アウストラロピテクス・セディバがホモ属の祖先である可能性は低い
アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus)がホモ属の祖先なのか、検証した研究(Du, and Alemseged., 2019)が報道されました。セディバはホモ属的な特徴を有するアウストラロピテクス属化石として知られており、現時点では、南アフリカ共和国のマラパ(Malapa)遺跡でしか確認されていません(関連記事)。セディバの推定年代は197万7000年±7000年前です(関連記事)。セディバの歯はアフリカ東部のアウストラロピテクス属よりもセディバと同じくアフリカ南部で発見されているアウストラロピテクス・アフリカヌス (Australopithecus africanus)に似ており、セディバの下顎はアフリカヌスと異なる一方で初期ホモ属と似ている、と指摘されています(関連記事)。
セディバを報告した研究者たちは、セディバが現代人も含むホモ属の祖先と主張しましたが、セディバの推定年代は197万年前頃なので、ホモ属の祖先である可能性は低い、と考える研究者が2010年の公表当初から多かったように思います。すでにホモ・ハビリス(Homo habilis)と分類されている233万年前頃の化石(A.L. 666-1)が発見されていたからです。その後、エチオピアで発見されたホモ属的特徴を備える280万~275万年前頃の下顎骨が2015年に公表され、種区分は未定であるもののホモ属と分類されたことから(関連記事)、セディバをホモ属の祖先とする見解はさらに苦しくなった感があります。
本論文は諸文献を調べ、セディバがホモ属の祖先なのか、検証しました。本論文は、先種の化石よりも子孫種の化石の方が古いこともあり得る、と指摘します。祖先種の一部から子孫種が分岐し、その後で祖先種と子孫種が一定期間共存しているような場合です。セディバがホモ属の祖先であるには、セディバの一部からホモ属系統が分岐し、ホモ属系統にホモ属の派生的特徴が出現した後も、少なくとも80万年間はセディバが存続してホモ属と共存しなければなりません。
本論文は諸文献から、人類系統において祖先-子孫関係にあると仮定される28の組み合わせを調べました。そのうち、祖先の化石が子孫の化石より新しいのは1例だけでした。インドネシアで発見された広義のホモ・エレクトス(Homo erectus)化石(Kedung Brubus 1)の年代は80万~70万年前頃で、広義のエレクトスから派生したと考えられるアンテセッサー(Homo antecessor)は90万~80万年前頃までさかのぼりのます。本論文は、人類系統において種の平均的な存続期間は約100万年で、祖先の化石が子孫の最古の化石より80万年新しくなる可能性は限りなく可能性は0に近い、と指摘します。
一方、エチオピアで発見されたホモ属的特徴を備える280万~275万年前頃の下顎骨について、ホモ属と分類することに慎重な見解も提示されているので、より広くホモ属と認められている233万年前頃の上顎化石(A.L. 666-1)を最古のホモ属標本とみなし、人類種の平均的な存続期間をアフリカの大型哺乳類の平均的な種存続期間の上限である約200万年と仮定し、改めてセディバがホモ属の祖先となり得るのか、検証しました。その結果、この過程でも、セディバがホモ属の祖先である可能性は0に近い、と本論文は指摘します。
本論文は、セディバがホモ属の祖先ではないとすると、ホモ属の祖先の最有力候補をアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)とする以前からの見解が依然として有効だろう、と指摘します。アファレンシスは、最古のホモ属化石として有力な、280万~275万年前頃のホモ属的な下顎やハビリスと分類されている上顎化石(A.L. 666-1)と同じくエチオピアで発見され、280万~275万年前頃のホモ属的な下顎にはアファレンシス的な特徴も認められており、300万年前頃というアファレンシスの下限年代は280万~275万年前頃に近いからです。
現時点では、ホモ属の祖先に関して、アファレンシス(の一部)から進化したとする本論文の見解が最有力だと言えるでしょう。では、セディバのホモ属的特徴をどう説明すべきなのか、という問題が生じます。いくつかの想定が可能でしょうが、一つは収斂進化です。アウストラロピテクス属系統の一部でも、独立してホモ属と類似した特徴が一部進化した、というわけです。より可能性が高そうなのは、300万年前頃にアウストラロピテクス属においてホモ属的特徴を備えた系統が出現し、その後にホモ属系統とセディバ系統に分岐した、という想定です。さらに、ホモ属において異なる系統間の交雑が珍しくなく(関連記事)、それはチンパンジー属(関連記事)やヒヒ属(関連記事)でも同様だったことから、アウストラロピテクス属系統と初期ホモ属系統との間でも交雑があり、セディバはホモ属系統の遺伝的影響を受けたアウストラロピテクス属系統である可能性も想定されます。ホモ属の起源の解明には新たな化石の発見が必要なので、短期間に大きく進展する可能性は低そうですが、今後も研究の進展をできるだけ追いかけていくつもりです。
参考文献:
Du A, and Alemseged Z.(2019): Temporal evidence shows Australopithecus sediba is unlikely to be the ancestor of Homo. Science Advances, 5, 5, eaav9038.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aav9038
セディバを報告した研究者たちは、セディバが現代人も含むホモ属の祖先と主張しましたが、セディバの推定年代は197万年前頃なので、ホモ属の祖先である可能性は低い、と考える研究者が2010年の公表当初から多かったように思います。すでにホモ・ハビリス(Homo habilis)と分類されている233万年前頃の化石(A.L. 666-1)が発見されていたからです。その後、エチオピアで発見されたホモ属的特徴を備える280万~275万年前頃の下顎骨が2015年に公表され、種区分は未定であるもののホモ属と分類されたことから(関連記事)、セディバをホモ属の祖先とする見解はさらに苦しくなった感があります。
本論文は諸文献を調べ、セディバがホモ属の祖先なのか、検証しました。本論文は、先種の化石よりも子孫種の化石の方が古いこともあり得る、と指摘します。祖先種の一部から子孫種が分岐し、その後で祖先種と子孫種が一定期間共存しているような場合です。セディバがホモ属の祖先であるには、セディバの一部からホモ属系統が分岐し、ホモ属系統にホモ属の派生的特徴が出現した後も、少なくとも80万年間はセディバが存続してホモ属と共存しなければなりません。
本論文は諸文献から、人類系統において祖先-子孫関係にあると仮定される28の組み合わせを調べました。そのうち、祖先の化石が子孫の化石より新しいのは1例だけでした。インドネシアで発見された広義のホモ・エレクトス(Homo erectus)化石(Kedung Brubus 1)の年代は80万~70万年前頃で、広義のエレクトスから派生したと考えられるアンテセッサー(Homo antecessor)は90万~80万年前頃までさかのぼりのます。本論文は、人類系統において種の平均的な存続期間は約100万年で、祖先の化石が子孫の最古の化石より80万年新しくなる可能性は限りなく可能性は0に近い、と指摘します。
一方、エチオピアで発見されたホモ属的特徴を備える280万~275万年前頃の下顎骨について、ホモ属と分類することに慎重な見解も提示されているので、より広くホモ属と認められている233万年前頃の上顎化石(A.L. 666-1)を最古のホモ属標本とみなし、人類種の平均的な存続期間をアフリカの大型哺乳類の平均的な種存続期間の上限である約200万年と仮定し、改めてセディバがホモ属の祖先となり得るのか、検証しました。その結果、この過程でも、セディバがホモ属の祖先である可能性は0に近い、と本論文は指摘します。
本論文は、セディバがホモ属の祖先ではないとすると、ホモ属の祖先の最有力候補をアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)とする以前からの見解が依然として有効だろう、と指摘します。アファレンシスは、最古のホモ属化石として有力な、280万~275万年前頃のホモ属的な下顎やハビリスと分類されている上顎化石(A.L. 666-1)と同じくエチオピアで発見され、280万~275万年前頃のホモ属的な下顎にはアファレンシス的な特徴も認められており、300万年前頃というアファレンシスの下限年代は280万~275万年前頃に近いからです。
現時点では、ホモ属の祖先に関して、アファレンシス(の一部)から進化したとする本論文の見解が最有力だと言えるでしょう。では、セディバのホモ属的特徴をどう説明すべきなのか、という問題が生じます。いくつかの想定が可能でしょうが、一つは収斂進化です。アウストラロピテクス属系統の一部でも、独立してホモ属と類似した特徴が一部進化した、というわけです。より可能性が高そうなのは、300万年前頃にアウストラロピテクス属においてホモ属的特徴を備えた系統が出現し、その後にホモ属系統とセディバ系統に分岐した、という想定です。さらに、ホモ属において異なる系統間の交雑が珍しくなく(関連記事)、それはチンパンジー属(関連記事)やヒヒ属(関連記事)でも同様だったことから、アウストラロピテクス属系統と初期ホモ属系統との間でも交雑があり、セディバはホモ属系統の遺伝的影響を受けたアウストラロピテクス属系統である可能性も想定されます。ホモ属の起源の解明には新たな化石の発見が必要なので、短期間に大きく進展する可能性は低そうですが、今後も研究の進展をできるだけ追いかけていくつもりです。
参考文献:
Du A, and Alemseged Z.(2019): Temporal evidence shows Australopithecus sediba is unlikely to be the ancestor of Homo. Science Advances, 5, 5, eaav9038.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aav9038
この記事へのコメント