アメリカ大陸におけるデニソワ人の遺伝的影響

 アメリカ大陸におけるデニソワ人(Denisovan)の遺伝的影響について、2019年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)で報告されました(Huerta-Sanchez et al., 2019)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P109)。種区分未定のホモ属であるデニソワ人は南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)でのみ確認されており、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や現生人類(Homo sapiens)との交雑が確認されているなど、遺伝学的情報は豊富に得られているものの、形態学的情報はほとんどありません(関連記事)。

 ネアンデルタール人やデニソワ人といった古代型ホモ属(現生人類ではないホモ属)と現生人類との交雑が明らかになって以降、現代人における古代型ホモ属の遺伝的影響の研究は地域的にはユーラシアとオセアニアが中心で、アメリカ大陸に関しては遅れていました。これは、15世紀末以降、アメリカ大陸にヨーロッパとアフリカから多数の人が流入し(その中には奴隷貿易により連れてこられた人々も少なくありません)、現代のアメリカ大陸の人々を、ヨーロッパ系およびアフリカ系と遺伝的に区別するのが容易ではないためでもありました。もちろん、アメリカ大陸の現代人における古代型ホモ属の遺伝的影響に関する研究は進められつつありますが、交雑の定量化およびヨーロッパ系よりも高くアジア東部系と類似した水準という観察を超えての議論はほとんど提示されていない、と本報告は指摘します。

 本報告は、アメリカ大陸の現代人のゲノム解析に基づき、デニソワ人の遺伝的多様体の数と頻度を調べました。その結果明らかになったのは、アメリカ大陸におけるデニソワ人の遺伝的影響は集団間の変異幅が大きい、ということです。これに関して本報告は、15世紀末以降にヨーロッパとアフリカから多数の人々がアメリカ大陸に流入したことや、連続したボトルネック(瓶首効果)などといった人口史上の効果によるものではないか、と推測しています。たとえばペルー人は、アメリカ大陸の他集団よりも多数の高頻度のデニソワ人多様体を有しています。本報告はさらに、ゲノムのどの領域にデニソワ人由来の配列が集中しているのかも調べ、適応的な遺伝子移入があったのではないか、と示唆しています。


参考文献:
Huerta-Sanchez E. et al.(2019): The landscape of Denisovan ancestry in the Americas. The 88th Annual Meeting of the AAPA.

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