三谷博『維新史再考 公議・王政から集権・脱身分化へ』
NHKBOOKSの一冊として、2017年12月にNHK出版から刊行されました。本書は西南内乱の頃までの維新史を概観しています。本書は近代化の進展する世界の中に日本を位置づけ、さらには日本も含めて近代世界の前提となる近世の世界も解説しており、単なる幕末史ではなく、近世史の復習にもなります。本書は、400ページ超という分量の多さもありますが、情報量の多い一冊になっており、とても一読しただけでは本書を的確にまとめられません。もちろん、これは私自身の近世・近代史理解の乏しさが原因でもあり、他の維新史関連の本も改めて再読したうえで、今後必ず本書を再読しなければならないでしょう。
本書は基本的に、政治的課題という観点からの政治史となっています。目まぐるしく情勢の変転した幕末維新において、政治的課題はどのように変遷していったのか、またそれらの政治的課題にたいして、さまざまな政治勢力は何を優先し、また否定したのか、という観点からの政治史です。たとえば、ペリー来航前には、対外方針という観点から、公儀(江戸幕府)の諸勢力の方針がまとめられています。1863年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)の8月18日の政変以降は、政権分与・長州処分・横浜鎖港が政治的課題となります。情勢の変転により政治的課題と諸勢力の提携関係も変容し、そこが維新史の複雑さになっているとは思いますが、本書の解説は丁寧で、理解しやすいと思います。
本書は維新史において「公議」・「公論」という語を重視しており、その前提としてペリー来航前の近世社会の知的ネットワークの充実を指摘します。また本書は、「公議」・「公論」が前提とされたことから、幕府倒壊直前の諸勢力の政治的主導権争いにおいて、武力行使を想定しつつも多数派工作の方が重視され、その政治的経験が、大規模な変革だった維新における死者の少なさを可能にした、との見通しを提示しています。一方で本書は、幕末維新の諸勢力の中に、対外・対内戦争を通じて改革を実行しようと考えた者が少なくなかったことと、そうした動向の最後が西南内乱だったことを指摘しています。
本書の興味深い見解としては、幕末の政治的大混乱はペリー来航ではなく1858年の政変(大老である井伊直弼による反対勢力の弾圧)に始まる、との指摘があります。これにより、近世の政治体制が大崩壊を始めた、との見通しを本書は提示しています。また、19世紀後半以降、「アジア」もしくは「東アジア」という新たな地域が創出された、との見解も興味深いものです。とにかく多岐にわたる論点を提示し、深く考えさせられる一冊になっているので、私にとって長く、本書は維新史の教科書となるでしょう。
本書は基本的に、政治的課題という観点からの政治史となっています。目まぐるしく情勢の変転した幕末維新において、政治的課題はどのように変遷していったのか、またそれらの政治的課題にたいして、さまざまな政治勢力は何を優先し、また否定したのか、という観点からの政治史です。たとえば、ペリー来航前には、対外方針という観点から、公儀(江戸幕府)の諸勢力の方針がまとめられています。1863年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)の8月18日の政変以降は、政権分与・長州処分・横浜鎖港が政治的課題となります。情勢の変転により政治的課題と諸勢力の提携関係も変容し、そこが維新史の複雑さになっているとは思いますが、本書の解説は丁寧で、理解しやすいと思います。
本書は維新史において「公議」・「公論」という語を重視しており、その前提としてペリー来航前の近世社会の知的ネットワークの充実を指摘します。また本書は、「公議」・「公論」が前提とされたことから、幕府倒壊直前の諸勢力の政治的主導権争いにおいて、武力行使を想定しつつも多数派工作の方が重視され、その政治的経験が、大規模な変革だった維新における死者の少なさを可能にした、との見通しを提示しています。一方で本書は、幕末維新の諸勢力の中に、対外・対内戦争を通じて改革を実行しようと考えた者が少なくなかったことと、そうした動向の最後が西南内乱だったことを指摘しています。
本書の興味深い見解としては、幕末の政治的大混乱はペリー来航ではなく1858年の政変(大老である井伊直弼による反対勢力の弾圧)に始まる、との指摘があります。これにより、近世の政治体制が大崩壊を始めた、との見通しを本書は提示しています。また、19世紀後半以降、「アジア」もしくは「東アジア」という新たな地域が創出された、との見解も興味深いものです。とにかく多岐にわたる論点を提示し、深く考えさせられる一冊になっているので、私にとって長く、本書は維新史の教科書となるでしょう。
この記事へのコメント