ハイデルベルゲンシスの位置づけ
ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)の人類進化史における位置づけについて、2019年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)で報告されました(Gomez-Robles., 2019)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P89)。ハイデルベルゲンシス(ハイデルベルク人)をネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)の共通祖先と想定する見解は、今でも有力と言えるでしょう。本報告は、歯の形態測定と祖先状態を復元する手法とにより、ハイデルベルク人の人類進化史における位置づけについて検証しました。
本報告はこれらの手法を用いて、二つの知見を得ました。まず、ハイデルベルゲンシスはネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先で予想される歯の形態を示していません。対照的に、ハイデルベルゲンシスと分類されてきたヨーロッパの標本群は、ネアンデルタール人の歯の類似性を示します。次に、70万年前に先行する化石標本群は、早期ネアンデルタール人へと進化するにはきょくたんに急速な歯の進化を経験しなければならないので、ネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先の候補ではなさそうです。本報告は、ハイデルベルゲンシスに分類されてきたヨーロッパの標本群は、ネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先標本群の一部にはなり得ない、と指摘しています。本報告は、ハイデルベルゲンシスに分類されてきた)ヨーロッパの標本群はむしろ、系統学的にネアンデルタール人と関連しているか、ネアンデルタール人または現生人類とは関連しない絶滅系統だろう、との見解を提示しています。
これらの知見から本報告は、ハイデルベルゲンシスの進化史における位置づけについて二つの可能性を想定しています。一方は、ヨーロッパのネアンデルタール人系統とアフリカの現生人類系統を含むような両者の共通祖先としてのハイデルベルゲンシスは有効な分類群ではない、というものです。本報告は、こちらが妥当だと主張しています。もう一方は、ネアンデルタール人との類似性を示すような標本群を除外するならば、ハイデルベルゲンシスというネアンデルタール人とも現生人類とも異なる種区分は成立するものの、その場合、ハイデルベルゲンシスはもはやネアンデルタール人または現生人類との進化的継続性を示さない、というものです。
本報告の見解は、ハイデルベルゲンシスという種区分の問題を改めて強調しています。ハイデルベルゲンシスについては、形態学的に多様性が大きく一つの種に収まらないほどの変異幅があるとか(関連記事)、その正基準標本とされているマウエル(Mauer)で発見された下顎骨は現生人類とネアンデルタール人の共通祖先と考えるにはあまりにも特殊化しているとか(関連記事)、指摘されています。ハイデルベルゲンシスをアフリカ起源の分類群とする見解もありますが(関連記事)、本報告が指摘するように、ハイデルベルゲンシスはもはや有効な分類群ではないとするか、ハイデルベルゲンシスという種区分を活かすならば、ネアンデルタール人とも現生人類とも関連しない分類群と考えるのが妥当ではないか、と思います。アフリカにいた現生人類とネアンデルタール人の共通祖先のうち、ヨーロッパに拡散した系統も分岐していき、ネアンデルタール人系統やマウエル系統が出現した、というわけです。
参考文献:
Gomez-Robles I. et al.(2019): Assessing the status of Homo heidelbergensis through dental morphology and ancestral state reconstruction approaches. The 88th Annual Meeting of the AAPA.
本報告はこれらの手法を用いて、二つの知見を得ました。まず、ハイデルベルゲンシスはネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先で予想される歯の形態を示していません。対照的に、ハイデルベルゲンシスと分類されてきたヨーロッパの標本群は、ネアンデルタール人の歯の類似性を示します。次に、70万年前に先行する化石標本群は、早期ネアンデルタール人へと進化するにはきょくたんに急速な歯の進化を経験しなければならないので、ネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先の候補ではなさそうです。本報告は、ハイデルベルゲンシスに分類されてきたヨーロッパの標本群は、ネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先標本群の一部にはなり得ない、と指摘しています。本報告は、ハイデルベルゲンシスに分類されてきた)ヨーロッパの標本群はむしろ、系統学的にネアンデルタール人と関連しているか、ネアンデルタール人または現生人類とは関連しない絶滅系統だろう、との見解を提示しています。
これらの知見から本報告は、ハイデルベルゲンシスの進化史における位置づけについて二つの可能性を想定しています。一方は、ヨーロッパのネアンデルタール人系統とアフリカの現生人類系統を含むような両者の共通祖先としてのハイデルベルゲンシスは有効な分類群ではない、というものです。本報告は、こちらが妥当だと主張しています。もう一方は、ネアンデルタール人との類似性を示すような標本群を除外するならば、ハイデルベルゲンシスというネアンデルタール人とも現生人類とも異なる種区分は成立するものの、その場合、ハイデルベルゲンシスはもはやネアンデルタール人または現生人類との進化的継続性を示さない、というものです。
本報告の見解は、ハイデルベルゲンシスという種区分の問題を改めて強調しています。ハイデルベルゲンシスについては、形態学的に多様性が大きく一つの種に収まらないほどの変異幅があるとか(関連記事)、その正基準標本とされているマウエル(Mauer)で発見された下顎骨は現生人類とネアンデルタール人の共通祖先と考えるにはあまりにも特殊化しているとか(関連記事)、指摘されています。ハイデルベルゲンシスをアフリカ起源の分類群とする見解もありますが(関連記事)、本報告が指摘するように、ハイデルベルゲンシスはもはや有効な分類群ではないとするか、ハイデルベルゲンシスという種区分を活かすならば、ネアンデルタール人とも現生人類とも関連しない分類群と考えるのが妥当ではないか、と思います。アフリカにいた現生人類とネアンデルタール人の共通祖先のうち、ヨーロッパに拡散した系統も分岐していき、ネアンデルタール人系統やマウエル系統が出現した、というわけです。
参考文献:
Gomez-Robles I. et al.(2019): Assessing the status of Homo heidelbergensis through dental morphology and ancestral state reconstruction approaches. The 88th Annual Meeting of the AAPA.
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