Vybarr Cregan-Reid『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』

 ヴァイバー・クリガン=リード(Vybarr Cregan-Reid)著、水谷淳・鍛原多惠子訳、真柴隆弘解説で、飛鳥新社より2018年12月に刊行されました。原書の刊行は2018年です。本書は、現代社会の環境の多くが人間にとって「ミスマッチ」となっており、それが腰痛・糖尿病・肥満・近視などの要因になっている、と指摘します。『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病』(関連記事)と類似した主題の本ですが、同書は原書の刊行が2013年なのにたいして、本書は原書の刊行が2018年なので、その分新たな知見も得られるので、併せて読むとよいでしょう。

 本書が強調しているのは、現代人の多くがあまりにも身体を動かさない生活を送っており、それがさまざまな疾患の根本的原因になっている、ということです。人間は身体を動かさずに同じ姿勢でいるような環境に適応してきたわけではないので、そうした姿勢を要求する時間の長い生活は現代人にとって「ミスマッチ」になっている、というわけです。本書はこの問題について、椅子に座っての仕事が増大してきたように、労働環境の改善も指摘していますが、食器洗浄機の使用や映像試聴や読書など私生活、さらには子供の頃からの学校での教育環境(長時間の座学)といった習慣も改善されねばならない、と指摘します。

 本書は人間の生活が環境に適応できなくなった契機として、まず農耕の開始を挙げています。これにより以前より進んでいた定住生活が確立し、狩猟採集生活よりも運動量が低下しやすくなったこともありますが、何よりも、食生活が狩猟採集生活よりも炭水化物に偏重した契機になったことを本書は問題としています。それ以上に本書が問題としているのは産業革命・近代化です。これにより、長時間の同じ姿勢による労働慣行が確立し、人間の健康を損なうことになった、と本書は指摘します。本書は、更新世の狩猟採集民よりも新石器時代の農耕民の方が骨密度は低かったものの、現代人はさらに激減している、との研究を引用しています(関連記事)。本書は、人類進化に関する解説は期待していたほど多くはなかったのですが、しっかりとした根拠のあるかなり「実用的」な本になっており、私も自分の生活習慣を見直さねばならないな、と改めて認識させられました。人類進化に関心のない人にもお勧めの一冊です。


参考文献:
Cregan-Reid V.著(2018)、水谷淳・鍛原多惠子訳『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』(飛鳥新社、原書の刊行は2018年)

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