レヴァントにおけるネアンデルタール人の進化

 レヴァントにおけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の進化について、2019年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)で報告されました(Hershkovitz et al., 2019)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P102)。レヴァントにおいては、ケセム(Qesem)・ズッティエ(Zuttiyeh)・タブン(Tabun)・ミスリヤ(Misliya)・ネシャーラムラ(Nesher-Ramla)といった遺跡の発掘成果から、12万~9万年前頃となるスフール(Skhul)やカフゼー(Qafzeh)の現生人類(Homo sapiens)に先行して、ネアンデルタール人が存在した、と考えられています。

 本報告は、これらレヴァントにおける早期のネアンデルタール人だけではなく、もっと後のアムッド(Amud)・ケバラ(Kebara)・アインカシシュ(Ein Qashish)のネアンデルタール人遺骸を対象として、レヴァントにおけるネアンデルタール人の進化を検証しました。その結果、レヴァントのネアンデルタール人は、寒冷化に伴いヨーロッパから待避所を探して南下してきただけである、という見解が退けられ、レヴァントからユーラシアへのネアンデルタール人の拡散の可能性が高くなった、と本報告は指摘しています。さらに本報告は、長きにわたって現生人類と考えられてきたスフールとカフゼーのホモ属遺骸についても、分類の見直しを提案しています。

 レヴァントの中期更新世後期~後期更新世にかけてのホモ属については、寒冷な時期にヨーロッパからネアンデルタール人が南下してきて、温暖な時期にネアンデルタール人が北上してヨーロッパへと戻り、アフリカから現生人類が北上してきた、との理解が根強いよいに思えます。しかし、レヴァントのネアンデルタール人の起源がどこにあるのか、また単一の系統として把握できるのか、それとも複数系統存在したのか、などといった問題は、解決したとはとても言い難いように思います。レヴァントの更新世の人類遺骸のDNA解析は困難でしょうから、スフールとカフゼーの現生人類とされてきた12万~9万年前頃の遺骸も含めて、レヴァントの中期更新世後期~後期更新世にかけてのホモ属遺骸についての形態学的な検証の進展が期待されます。


参考文献:
Hershkovitz I.(2019): The Neanderthals before the Neanderthals: The Levantine scenario. The 88th Annual Meeting of the AAPA.

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