Susan Blackmore「意識を持つのは人間だけか」

 『日経サイエンス』2018年12月号の特集「新・人類学 ヒトはなぜ人間になったのか」第1部「人間性の起源」に掲載された解説です。意識についての多様な議論が紹介されています。そもそも、意識とは何か、という定義自体がひじょうに哲学的でもあり、難問であることが、議論が錯綜している要因でもあるのでしょう。そのため、この問題に関しては、ひじょうに異なる多くの説が提示されています。その中で、意識を持つのは人間だけだ、との見解は前近代から見られ、ひじょうに根強いものがあります。しかし、人間の生理・行動の反応は、多くの動物と共通することも示されています。

 このような多くの動物の知見も踏まえて、人間の意識がどう形成されてきたのか、という問題も論じられていますが、その起源については、5億年以上前、哺乳類の出現した2億年前、文化的爆発の始まった6万年前、3000年前以降など、じつに多様です。本論文は、錯覚に基づく自己という仮説を支持しています。人間の脳では膨大な認識と思考の草稿が耐えず処理されており、システムが探索されて応答が引き出されるまでは意識的なものも無意識的なものも存在せず、応答が引き出されて初めて、思考や行動が意識的だったと言える、というわけです。人間が独特なのは、意識を持つ「私」がいると謝って信じ込むほど賢いのは人間だけだ、と指摘しています。


参考文献:
Blackmore S. (2018)、『日経サイエンス』編集部訳「意識を持つのは人間だけか」『日経サイエンス』2018年12月号P46-51

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