『卑弥呼』第15話「言伝」
『ビッグコミックオリジナル』2019年5月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが力強く、女王国たる山社の独立を宣言するところで終了しました。今回は、暈(クマ)と那の国境の大河(筑後川でしょうか)で、ヌカデが暈国側から那国側へと渡河しようとする場面から始まります。付き添いの男性兵士2人は、天照様のご加護を、那の将軍に一泡吹かせてやれ、とヌカデを励まします。男性兵士の一方が、あの女忍(メノウ)は生き残れると思うか、と問うと、もう一方の兵士は、どんな手練れの女忍でも10人中7人は渡河の前に死ぬ、と答えます。大河は、最初は穏やかでも中ほどは急流で、渡河できずに下流に流されて死ぬし、首尾よく渡河できても、那の警備隊に見つかって河縁で殺される、というわけです。暈軍と対峙している那軍を率いるトメ将軍はぬかりのない人だ、と暈軍でも高く評価されているようです。仮に那の河岸警備隊に見つからずとも、生きて将軍の陣地に入るのはほぼ不可能だ、良い女なのに惜しい、と2人の兵士は語り合います。
大河を泳いでいるヌカデは、筏を見つけて不審に思います。暈と那の境となる大河に筏を出す漁夫はいないはず、というわけです。ヌカデは慎重に筏に近づいて乗りますが、荷を見つけただけでした。そこへアカメが現れ、自分の助けがなくとも渡河できそうだな、と言います。ヌカデはアカメに斬りかかりますが、アカメは軽やかにかわして、自分はお前の味方だ、と冷静に告げます。自分の顔を覚えていないのか、とアカメに問われたヌカデは、アカメが暈にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)にいたことを思い出します。祈祷女(イノリメ)見習いの一人だった、とアカメが言うと、祈祷女見習いは不出来な者を除いて全員トンカラリンの儀式に行かされ、一人を除いて死んだと聞いていたヌカデは、アカメへの警戒を解きません。ヤノハからの言伝を預かっている、と言うアカメにたいして、ヤノハは生きているのか、とヌカデは明るい表情で尋ねます。あの人がそう簡単に死ぬと思うか、と冷静に答えたアカメは、ヤノハが山社(ヤマト)におり、建国を宣言した、とヌカデに伝えます。アカメはヤノハに、オシクマ将軍の命を忘れて新たな任務に就くよう、伝えます。そのために荷を用意した、というわけです。その中には服が2着あり、1着は那の農民の普段着で、もう1着についてはこれから説明する、とアカメはヌカデに言います。筏で那の野営地まで送り届ける、と言うアカメにたいして、那軍にみつかってしまう、とヌカデは警戒します。するとアカメは自信に満ちた表情で、自分は志能備(シノビ)で、那の野営地には舟や筏で何度も潜入しているので、お前は休んでいろ、とヌカデに言います。
山社では、楼観でヤノハとイクメが現状を語り合っていました。山社で最高位の祈祷女であるイスズが、ヤノハが真の日見子(ヒミコ)であるか、伺いを立てるために籠ってから2日経ちましたが、ヤノハとイクメには動きは見えません。何日経とうが答えは同じで、種智院の祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメと同じく、ヤノハを即刻捕らえるよう、天照様のお告げが出たとイスズは言うのだろう、とヤノハは考えていました。ヤノハは、イクメの父であるミマト将軍も、少し考えさせてくれと言って楼観より降りてから姿を見せないので、イスズやヒルメと同じ意見なのだろう、と言います。しかしイクメは、父はヤノハの申し出が可能なのか考えているようだ、と推測していました。山社は那軍や暈軍に攻められようとも1年は耐えられるものの、戦は攻撃こそ肝心なのに、攻めるための手勢も軍資金もないので、ミマト将軍はヤノハの提案を受け入れるべきか悩んでいる、というわけです。日向(ヒムカ)を山社に併合して租賦を徴収して募兵すればよい、と言うヤノハにたいしてイクメは、自分も同じことを父に言ったが、父は悩んでいた、と言います。
それは、古老が発言を憚った言い伝えで(第12話)、かつて、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の王たちが日向のサヌ王と交わした盟約および呪いについてです。サヌ王は6代目の強力な日見彦(ヒミヒコ)で、『日本書紀』の神武と考えられます。サヌ王は天照大御神から、倭国を平和にしたいのなら東に向かえ、大倭豊秋津島(オホヤマトトヨアキツシマ)の日出処(ヒイズルトコロ)に新たな山社を建てよ、との神託を受けました。サヌ王は東方への出立を前に、筑紫島の王たちと盟約を結びました。それは、サヌ王が東の地より挙兵し、まつろわぬ西の国々を征服し、その時は筑紫島の国々も東征せよ、というものでした。つまり東西から従わない国々を挟み討ちにする、というわけです。サヌ王は出立にさいして日向の地に、サヌ王の血筋以外の者が日向を治めようとするなら、恐ろしい死がくだる、という呪いをかけました。そのため、日向には王がおらず、暈と都萬(トマ)が共同管理している、というわけです。山社建国を宣言した日見子たるヤノハが日向を合併すれば、暈と都萬が攻めてくるわけですが、ヤノハは成算があるのか、自信に満ちた表情で、それも面白い、と言います。
アカメとともに那軍の野営地に到着したヌカデは、まるで市のように活気があり、さまざまな服装の人々がいることや見たことのなかった牛の存在に驚きます。牛は知詞島(チカノシマ、五島列島でしょうか)からもたらされ、重いものを運ぶのに役立ち美味い、とアカメは説明します。さまざまな人々の中には漢人らしき男性もおり、アカメによると、那は大陸の最新の兵器を積極的に入手しているようです。那軍の野営地の活気をヌカデに見せたアカメは、兵の士気は暈軍より那軍の方が上で、渡河できれば那軍は暈軍を蹴散らすだろう、と言います。アカメは庶民の家を訪ねて、ヌカデの着替えのために小屋を貸してくれ、と女性に頼みます。アカメはヤノハに報告するため、山社へと向かいます。使者の正装に着替えたヌカデがトメ将軍の陣地に行き、山社国からの使者と名乗り、トメ将軍との面会を求めるところで、今回は終了です。
今回は、次回以降話が大きく動くことを予感させる内容となっており、謎解きが進んだこともあって、たいへん楽しめました。ヌカデはヤノハの指示でトメ将軍に面会を申し込みましたが、おそらくは和睦を提案するのでしょう。しかし、平民出身のトメ将軍にとって、戦は立身出世の重要な手段でしょうから、容易に暈軍との和睦に応じるとは思えません。それはヤノハも承知しているでしょうから、ヤノハがどのような条件をトメ将軍に提示するのか、注目されます。那国のトメ将軍はこれまで度々言及されており、今回改めて、暈国でも高く評価されていることが描かれました。トメ将軍はまだ言及されているだけで登場していませんが、次回登場することになりそうです。かなり優秀な将軍のようですが、一方で那国要人のウラは、暈軍を叩き潰せないのはトメ将軍の責任と考えています。この評価の食い違いが何を意味しているのか、ということも次回以降に明かされそうで、楽しみです。トメ将軍は、次回まで登場を引っ張っただけに、かなり重要な人物で、外見でもキャラが立っているのではないか、と期待しています。
謎解きの点では、かつて東方に向かった日向のサヌ王が、九州の諸国と交わした盟約および呪いについて明らかになりました。サヌ王は天照大御神の神託を受けて東方に向かい、新たな山社を建てるとともに、九州の諸国とともに、中国地方や四国地方の日見子もしくは日見彦の支配に従わない諸国を討伐する、という構想を抱いていたようです。しかし、サヌ王は東の果ての日下という小さな国を得ただけだ、と語られており(第8話)、東西挟撃策はまだ実行されていないようです。本作の邪馬台国は、作中の地理的関係から推測すると日向(現在の宮崎県)に設定されているようです。しかし、サヌ王、つまり『日本書紀』の神武の東征は作中ではかなり重要な役割を担っているようですから、ヤノハが日見子(卑弥呼)と認められた後、晩年に現在の奈良県、具体的には纏向遺跡一帯に「遷都」する、という展開も考えられます。そうなるのか、まだ定かではありませんが、おそらくはまだ序盤なのにたびたびサヌ王の東征が言及されているのですから、近畿地方も含めて本州もやがて重要な舞台となることは間違いないだろう、と思います。魏や呉や遼東公孫氏の登場も予想されますし、かなり壮大な物語になりそうですから、なるべく長く続いてもらいたいものです。本作は私にとって、原作者が同じ『イリヤッド』や、作画者が同じ『天智と天武~新説・日本書紀~』を超える作品になるのではないか、と期待しています。
大河を泳いでいるヌカデは、筏を見つけて不審に思います。暈と那の境となる大河に筏を出す漁夫はいないはず、というわけです。ヌカデは慎重に筏に近づいて乗りますが、荷を見つけただけでした。そこへアカメが現れ、自分の助けがなくとも渡河できそうだな、と言います。ヌカデはアカメに斬りかかりますが、アカメは軽やかにかわして、自分はお前の味方だ、と冷静に告げます。自分の顔を覚えていないのか、とアカメに問われたヌカデは、アカメが暈にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)にいたことを思い出します。祈祷女(イノリメ)見習いの一人だった、とアカメが言うと、祈祷女見習いは不出来な者を除いて全員トンカラリンの儀式に行かされ、一人を除いて死んだと聞いていたヌカデは、アカメへの警戒を解きません。ヤノハからの言伝を預かっている、と言うアカメにたいして、ヤノハは生きているのか、とヌカデは明るい表情で尋ねます。あの人がそう簡単に死ぬと思うか、と冷静に答えたアカメは、ヤノハが山社(ヤマト)におり、建国を宣言した、とヌカデに伝えます。アカメはヤノハに、オシクマ将軍の命を忘れて新たな任務に就くよう、伝えます。そのために荷を用意した、というわけです。その中には服が2着あり、1着は那の農民の普段着で、もう1着についてはこれから説明する、とアカメはヌカデに言います。筏で那の野営地まで送り届ける、と言うアカメにたいして、那軍にみつかってしまう、とヌカデは警戒します。するとアカメは自信に満ちた表情で、自分は志能備(シノビ)で、那の野営地には舟や筏で何度も潜入しているので、お前は休んでいろ、とヌカデに言います。
山社では、楼観でヤノハとイクメが現状を語り合っていました。山社で最高位の祈祷女であるイスズが、ヤノハが真の日見子(ヒミコ)であるか、伺いを立てるために籠ってから2日経ちましたが、ヤノハとイクメには動きは見えません。何日経とうが答えは同じで、種智院の祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメと同じく、ヤノハを即刻捕らえるよう、天照様のお告げが出たとイスズは言うのだろう、とヤノハは考えていました。ヤノハは、イクメの父であるミマト将軍も、少し考えさせてくれと言って楼観より降りてから姿を見せないので、イスズやヒルメと同じ意見なのだろう、と言います。しかしイクメは、父はヤノハの申し出が可能なのか考えているようだ、と推測していました。山社は那軍や暈軍に攻められようとも1年は耐えられるものの、戦は攻撃こそ肝心なのに、攻めるための手勢も軍資金もないので、ミマト将軍はヤノハの提案を受け入れるべきか悩んでいる、というわけです。日向(ヒムカ)を山社に併合して租賦を徴収して募兵すればよい、と言うヤノハにたいしてイクメは、自分も同じことを父に言ったが、父は悩んでいた、と言います。
それは、古老が発言を憚った言い伝えで(第12話)、かつて、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の王たちが日向のサヌ王と交わした盟約および呪いについてです。サヌ王は6代目の強力な日見彦(ヒミヒコ)で、『日本書紀』の神武と考えられます。サヌ王は天照大御神から、倭国を平和にしたいのなら東に向かえ、大倭豊秋津島(オホヤマトトヨアキツシマ)の日出処(ヒイズルトコロ)に新たな山社を建てよ、との神託を受けました。サヌ王は東方への出立を前に、筑紫島の王たちと盟約を結びました。それは、サヌ王が東の地より挙兵し、まつろわぬ西の国々を征服し、その時は筑紫島の国々も東征せよ、というものでした。つまり東西から従わない国々を挟み討ちにする、というわけです。サヌ王は出立にさいして日向の地に、サヌ王の血筋以外の者が日向を治めようとするなら、恐ろしい死がくだる、という呪いをかけました。そのため、日向には王がおらず、暈と都萬(トマ)が共同管理している、というわけです。山社建国を宣言した日見子たるヤノハが日向を合併すれば、暈と都萬が攻めてくるわけですが、ヤノハは成算があるのか、自信に満ちた表情で、それも面白い、と言います。
アカメとともに那軍の野営地に到着したヌカデは、まるで市のように活気があり、さまざまな服装の人々がいることや見たことのなかった牛の存在に驚きます。牛は知詞島(チカノシマ、五島列島でしょうか)からもたらされ、重いものを運ぶのに役立ち美味い、とアカメは説明します。さまざまな人々の中には漢人らしき男性もおり、アカメによると、那は大陸の最新の兵器を積極的に入手しているようです。那軍の野営地の活気をヌカデに見せたアカメは、兵の士気は暈軍より那軍の方が上で、渡河できれば那軍は暈軍を蹴散らすだろう、と言います。アカメは庶民の家を訪ねて、ヌカデの着替えのために小屋を貸してくれ、と女性に頼みます。アカメはヤノハに報告するため、山社へと向かいます。使者の正装に着替えたヌカデがトメ将軍の陣地に行き、山社国からの使者と名乗り、トメ将軍との面会を求めるところで、今回は終了です。
今回は、次回以降話が大きく動くことを予感させる内容となっており、謎解きが進んだこともあって、たいへん楽しめました。ヌカデはヤノハの指示でトメ将軍に面会を申し込みましたが、おそらくは和睦を提案するのでしょう。しかし、平民出身のトメ将軍にとって、戦は立身出世の重要な手段でしょうから、容易に暈軍との和睦に応じるとは思えません。それはヤノハも承知しているでしょうから、ヤノハがどのような条件をトメ将軍に提示するのか、注目されます。那国のトメ将軍はこれまで度々言及されており、今回改めて、暈国でも高く評価されていることが描かれました。トメ将軍はまだ言及されているだけで登場していませんが、次回登場することになりそうです。かなり優秀な将軍のようですが、一方で那国要人のウラは、暈軍を叩き潰せないのはトメ将軍の責任と考えています。この評価の食い違いが何を意味しているのか、ということも次回以降に明かされそうで、楽しみです。トメ将軍は、次回まで登場を引っ張っただけに、かなり重要な人物で、外見でもキャラが立っているのではないか、と期待しています。
謎解きの点では、かつて東方に向かった日向のサヌ王が、九州の諸国と交わした盟約および呪いについて明らかになりました。サヌ王は天照大御神の神託を受けて東方に向かい、新たな山社を建てるとともに、九州の諸国とともに、中国地方や四国地方の日見子もしくは日見彦の支配に従わない諸国を討伐する、という構想を抱いていたようです。しかし、サヌ王は東の果ての日下という小さな国を得ただけだ、と語られており(第8話)、東西挟撃策はまだ実行されていないようです。本作の邪馬台国は、作中の地理的関係から推測すると日向(現在の宮崎県)に設定されているようです。しかし、サヌ王、つまり『日本書紀』の神武の東征は作中ではかなり重要な役割を担っているようですから、ヤノハが日見子(卑弥呼)と認められた後、晩年に現在の奈良県、具体的には纏向遺跡一帯に「遷都」する、という展開も考えられます。そうなるのか、まだ定かではありませんが、おそらくはまだ序盤なのにたびたびサヌ王の東征が言及されているのですから、近畿地方も含めて本州もやがて重要な舞台となることは間違いないだろう、と思います。魏や呉や遼東公孫氏の登場も予想されますし、かなり壮大な物語になりそうですから、なるべく長く続いてもらいたいものです。本作は私にとって、原作者が同じ『イリヤッド』や、作画者が同じ『天智と天武~新説・日本書紀~』を超える作品になるのではないか、と期待しています。
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