『卑弥呼』第9話「日見子誕生」
『ビッグコミックオリジナル』2019年2月5日号掲載分の感想です。前回は、トンカラリンの洞窟内の坑道を進んでいたヤノハが前方に光を見つけ、天照様の光だ、我々は勝ったのだ、と明るい表情で力強くアカメに言い、アカメが不適な笑みを浮かべたところで終了しました。今回は、その光は人間が通れない小さな穴から差してきており、しかも夕日なので、出口のある東側ではなく反対の西側にいる、とヤノハが気づく場面から始まります。アカメは、西に歩いていたのか、と驚きますが、これは演技で、ヤノハを洞窟から脱出させないために、わざと西側に誘導したのでしょう。落胆する様子を見せず、最初からやり直しだ、と言うヤノハにたいして、少し休まないか、とアカメは提案します。
その頃、麑(カノコ)の里では、鞠智彦(ククチヒコ)が夕日を眺めていました。従者(だと思われます)のウガヤからここで一泊しようと提案された鞠智彦は承諾します。ウガヤは、暈(クマ)の国の「首都」である鹿屋(カノヤ)から慌ただしく出立したため、詳しくは聞いていなかったタケル王との話し合いについて、鞠智彦に尋ねます。鞠智彦が、タケル王は自分に全軍の指揮を委ねるとようやく承諾した、と答えると、これで那(ナ)との勝利は確実だ、とウガヤは嬉しそうに言います。那の次は伊都(イト)・末盧(マツロ)・穂波(ホミ)・都萬(トマ)を攻略して筑紫の島をすべて制圧する、と鞠智彦は今後の予定を語ります。『三国志』では、穂波は不弥、都萬は投馬でしょうが、これらの国々は九州にある、という設定なのでしょう。その後に向かうのは伊予之二名島(イヨノフタナシマ)、とウガヤが言うと、五百木(イオキ)・伊予(イヨ)・土器(ドキ)・三野(ミノ)・土左(トサ)・賛支(サノキ)を手中に収める、と鞠智彦は続けます。このやり取りで地図が掲載されていますが、伊予之二名島は四国で、旧国名では、伊予はそのままで(ただ、全域ではないようです)、五百木は伊予と土佐の間(両国にまたがっているのかもしれません)、讃岐を構成するのは東から賛支・土器・三野、土左は土佐の西半分程度ということになりそうです。タケル王は山社(ヤマト)に籠ろうとしたのではないか、とウガヤに尋ねられた鞠智彦は、そうだったが、それよりも東征をするよう進言した、と答えます。タケル王が山社に赴けば、「日の巫女」に偽の日見彦(ヒミヒコ)だとばれてしまう、と鞠智彦が言うと、タケル王は自分に天照大神(アマテラスオホミカミ)が降りると本気で信じているようだ、とウガヤは懸念します。そこが悩ましいところだ、と鞠智彦は嘆息しますが、タケル王に対する悪意・敵意はなさそうで、困った人とは思いつつも支えていく意思は固そうです。
その頃、トンカラリンの洞窟の出口には、祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメや祈祷女見習いたちへの講義を担当しているイクメたちが、洞窟から出てくる者を待ち構えていました。もう日が暮れかけていることから、自分たちがトンカラリンの洞窟に送り込んだ11人の中には日見子(ヒミコ)はいないのでは、とイクメがヒルメに尋ねると、もう1日待とう、とヒルメは答えます。明日、生還者がいなければ、残った祈祷女(イノリメ)見習い全員をトンカラリンの洞窟に送り込む、とヒルメは言います。祈祷女見習い全員に死ねということなのか、とイクメは驚きますがヒルメは動じず、それほど我々には日見子が必要なのだ、と力説します。
その頃洞窟内では、休憩していたヤノハが夢を見ていました。目の前にモモソが現れると、ヤノハは怯えます。なぜ自分を殺したのだ、とモモソに問われたヤノハは、生きるために仕方なかった、と答えます。私はようやく顕われた日見子だ、私が死ねば倭国に平和は訪れない、と言うモモソに、だからモモソを補佐しようとした、とヤノハは答えます。するとモモソは恐ろしい表情を浮かべて、だが私を楼観より投げ落とした、とヤノハに厳しく言い放ちます。ヤノハは土下座して許しを請います。モモソのような選ばれし者だけが得をして、自分のような何も持たない人間が野垂れ死にするような世の中に腹が立ち、いつの間にかモモソへの殺意になったのだ、とヤノハは懺悔します。しかしモモソは冷然と、私を殺した科は消えない、お前には罰として、私に代わって倭国大乱を治める神託がくだった、とヤノハに告げます。それは無理だ、と言うヤノハにたいして、そう、お前は偽物だからな、とモモソは冷然と言い放ちます。自分には神は永久に降りないから倭国を平和に導くのは無理だ、と言うヤノハにたいして、お前は生涯偽者を貫く運命だ、生涯、本物を演じ続けるのだ、とモモソは告げます。
ヤノハが目を覚ますと、アカメは側にいませんでした。洞窟内の広場に戻ってきたアカメは、土を掘って食料を取り出して食べます。ヤノハは日見子ではないもののおそろしく生命力が強かったので、祈祷女ではなく自分のように探り女(サグリメ)になればよかったのだ、とアカメは考えていました。トンカラリンの洞窟から祈祷女見習いたちを脱出させないようにする、という使命を果たしたと考えたアカメは、自分が脱出するべく出口へと向かいます。アカメは、自分の助けがないヤノハは脱出できない、と確信しているのでしょう。寝ているヤノハを殺そうとしなかったのは、ヤノハの武人としての実力としたたかさを知っており、寝ている振りかもしれない、と警戒していたからでしょうか。
夜が明け、トンカラリンの洞窟の出口には、ヒルメとイクメがいました。二人とも一晩中起きていたようです。日の出を眺め、種智院(シュチイン)に戻ろう、とヒルメはイクメに促します。私を冷酷と思うか、と尋ねるヒルメにたいして、イクメは否定します。ヒルメは憤懣やるかたないといった感じで、すべてはヤノハのせいだ、と吐き捨てるように言います。モモソこそ真の日見子だったのに、ヤノハがモモソを殺害した、最も酷い死を迎えていればよい、と加虐的な表情を浮かべつつ、ヒルメは言い放ちます。
その頃、出口近くまで来たアカメは、真の見ていたヒルメは、ヒルメたち日の巫女集団がまだ日見子出現を諦めていないことに苛立っていました。ヒルメたちが立ち去らないと、自分も出ていけない、というわけです。一先ず寝ようとしたアカメの背後からヤノハが迫り、アカメの首を絞めます。ヤノハはアカメがヒルメの放った刺客だと疑っていました。なぜここに来られたのか、とアカメに問われたヤノハは、自分は偽者なので同類の心が読める、お前は最初から怪しかった、と答えます。洞窟内の広場で死んでいたナカツとオシは刺殺されていたので、籠も松明もアカメが用意したのだとヤノハは推測しました。それでも、なぜ出口近くまで来たのか、疑問に思うアカメにたいして、アカメの体に松脂を塗っておいた、自分は鼻が利くのだ、とヤノハは答えます。ヒルメ様の命で自分を置き去りにしたのだろう、飛んでもらうぞ、と言ってアカメの首を強く締めてくるヤノハにたいしてアカメは、私はヒルメ様の刺客ではなく、鞠智彦様の探り女である志能備(シノビ)だ、と言います。アカメはヤノハに、鞠智彦様は倭国大乱を本気で鎮めようとしており、そのためにトンカラリンの生還者は邪魔なのだ、とヤノハに説明します。するとヤノハはアカメから離れて、そうならば殺す必要はない、と言います。自分は日見子の柄ではない、お前こそ日見子になれ、そうすれば鞠智彦様も安心するだろう、と言うヤノハにたいして、アカメは剣を突き付けます。お前こそ日見子だから殺さねばならない、と言って斬りかかってくるアカメにたいしてヤノハは石を投げて剣を地面に落とし、アカメの首を絞めて殺します。ヤノハはアカメに、自分は生きたいのだ、すまない、と声をかけます。
その頃、トンカラリンの洞窟の出口にいたヒルメやイクメたちは、誰も洞窟から出てくる様子がないので、種智院に戻ろうとしていました。すると、日の巫女の一人が、誰か出てくる、と言います。それがヤノハだと分かると、ヒルメは狼狽して、嘘だ、ヤノハを殺せ、と配下に命じます。しかし、配下は全員、日見子が顕われた、これで倭国大乱が終わる、と言って感激し、ヤノハを拝み始めます。戸惑いつつも、モモソの言葉が正夢になった、とヤノハが思っているところで今回は終了です。
今回もひじょうに密度が濃く、たいへん楽しめました。タケル王は自分が真の日見彦だと確信しているようですが、暈の国上層部は、そうではないと知っています。それでもなおタケル王を退位させたり殺そうとしたりしないのは、タケル王を日見彦として推戴することが統治に有利と考えているからでしょうか。鞠智彦は現実的な思考の有能な人物といった感じで、日見子と認定されたヤノハとは対立する関係にありますから、今後しばらくは、鞠智彦がヤノハをどのように殺害しようとするのか、ヤノハがそれにどう対処するのかが、見どころになりそうです。
ヤノハの夢に出てきたモモソは、本当にモモソが「降りてきた」というオカルト的な設定かもしれませんが、単なる夢とも解釈できます。モモソが、正式な祈祷女になる前に自分は死ぬと分かっていたり、天照大神が「降って」くると、まったく疑っていなかったヤノハの謀略を見抜いたりしていることを考えると、オカルト的な解釈が正解なのかな、とも思います。創作なのでオカルト的な設定があってもよいと思いますし、おそらく夢ともオカルトとも解釈できるような描写が今後も続くのではないか、と予想しています。それは曖昧な描写と否定的に考えることもできますが、現時点では上手く描写できているように思うので、とくに気になりません。おそらく今後もたびたび、ヤノハの夢にモモソが現れて、ヤノハに進路を指示するのでしょう。
アカメは予想通りヤノハに殺されました。ヤノハは一度はアカメを生かそうとしましたから、生きるためには手段を選ばないというだけで、殺人鬼というわけではないのでしょう。また、すまない、とアカメに言っていることからも、少なくとも現時点では、ヤノハにもある程度は人並の心は残っているのだと思います。アカメが予定していたように、ヒルメたちがトンカラリンの洞窟の出口から立ち去った後に洞窟から脱出する、という選択肢もヤノハにはあったのではないか、とも考えました。しかしヤノハは、ヒルメたちがいつトンカラリンの洞窟の出口から去るのか、確証を得ていなかったでしょうし、アカメのように食料の隠し場所を知っていたわけではありません。ならば、体力の観点からも、ともかくできるだけ早いうちに洞窟から脱出すべきだ、と考えたのでしょう。ただ、ヤノハは脱出した時点では、自分が日見子として迎え入れられるとは予想していなかったようです。ただ、夢でのモモソの発言をすぐに思い出し、自分は偽の日見子として生きていこう、と決断したのでしょう。
ヤノハは祈祷部のほとんどから日見子と認められましたが、その長であるヒルメはなおも、モモソが真の日見子で、モモソを殺したヤノハが真の日見子のはずはない、と確信しているようです。日見子の出現を、日見彦たるタケル王もその共治者たる鞠智彦もまったく歓迎しておらず、殺そうとしています。さらに、祈祷部の長であるヒルメもヤノハに立ちはだかる敵となりそうですから、今後しばらくは、ヤノハが暈の国において日見子としての権威をいかに確立していくのか、という話が続きそうです。これもたいへん面白くなりそうですが、すでに名前だけ登場している那国のトメという将軍との戦いも描かれるでしょうし、やがては九州だけではなく四国と本州、さらには朝鮮半島や後漢(およびその後の三国時代)も舞台となるでしょうから、かなり雄大な物語になるのではないか、と期待されます。次回もたいへん楽しみです。
その頃、麑(カノコ)の里では、鞠智彦(ククチヒコ)が夕日を眺めていました。従者(だと思われます)のウガヤからここで一泊しようと提案された鞠智彦は承諾します。ウガヤは、暈(クマ)の国の「首都」である鹿屋(カノヤ)から慌ただしく出立したため、詳しくは聞いていなかったタケル王との話し合いについて、鞠智彦に尋ねます。鞠智彦が、タケル王は自分に全軍の指揮を委ねるとようやく承諾した、と答えると、これで那(ナ)との勝利は確実だ、とウガヤは嬉しそうに言います。那の次は伊都(イト)・末盧(マツロ)・穂波(ホミ)・都萬(トマ)を攻略して筑紫の島をすべて制圧する、と鞠智彦は今後の予定を語ります。『三国志』では、穂波は不弥、都萬は投馬でしょうが、これらの国々は九州にある、という設定なのでしょう。その後に向かうのは伊予之二名島(イヨノフタナシマ)、とウガヤが言うと、五百木(イオキ)・伊予(イヨ)・土器(ドキ)・三野(ミノ)・土左(トサ)・賛支(サノキ)を手中に収める、と鞠智彦は続けます。このやり取りで地図が掲載されていますが、伊予之二名島は四国で、旧国名では、伊予はそのままで(ただ、全域ではないようです)、五百木は伊予と土佐の間(両国にまたがっているのかもしれません)、讃岐を構成するのは東から賛支・土器・三野、土左は土佐の西半分程度ということになりそうです。タケル王は山社(ヤマト)に籠ろうとしたのではないか、とウガヤに尋ねられた鞠智彦は、そうだったが、それよりも東征をするよう進言した、と答えます。タケル王が山社に赴けば、「日の巫女」に偽の日見彦(ヒミヒコ)だとばれてしまう、と鞠智彦が言うと、タケル王は自分に天照大神(アマテラスオホミカミ)が降りると本気で信じているようだ、とウガヤは懸念します。そこが悩ましいところだ、と鞠智彦は嘆息しますが、タケル王に対する悪意・敵意はなさそうで、困った人とは思いつつも支えていく意思は固そうです。
その頃、トンカラリンの洞窟の出口には、祈祷部(イノリベ)の長であるヒルメや祈祷女見習いたちへの講義を担当しているイクメたちが、洞窟から出てくる者を待ち構えていました。もう日が暮れかけていることから、自分たちがトンカラリンの洞窟に送り込んだ11人の中には日見子(ヒミコ)はいないのでは、とイクメがヒルメに尋ねると、もう1日待とう、とヒルメは答えます。明日、生還者がいなければ、残った祈祷女(イノリメ)見習い全員をトンカラリンの洞窟に送り込む、とヒルメは言います。祈祷女見習い全員に死ねということなのか、とイクメは驚きますがヒルメは動じず、それほど我々には日見子が必要なのだ、と力説します。
その頃洞窟内では、休憩していたヤノハが夢を見ていました。目の前にモモソが現れると、ヤノハは怯えます。なぜ自分を殺したのだ、とモモソに問われたヤノハは、生きるために仕方なかった、と答えます。私はようやく顕われた日見子だ、私が死ねば倭国に平和は訪れない、と言うモモソに、だからモモソを補佐しようとした、とヤノハは答えます。するとモモソは恐ろしい表情を浮かべて、だが私を楼観より投げ落とした、とヤノハに厳しく言い放ちます。ヤノハは土下座して許しを請います。モモソのような選ばれし者だけが得をして、自分のような何も持たない人間が野垂れ死にするような世の中に腹が立ち、いつの間にかモモソへの殺意になったのだ、とヤノハは懺悔します。しかしモモソは冷然と、私を殺した科は消えない、お前には罰として、私に代わって倭国大乱を治める神託がくだった、とヤノハに告げます。それは無理だ、と言うヤノハにたいして、そう、お前は偽物だからな、とモモソは冷然と言い放ちます。自分には神は永久に降りないから倭国を平和に導くのは無理だ、と言うヤノハにたいして、お前は生涯偽者を貫く運命だ、生涯、本物を演じ続けるのだ、とモモソは告げます。
ヤノハが目を覚ますと、アカメは側にいませんでした。洞窟内の広場に戻ってきたアカメは、土を掘って食料を取り出して食べます。ヤノハは日見子ではないもののおそろしく生命力が強かったので、祈祷女ではなく自分のように探り女(サグリメ)になればよかったのだ、とアカメは考えていました。トンカラリンの洞窟から祈祷女見習いたちを脱出させないようにする、という使命を果たしたと考えたアカメは、自分が脱出するべく出口へと向かいます。アカメは、自分の助けがないヤノハは脱出できない、と確信しているのでしょう。寝ているヤノハを殺そうとしなかったのは、ヤノハの武人としての実力としたたかさを知っており、寝ている振りかもしれない、と警戒していたからでしょうか。
夜が明け、トンカラリンの洞窟の出口には、ヒルメとイクメがいました。二人とも一晩中起きていたようです。日の出を眺め、種智院(シュチイン)に戻ろう、とヒルメはイクメに促します。私を冷酷と思うか、と尋ねるヒルメにたいして、イクメは否定します。ヒルメは憤懣やるかたないといった感じで、すべてはヤノハのせいだ、と吐き捨てるように言います。モモソこそ真の日見子だったのに、ヤノハがモモソを殺害した、最も酷い死を迎えていればよい、と加虐的な表情を浮かべつつ、ヒルメは言い放ちます。
その頃、出口近くまで来たアカメは、真の見ていたヒルメは、ヒルメたち日の巫女集団がまだ日見子出現を諦めていないことに苛立っていました。ヒルメたちが立ち去らないと、自分も出ていけない、というわけです。一先ず寝ようとしたアカメの背後からヤノハが迫り、アカメの首を絞めます。ヤノハはアカメがヒルメの放った刺客だと疑っていました。なぜここに来られたのか、とアカメに問われたヤノハは、自分は偽者なので同類の心が読める、お前は最初から怪しかった、と答えます。洞窟内の広場で死んでいたナカツとオシは刺殺されていたので、籠も松明もアカメが用意したのだとヤノハは推測しました。それでも、なぜ出口近くまで来たのか、疑問に思うアカメにたいして、アカメの体に松脂を塗っておいた、自分は鼻が利くのだ、とヤノハは答えます。ヒルメ様の命で自分を置き去りにしたのだろう、飛んでもらうぞ、と言ってアカメの首を強く締めてくるヤノハにたいしてアカメは、私はヒルメ様の刺客ではなく、鞠智彦様の探り女である志能備(シノビ)だ、と言います。アカメはヤノハに、鞠智彦様は倭国大乱を本気で鎮めようとしており、そのためにトンカラリンの生還者は邪魔なのだ、とヤノハに説明します。するとヤノハはアカメから離れて、そうならば殺す必要はない、と言います。自分は日見子の柄ではない、お前こそ日見子になれ、そうすれば鞠智彦様も安心するだろう、と言うヤノハにたいして、アカメは剣を突き付けます。お前こそ日見子だから殺さねばならない、と言って斬りかかってくるアカメにたいしてヤノハは石を投げて剣を地面に落とし、アカメの首を絞めて殺します。ヤノハはアカメに、自分は生きたいのだ、すまない、と声をかけます。
その頃、トンカラリンの洞窟の出口にいたヒルメやイクメたちは、誰も洞窟から出てくる様子がないので、種智院に戻ろうとしていました。すると、日の巫女の一人が、誰か出てくる、と言います。それがヤノハだと分かると、ヒルメは狼狽して、嘘だ、ヤノハを殺せ、と配下に命じます。しかし、配下は全員、日見子が顕われた、これで倭国大乱が終わる、と言って感激し、ヤノハを拝み始めます。戸惑いつつも、モモソの言葉が正夢になった、とヤノハが思っているところで今回は終了です。
今回もひじょうに密度が濃く、たいへん楽しめました。タケル王は自分が真の日見彦だと確信しているようですが、暈の国上層部は、そうではないと知っています。それでもなおタケル王を退位させたり殺そうとしたりしないのは、タケル王を日見彦として推戴することが統治に有利と考えているからでしょうか。鞠智彦は現実的な思考の有能な人物といった感じで、日見子と認定されたヤノハとは対立する関係にありますから、今後しばらくは、鞠智彦がヤノハをどのように殺害しようとするのか、ヤノハがそれにどう対処するのかが、見どころになりそうです。
ヤノハの夢に出てきたモモソは、本当にモモソが「降りてきた」というオカルト的な設定かもしれませんが、単なる夢とも解釈できます。モモソが、正式な祈祷女になる前に自分は死ぬと分かっていたり、天照大神が「降って」くると、まったく疑っていなかったヤノハの謀略を見抜いたりしていることを考えると、オカルト的な解釈が正解なのかな、とも思います。創作なのでオカルト的な設定があってもよいと思いますし、おそらく夢ともオカルトとも解釈できるような描写が今後も続くのではないか、と予想しています。それは曖昧な描写と否定的に考えることもできますが、現時点では上手く描写できているように思うので、とくに気になりません。おそらく今後もたびたび、ヤノハの夢にモモソが現れて、ヤノハに進路を指示するのでしょう。
アカメは予想通りヤノハに殺されました。ヤノハは一度はアカメを生かそうとしましたから、生きるためには手段を選ばないというだけで、殺人鬼というわけではないのでしょう。また、すまない、とアカメに言っていることからも、少なくとも現時点では、ヤノハにもある程度は人並の心は残っているのだと思います。アカメが予定していたように、ヒルメたちがトンカラリンの洞窟の出口から立ち去った後に洞窟から脱出する、という選択肢もヤノハにはあったのではないか、とも考えました。しかしヤノハは、ヒルメたちがいつトンカラリンの洞窟の出口から去るのか、確証を得ていなかったでしょうし、アカメのように食料の隠し場所を知っていたわけではありません。ならば、体力の観点からも、ともかくできるだけ早いうちに洞窟から脱出すべきだ、と考えたのでしょう。ただ、ヤノハは脱出した時点では、自分が日見子として迎え入れられるとは予想していなかったようです。ただ、夢でのモモソの発言をすぐに思い出し、自分は偽の日見子として生きていこう、と決断したのでしょう。
ヤノハは祈祷部のほとんどから日見子と認められましたが、その長であるヒルメはなおも、モモソが真の日見子で、モモソを殺したヤノハが真の日見子のはずはない、と確信しているようです。日見子の出現を、日見彦たるタケル王もその共治者たる鞠智彦もまったく歓迎しておらず、殺そうとしています。さらに、祈祷部の長であるヒルメもヤノハに立ちはだかる敵となりそうですから、今後しばらくは、ヤノハが暈の国において日見子としての権威をいかに確立していくのか、という話が続きそうです。これもたいへん面白くなりそうですが、すでに名前だけ登場している那国のトメという将軍との戦いも描かれるでしょうし、やがては九州だけではなく四国と本州、さらには朝鮮半島や後漢(およびその後の三国時代)も舞台となるでしょうから、かなり雄大な物語になるのではないか、と期待されます。次回もたいへん楽しみです。
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