John Gribbin「人類という奇跡」

 『日経サイエンス』2018年12月号の特集「新・人類学 ヒトはなぜ人間になったのか」第3部「明日の姿」に掲載された解説です。本論文は、天の川銀河では千億個の星が惑星を有しているものの、生命の誕生する条件はたいへん厳しい、と強調します。まず、重い元素がある程度以上誕生するには、宇宙誕生から数十億年以上経過する必要があります。次に、銀河中心近くでは超新星爆発やガンマ線バーストなどの生命にとって危険な事象が多く起きます。また、適度な温度と液体の水があり、生命に有害な宇宙放射線を(かなりの程度)遮る磁場の形成される惑星が必要となります。

 生命誕生にはこれらの厳しい条件が満たされねばならないので、天の川銀河に地球以外にも生命はほぼ確実に存在しているだろうとはいえ、その個数は少ないと予測されます。また、生命誕生以降も、人間の出現につながった真核生物の出現には長い時間を要し、生物の爆発的な多様化もそのずっと後なので、人間の出現はきわめて低い確率の連続の結果だ、と本論文は指摘します。天の川銀河に人間のような知的生命体が存在する可能性はほぼない、というわけです。本論文では約15億年前とされている真核生物の出現時期や、真核生物の出現と後にミトコンドリアとなった真正細菌の獲得とが混同されているのではないか、といった疑問が残りますが、この問題に関してはあまりにも不勉強なので、今後の課題とします。


参考文献:
Gribbin J. (2018)、『日経サイエンス』編集部訳「人類という奇跡」『日経サイエンス』2018年12月号P94-99



 以下、これまでに掲載した『日経サイエンス』2018年12月号の記事です。

Kevin Laland「ヒトがヒトを進化させた」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_15.html

Thomas Suddendorf「思考力をもたらした2つの性質」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_16.html

Susan Blackmore「意識を持つのは人間だけか」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_17.html

Christine Kenneally「高度な言語が生まれた理由」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_19.html

Chet C Sherwood「データで見る脳の違い」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_20.html

Kate Wong「ホモ・サピエンス成功の舞台裏」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_21.html

Michael Tomasello「モラルを生んだ生存競争」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_22.html

Richard Brian Ferguson「戦争は人間の本能か」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_24.html

Menno Schilthuizen「都市が変える生物進化」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_25.html

Pedro Domingos「分身AIがつくる社会」
https://sicambre.seesaa.net/article/201901article_26.html

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