトメ将軍は、偽物か本物かはどうでもよい、人としての日見子を知りたい、とヌカデに尋ねます。ヌカデは、新たな日見子の名前はヤノハといい、日向(ヒムカ)の日の守(ヒノモリ)の養女で、秀でた戦女だ、と答えます。戦場で会いたかったな、と言ったトメ将軍は、ヤノハのどこを気に入ったのか、ヌカデに尋ねます。ヤノハはこのままでは暈国のタケル王に嬲り殺しにされるわけで、なぜ負ける側につくのか、というわけです。ヌカデは、ヤノハの生きる力に惚れたからだ、と答えます。ヤノハは生き残るためなら躊躇なく百人、千人の命を犠牲にする鬼鬼しき心を有している一方で、倭国を平和にせねばならないと考える賢き心も持ち合わせているからだ、というわけです。自分はヤノハに賭けた、どうせ短い命なら、目的をもって全力で生きたい、と決意を述べるヌカデにたいして、面白いではないか、とトメ将軍は言います。
その頃山社では、ミマト将軍が娘のイクメに、鞠智彦(ククチヒコ)の命に従い、ヤノハを鞠智の里に連行することにした、と告げていました。イクメは反対しますが、イクメの言う通りヤノハが本物の日見子だとしても、勝ち目はなく、自分は戦人なので負ける戦いはしないし、恩のある人を裏切れない、とミマト将軍はイクメを諭します。ミマト将軍は、イクメと同様にタケル王が偽の日見彦だと言知っていましたが、吉野(吉野ケ里遺跡のことだと思います)を捨てた我々一族を拾ってくれた鞠智彦には恩義がある、とイクメに言います。ミマト将軍は、タケル王の命にしたがってヤノハの手足を砕き、目鼻を削ぎたくないし、暈の「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)の祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメの命に従い、種智院の私怨にも巻き込まれたくない、せめてもの誠意が鞠智への護送だ、とイクメに説明します。するとイクメは、ならぶ自分はここで死ぬ、一生のお願いなので、自分と日見子様(たるヤノハ)を見逃してもらえないだろうか、と父のミマト将軍に懇願します。ミマト将軍が気づいた時にはヤノハとイクメはどこかに出奔し、行方不明になったと報告してほしい、というわけです。ミマト将軍は困惑した様子で、どこに逃げるのだ、とイクメに尋ねます。するとイクメは、渡海して東に向かう、と言います。豊秋津島(トヨアキツシマ)の日出処(ヒイズルトコロ)にあるという新たな山社を探す、というわけです。豊秋津島とは本州を指すと思われます。筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の王たちは信じているようだが、サヌ王が築いた日下(ヒノモト)の国はただの言い伝えかもしれない、とミマト将軍は東方行きを諦めるよう、イクメを説得します。しかしイクメは、ヤノハとともに東方に行く、と固い決意を示します。説得は無理だと判断したのか、考えさせてくれ、とミマト将軍は言い、イクメは感謝します。ミマト将軍は話題を変えて、息子のミマアキが帰ってきたことをイクメに伝えます。ミマアキはオシクマ将軍のもと、暈と那の最前線で修行しており、兵500人が増員されたので、ミマト将軍が呼び戻した、というわけです。ミマト将軍は、息子が一人前の武人に育ったことを喜び、イクメも弟との再会をたいそう喜びます。
鞠智の里では、普段は鹿屋(カノヤ)にいるタケル王が鞠智彦と会っていました。わざわざ鞠智の里に来たタケル王に鞠智彦が恐縮して見せると、今や一刻の猶予もない、とタケル王は言います。それほど切迫した事態ではないと思う、と鞠智彦は誤魔化そうとしますが、自分と天照大神を貶める輩が出たのに、何を悠長にしているのだ、とタケル王は鞠智彦を嘆息します。タケル王は焦っているのでしょうが、鞠智彦を信頼しているためか、詰問するといった雰囲気ではありません。今すぐ鞠智彦に預けた自分の手勢を返してもらいたい、とタケル王は鞠智彦に言いますが、すでにタケル王の手勢は暈と那の国境に配備済みだ、と鞠智彦は答えます。するとタケル王は、すぐ呼び戻すよう、鞠智彦に伝えます。1000人の兵で山社を囲めば、偽の日見子も降伏するだろう、というわけです。鞠智彦は、タケル王の手勢は500人のはずなのに、と困惑します。するとタケル王は、オシクマ将軍の兵を含めて千人だ、と答えます。つまり、那との最前線の全軍を山社に向かわせるわけです。那との最前線から山社まで行軍に3日、偽の日見子(たるヤノハ)の拘束に1日、最前線までの帰還に4日の、ほんの8日だけだ、とタケル王は鞠智彦に説明します。すると鞠智彦は、ミマト将軍が日見子を拘束するのは時間の問題だ、とタケル王に進言します。余所者のミマト将軍を信じるのか、とタケル王に問われた鞠智彦は、自信に満ちた表情で、ミマト将軍は絶対に裏切らない、と答えます。
山社では夜を迎え、寝所にいるヤノハにアカメが一連の経緯を報告していました。那と暈の戦況をヤノハに問われたアカメは、暈の兵は1000人で那の兵は500人なので、兵力は暈が圧倒的に優位だ、と答えます。兵数は関係ないだろう、とヤノハに指摘されたアカメは、その通りで、暈の兵は疲弊している一方で、那の兵の士気はきわめて高く、大河(筑後川と思われます)を渡ることさえできれば、トメ将軍の率いる那軍が有利だ、と答えます。何としてもトメ将軍には大河を渡ってもらわねば、と言うヤノハに、ミマト将軍がどう決断したのか、アカメは尋ねます。するとヤノハは、ミマト将軍は律義に人なので、自分を拘束しようと決意したはずだ、と答えます。狼狽するアカメにたいしてヤノハは、指示を伝えます。それは、鹿屋と鞠智の里で、ミマト将軍がタケル王と鞠智彦を裏切り、新たな日見子の下、山社の独立を策している、という噂を流すことでした。飛語は志能備(シノビ)が最も得意とする技なので容易ですが、と言うアカメは、その噂がヤノハにとって吉と出るのか、危ぶんでいました。自分の策が凶と出ても、それはそれで面白いではないか、とヤノハが不適に言うところで、今回は終了です。
今回も、主要人物の思惑と駆け引きが描かれ、たいへん楽しめました。ずっと掲載順が良いので、読者から支持を得ているのでしょうか。まあ、『ビッグコミックオリジナル』が、人気順に作品を掲載しているのか、定かではありませんが。今回まず注目されるのは、これまで何度も言及されており、やっと初登場となった那国のトメ将軍です。トメ将軍は二枚目の優秀な人物といった感じで、違和感のない人物造形になっていました。トメ将軍は那国要人のウラからは信頼されていないような感じでしたが(第14話)、これはトメ将軍が武人として優秀ではないというよりは、庶民出身であることと、那国の方針を巡る対立が関わっているのではないか、と思います。この点も、今後描かれるのではないか、と期待しています。トメ将軍がヌカデの提案にどう答えるのか、まだ分かりませんが、トメ将軍の決断は物語を大きく動かすことになりそうです。
暈では、タケル王がヤノハをすぐにでも事実上の死刑にしたいと考えているのにたいして、ヤノハの能力に興味を抱いている鞠智彦は、ヤノハを鞠智の里に連れてきて、面会しようとしています。タケル王は鞠智彦を信頼しているようですし、鞠智彦はタケル王に少なくとも表面上は敬意を払っていますが、両者の思惑には違いがあるので、二人のやり取りは緊張感のある面白いものとなっています。鞠智彦はヤノハをどうするつもりなのか、まだ明示されていないのですが、優秀なので自分の配下として使おうとしているのでしょうか。
ミマト将軍は、ヤノハと鞠智彦が考えているように、義理堅い武人のようです。ミマト将軍は、今では没落したかつて筑紫島で最大だった吉の国の出身で、鞠智彦に取り立ててもらった恩義に今でも強く感じ入っているようです。しかし、暈では余所者だからということなのか、家族の絆を大事にしているように見えるミマト将軍は娘のイクメに甘いところがあり、今回も、娘とヤノハの逃亡を見逃すべきか、悩んでいました。そこで重要な役割を担いそうなのが、今回初登場となったミマト将軍の息子でイクメの弟となるミマアキです。トメ将軍と同じく今回が初登場となったミマアキですが、トメ将軍がこれまでたびたび言及されていたのにたいして、ミマアキの存在は前回までまったく明らかにされていませんでした。しかし、ミマアキは同じ作画者の『天智と天武~新説・日本書紀~』の主人公である中大兄皇子(天智天皇)と大海人皇子(天武天皇)を足して2で割り、さらに中大兄と大海人、とくに中大兄の邪悪な要素を取り除いたような爽やかな外見になっていましたから、重要人物であることは間違いないと思います。何よりも、ミマアキという名前は、『日本書紀』の御間城入彦五十瓊殖天皇、つまり崇神天皇を想起させますから、その意味でも重要人物ではないか、と思います。イクメは父のミマト将軍に、ヤノハとともにおそらくは本州である豊秋津島へと渡り、その昔サヌ王(おそらくは『日本書紀』の神武天皇)が日向から東征して築いたという新たな山社を目指すつもりのようです。もしイクメの計画通りに話が進むならば、本作の邪馬台国は現在の有力説にしたがって奈良県の纏向遺跡一帯に設定されているのかもしれません。これまでは、『三国志』の記述と本作の地理設定から、現在の宮崎県である日向が邪馬台国で、卑弥呼(日見子)となったヤノハの晩年に纏向遺跡一帯に「遷都」するのではないか、と予想していたのですが、意外と早い段階で舞台は現在の奈良県に移るのかもしれません。私の予想はともかく、魏や呉も登場しそうで、たいへん壮大な物語になりそうなので、今後の展開がたいへん楽しみです。
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