横綱の稀勢の里関が引退表明(追記有)

 大相撲初場所で初日から3連敗の横綱の稀勢の里関が、4日目を迎えた今日、引退を表明しました。引退が遅すぎと考えている人は私も含めて少なくないでしょう。稀勢の里関は、横綱昇進後初めて迎えた一昨年(2017年)年春場所で優勝して以降、先場所までの10場所で勝ち越したのは昨年秋場所だけで(10勝)、途中休場が5場所、全休が4場所と横綱としては惨憺たる成績でした。こんな惨状でも横綱審議委員会からは引退勧告がなく、悪例を残しただけとなりました。白鵬関と鶴竜関の両横綱にも、少々休場しても構わないだろう、と開き直っているところが窺えます。じっさい、相撲協会は稀勢の里関にこれだけ甘い態度を示した以上、白鵬関と鶴竜関に関してはある程度の休場を認めねばならない、と思います。

 相撲協会(横綱審議委員会も含めて)がこれだけ稀勢の里関に甘かったのは、稀勢の里関が「日本人」力士として最強で、多くの相撲愛好者が稀勢の里関を応援し続けたからでしょう。確かに、稀勢の里関は近年では最も客を呼べる力士だったと思います。そうした状況ゆえに、NHKを代表に相撲を報道する主要マスメディアは公然と稀勢の里関を贔屓し続け、それが相撲愛好者の稀勢の里関への応援をさらに促進したように思います。稀勢の里関が甘い基準で横綱に昇進したのも、相撲協会・マスメディア・相撲愛好者が相互に稀勢の里関贔屓を過熱させてしまった結果だと思います。

 私はこの状況に以前から不満を抱いていたので、稀勢の里関を甘い基準で横綱に昇進させることにはずっと反対でした(関連記事)。双羽黒(北尾)関の廃業以降、大関で2場所連続優勝が事実上横綱昇進の条件だったにもかかわらず、稀勢の里関は12勝3敗の「準優勝」→14勝1敗の優勝で横綱に昇進しました。私はこの昇進に反対だったのですが(関連記事)、稀勢の里関の前に横綱に昇進した鶴竜関は大関で2場所連続優勝の条件を満たしていなかったので、稀勢の里関の横綱昇進が30年近く続いた慣例を破った、というわけではありません。

 しかし、そもそも鶴竜関の横綱昇進自体が、稀勢の里関を横綱に昇進させようとして相撲協会が横綱昇進基準を下げた結果のことでした。これにたいして白鵬関は内心かなり不満だったと私は推測しているのですが、訴えられて無罪を勝ち取れるほどの確かな証拠を提示できるわけでもないので、省略します。それはともかく、鶴竜関が14勝1優勝同点→14勝1優勝で横綱昇進を決めたのと比較すると、稀勢の里関は上述のように12勝3敗の「準優勝」→14勝1敗の優勝での横綱昇進ですから、30年近い慣例と比較して甘めな鶴竜関よりもさらに甘い基準での昇進でした。しかも、12勝3敗の「準優勝」とはいっても星二つの差です。せめてその前の場所で優勝していればまだ理解できますが、10勝5敗でした。

 これは、興行上「日本人」横綱が必要だとして、稀勢の里関に甘い態度を示し続けてきた相撲協会の責任ですが、上述したように、相撲愛好者とマスメディアの責任も大きいと思います。相撲協会および横綱審議委員会は今後、横綱の昇進基準を見直して厳しくし、休場を続ける横綱にたいしてもっと毅然とした態度を示さねばならないでしょう。率直に言って稀勢の里関の引退までの経緯は、年6場所制以降の横綱では、双羽黒関の件と匹敵するかそれ以上の汚点になってしまったと思います。

 当ブログの過去記事の引用にさいして読み返してみましたが、第三者から見れば、私は稀勢の里関のアンチに他ならないでしょう。率直に言って、稀勢の里関は好みの力士ではなかったので、実力以上に贔屓されていることが気に入らず、必要以上に批判してしまったところはあるかもしれません。しかし、腰高で相撲が上手いわけでも速いわけでもなく、力があるとはいっても曙関や武蔵丸関や把瑠都関ほどではなくて、重圧にたいへん弱く、不愛想で、千代の富士関や霧島関のように二枚目でもない稀勢の里関が、「日本人」力士として最強という理由(それ以外の理由も多少あるでしょうが)で相撲協会・相撲愛好者・マスメディアから贔屓され続けてきたのは、やはり健全とは言えないと思います。

 稀勢の里関の引退により、上位は横綱2人・大関3人となりました。大関の高安関を除く4人は30代で、加齢による疲労蓄積と衰えがあるのでしょうが、今場所の上位陣の成績は惨憺たるものです。稀勢の里関も含めると、3日目までの横綱・大関陣の成績は合計5勝13敗で、白鵬関を除くと2勝13敗となります。場所前に栃ノ心関が太股を痛めたり、高安関がインフルエンザにかかったりといった事情はあるにしても、今後が不安になります。大関に近い力士となると、すでに優勝経験のある御嶽海関と貴景勝関でしょうが、御嶽海関には不安定なところがありますし、貴景勝関は基本が押し相撲ですから、横綱に昇進して相応しい成績を残せるかとなると、疑問も残ります。鶴竜関も限界に近づきつつあるように思われるので、かなり力が衰えてきたようだとはいえ、やはり白鵬関にもうしばらく頑張ってもらわねばならないのでしょうか。当分は、白鵬関が大怪我をしないよう、祈るしかなさそうです。


追記(2019年1月16日)
 稀勢の里関の引退の原因となった、一昨年春場所13日目の日馬富士関との対戦での負傷は確かに不幸で、これがなければ、鶴竜関と同等以上の成績を残していた可能性は低くないと思います。まあ、鶴竜関も横綱としては水準以下だと思いますが。また、稀勢の里関も自身への相撲協会・相撲愛好者・マスメディアの期待はよく理解していたでしょうから、それが稀勢の里関を追い込んだ、という側面は多分にあります。また、それまでほとんど休場を経験していなかったことも、どう対処すべきかの経験の少なさという点で、不運と言えるかもしれません。おそらく稀勢の里関が絶対服従していただろう先代の鳴戸親方(横綱の隆の里関)が定年前に急死し、自分より現役時代の実績がずっと劣る田子ノ浦親方(隆の鶴関)が師匠となったことも、不運だったと言えるかもしれません。

 しかし、状態を見極めずに強引に出場しては途中休場を繰り返したことに関しては、稀勢の里関が責任を負うべきであり、そのように意固地になってしまうあたりも、横綱の器ではなかった、と思います。しかし、ともかく稀勢の里関は横綱を務めて、横綱在位中に1回優勝しています。曙関以降、今場所の前までに引退した6人の横綱のうち5人が、定年よりもずっと前に相撲協会を退職しています。稀勢の里関が優れた指導者になれるとはとても思えませんが、ともかく横綱だったのですから、何とか定年まで相撲協会に在籍してもらいたいものです。

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