人数の多寡による科学的成果の系統的な違い

 人数の多寡による科学的成果の系統的な違いに関する研究(Wu et al., 2019)が公表されました。科学と技術の多くの分野で、大人数のチームによる研究が増えています。こうした協働的な手法は、資源と専門知識の集積がなければ達成が難しい研究や技術の大きな進歩を促してきました。しかし、少人数チームの科学的成果と大人数チームの科学的成果に系統的な違いがあるのか、よく分かっていません。

 この研究は、1954~2014年の6500万件を超える論文・特許・ソフトウエア製品を分析し、共同作業を調査しました。この研究は、論文や製品が先行研究や先行品にどの程度立脚しているのか判断するための測定基準を用い、この期間にわたって、1~10人の少人数チームが、新しいアイデアやコンセプトによって既存の科学と技術を撹乱する傾向にあった、と明らかにしました。一方、大人数チームは既存のアイデアを発展させる傾向にありました。この研究は、革新を持続させ、科学技術が繁栄する健全なエコシステムを維持するには、少人数チームと大人数チームの両方が必須だと結論づけています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【社会科学】少人数の研究チームの方が新しいアイデアが生まれやすい

 少人数の研究チームの方が、新しいアイデアやコンセプトが生まれやすく、大人数のチームは、既存のアイデアやコンセプトを発展させる傾向のあることを明らかにした論文が、今週掲載される。これは、6500万件以上の論文、特許、ソフトウエア製品の分析によって明らかになった。

 科学と技術の多くの分野で、大人数のチームによる研究が増えている。こうした力の結集は、資源と専門知識の集積がなければ達成が難しい研究や技術の大きな進歩を促進してきた。ただし、少人数チームの科学的成果と大人数チームの科学的成果に系統的な違いがあるかはよく分かっていない。

 今回、James Evansたちの研究グループは、数百万件の論文、特許、ソフトウエア製品の分析によって1954~2014年の共同作業を調べた。Evansたちは、論文や製品が先行研究や先行品にどの程度立脚しているかを判断するための測定基準を用いて、この期間にわたって、1~10人の少人数チームが、新しいアイデアやコンセプトによって既存の科学と技術を撹乱する傾向にあったことを明らかにした。一方、大人数チームは既存のアイデアを発展させる傾向にあった。

 Evansたちは、科学技術の生態系の繁栄には、少人数チームと大人数チームの両方が必須だと結論付けている。


引用数指標:科学技術は大きなチームにより発展し、小さなチームにより破壊される

Cover Story:研究のエコロジー:小さなチームは破壊によって、大きなチームは統合によって科学技術を進歩させる

 研究のエコシステムは進化している。科学技術の多くの分野では、大きなチームが増えており、こうした協働的なアプローチは、大きなチームでなければ実現が難しかった進歩に役立っている。しかし、小さなチームと比べて大きなチームがどのように機能しているのかという疑問が残る。今回J Evansたちは、小さなチームと大きなチームは、研究開発の全体像において異なるニッチを占める傾向があることを明らかにしている。著者たちは、1954〜2014年の6500万を超える論文、特許、ソフトウエア製品を分析し、それらの論文や製品が、どの程度、新しい方向性のもの、あるいは以前の研究や製品の改良と見なされるかを評価した。その結果、より小さなチームは、例えば表紙の少数のサメのように、新しいアイデアや設計、アプローチで科学技術を破壊する傾向が強いことが見いだされた。対照的に、より大きなチームは、表紙の小さな魚のように集合して、既存のアイデアを統合し発展させる傾向があった。著者たちは、革新を持続させ、科学技術が繁栄する健全なエコシステムを維持するには、両方のアプローチが必要であると示唆している。



参考文献:
Wu L, Wan D, and Evans J.(2019): Large teams develop and small teams disrupt science and technology. Nature, 566, 7744, 378–382.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-0941-9

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