癌進化の遺伝的不安定性

 癌進化の遺伝的不安定性に関する研究(Coelho et al., 2019)が公表されました。遺伝的不安定性は癌で広く見られ、変異率を上昇させて腫瘍発生を促進することがあります。この研究は、酵母で遺伝的不安定性の基盤となる機構を探索し、二倍体の酵母を用いて、複数の増殖阻害剤に対する抵抗性についての方向性選択が変異率に影響を及ぼす仕組みを明らかにしました。適応変異に対する選択が繰り返し起こると、変異率の上昇した株が生じました。遺伝的不安定性につながる遺伝子はほぼ全てがハプロ不全(アレルの一方の遺伝子欠失などにより、正常な一方のアレルのみからの発現ではタンパク質の量が不足することに起因する疾患)で、これは変異率を上昇させるのには1つの対立遺伝子の機能喪失だけで充分だと示しています。これらの遺伝子の一部にはヒトのホモログ(相同体)が存在し、ヒト細胞でも1つの対立遺伝子の欠失が遺伝的不安定性につながる、と示されました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


がん:がん進化の酵母モデルではヘテロ接合性変異が遺伝的不安定性を引き起こす

がん:遺伝的不安定性の進化

 遺伝的不安定性はがんで広く見られ、変異率を上昇させて腫瘍発生を促進することがある。M Coelhoたちは今回、酵母で遺伝的不安定性の基盤となる機構を探索し、二倍体の酵母を用いて、複数の増殖阻害剤に対する抵抗性についての方向性選択が変異率に影響を及ぼす仕組みを決定した。適応変異に対する選択が繰り返し起こると、変異率が上昇した株が生じた。遺伝的不安定性につながる遺伝子は、ほぼ全てがハプロ不全で、これは変異率を上昇させるのには1つの対立遺伝子の機能喪失だけで十分であることを示している。これらの遺伝子の一部にはヒトのホモログが存在し、ヒト細胞でも1つの対立遺伝子の欠失が遺伝的不安定性につながることが示された。



参考文献:
Coelho MC, Pinto RM, and Murray AW.(2019): Heterozygous mutations cause genetic instability in a yeast model of cancer evolution. Nature, 566, 7743, 275–278.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-0887-y

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