イエメンで大流行したコレラのゲノム解析

 イエメンで大流行(エピデミック)したコレラのゲノム解析に関する研究(Weill et al., 2019)が公表されました。イエメンでは現在、近年最大と考えられるコレラの大流行が起きています。最初の症例群は2016年9月に公表され、それ以来110万以上の症例と2300人以上の死亡が報告されています。本論文は、イエメンのこの大流行したコレラ菌(Vibrio cholera)分離株と周辺地域の最近の分離株のゲノムの塩基配列を解読し、系統発生学的関係・発症機序・抗微生物薬耐性の決定要因について調べました。得られた計116のゲノム塩基配列は、第7次世界的大流行の血清群O1型およびO139型コレラ菌エルトール生物型の1087分離株からなる全球コレクションの系統発生学的範囲内に位置していました。

 イエメンのコレラ大流行の2回の疫学的流行の波は、初回が2016年9月28日~2017年4月23日(疑われる症例は25839件)、2回目が2017年4月24日以降(疑われる症例は100万件以上)です。そのさいに採取された分離株は、第7次パンデミックの血清群O1型コレラ菌エルトール生物型(7PET)系統の単一の亜系統である、小川型コレラ菌分離株である、と示されました。本論文はゲノム手法を用いて、イエメンのエピデミックを全球規模のパンデミックコレラ菌の拡散に結びつけ、さらにこの亜系統は南アジアに起源があり、イエメンに出現する前に東アフリカで大発生を引き起こした、と明らかにします。さらに、イエメンの分離株は、コレラ治療に一般的に用いられるいくつかの抗生物質やポリミキシンB(耐性がエルトール生物型のマーカーとして用いられる)に感受性であることも示されています。この研究は、全球規模のコレラの拡散を理解し、それを阻止する取り組みにとって、国境を超えた共同研究がきわめて重要である、と示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


微生物遺伝学:イエメンでの2016~2017年のコレラのエピデミックに関するゲノムに基づく手掛かり

微生物遺伝学:イエメンでのコレラのエピデミックを追跡する

 イエメンでのコレラのエピデミックは2016年に始まり、それ以来、100万以上の症例と数千人の死亡が報告されている。F Weillたちは今回、このエピデミックの42の分離株のゲノムの塩基配列解読を行い、その起源についてさらに理解を深めた。周辺地域の分離株の塩基配列との比較から、最近の単一の亜系統がイエメンのエピデミックの原因であり、この亜系統は南アジア起源で、イエメンに出現する前に東アフリカで大発生を引き起こしたことが分かった。この研究は、全球規模のコレラの拡散を理解し、それを阻止する取り組みにとって、国境を超えた共同研究が極めて重要であることを示している。



参考文献:
Weill FX. et al.(2019): Genomic insights into the 2016–2017 cholera epidemic in Yemen. Nature, 565, 7738, 230–233.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0818-3

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