更科功『進化論はいかに進化したか』

 新潮選書の一冊として、新潮社より2019年2月に刊行されました。本書は2部構成になっています。第1部は進化のメカニズム、第2部は一般層の関心の高そうな具体的事例を取り上げています。本書は第1部でダーウィンを起点として、進化論がいかに変容してきたのか、解説しています。本書で強調されているのは、ダーウィン自身もその生涯において見解が変わっていったことと、ダーウィンの見解が現在そのまま受容されているわけではない、ということです。本書はこの観点から、進化やダーウィンについて広く見られる誤解を解説していきます。本書は、自然選択には安定化選択と方向性選択があることと、進化のメカニズムには遺伝的浮動・自然選択・遺伝子交流・突然変異があることを強調しています。詳しい人は本書の解説に異論・反論を主張するかもしれませんが、進化学の学説史に詳しくない私にとっては、全体的になかなか興味深い内容でした。

 ダーウィン以前に生物は進化すると考えた人はそれなりにおり、『種の起源』刊行直前には、すでにイギリスにおいて、肯定・否定はさておき、進化という概念はわりと身近なものになっていました。というか、18世紀の時点ですでに、知識層の間では進化という概念が一般的になっていた、と本書は指摘します。それでも現在までダーウィンが重視されるのは、ダーウィンの進化論がじゅうらいのものとは異なり、進化は直線的ではなく分岐していく、と想定したからです。ダーウィン『種の起源』は強烈に批判されることもあり、批判者の中にはキリスト教関係者もいました。しかし、キリスト教関係者の中にはダーウィンの提唱した自然選択の概念を的確に理解した者もおり、進化論の発展に寄与した、と本書は評価しています。ダーウィンの主張で進化と分岐進化は認められましたが、自然選択は不人気だった、と本書は強調します。そのため、20世紀初頭には、ダーウィニズムは死んだ、とよく言われていたそうです。

 人類の直立二足歩行と犬歯の縮小について、本書は一夫一婦制との関連で説明しています。本書は、直立二足歩行と武器の使用を結びつける見解に対して、直立二足歩行が石器の使用に数百万年以上先行することから、否定的です。しかし、以前当ブログでも述べましたが(関連記事)、直立二足歩行と投擲能力の向上とが関連していたとしたら、石器ではなくとも、地面に転がっている石を投げるだけで有効な攻撃になるわけで、直立二足歩行および犬歯の縮小を攻撃性と結びつける見解も、有力説の一つとして有効なのではないか、と思います。


参考文献:
更科功(2019A)『進化論はいかに進化したか』(新潮社)

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