Christine Kenneally「高度な言語が生まれた理由」

 『日経サイエンス』2018年12月号の特集「新・人類学 ヒトはなぜ人間になったのか」第1部「人間性の起源」に掲載された解説です。言語の起源と進化は一般層にも関心の高い問題でしょうが、言語学では禁忌とされたこともありました。その理由としては、非科学的な推測が横行してしまう危険性や、政治的要請が指摘されています。20世紀後半においても、解明が不可能との理由から、言語の起源や進化に冷ややかな姿勢が言語学において見られましたが、近年では、言語学のみならず、脳科学・遺伝学・動物学など幅広い分野で言語の進化に関する研究が進展しており、その答えに近づきつつある、と本論文は指摘します。

 長い間、言語は人間に特有と考えられてきました。しかし、言語の基盤となる能力が他の動物にも備わっている、と明らかになってきました。たとえば、身振りはチンパンジーに見られますし、ベルベットモンキーは危険の種類に応じて単語に似た警戒声を使い分けます。キンカチョウの歌には複雑な構造が見られますし、イルカは単語の順序を理解でき、ハチやアカゲザルは4まで数えることができます。このように、人間の言語の基盤となる能力は複数の動物で見られます。本論文は、言語は複数の能力で構成される一つのプラットフォームから生まれ、そうした能力のいくつかはひじょうに古くからあり、他の動物も共有している、と指摘します。言語に必要な一連の能力を生み出している単一の遺伝子はないだろう、というわけです。また本論文は、言語は世代を重ねるごとに複雑になり構造的になっていくと推測され、そこに言語進化の鍵がある、と指摘しています。


参考文献:
Kenneally C. (2018)、『日経サイエンス』編集部訳「高度な言語が生まれた理由」『日経サイエンス』2018年12月号P52-57

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