アミノ酸の非生物的形成と生命の起源

 アミノ酸の非生物的形成に関する研究(Ménez et al., 2018)が公表されました。非生物的な炭化水素およびカルボン酸は地球上で形成されると知られており、その顕著な例にマントル岩石の熱水変質作用過程があります。非生物的なアミノ酸の形成は、実験研究および熱力学計算の両方で予測されてきましたが、地球環境での非生物的なアミノ酸形成が実証された例はまだありません。この研究は、高解像度の画像化技術を複数組み合わせた多モード手法を用いて、大西洋中央海嶺アトランティス岩体(Atlantis Massif)の下の深部において、芳香族アミノ酸(具体的にはトリプトファン)が非生物的に形成され、保存されていたことを示す証拠を得た。

 これらの芳香族アミノ酸は、岩体の蛇紋岩の変質作用後期に、鉄に富むサポナイト粘土が触媒するフリーデル–クラフツ反応によって形成された可能性があります。海洋リソスフェアでの流体–岩石相互作用によるアミノ酸の非生物的な生成の可能性が実証されたことで、生命の起源に関する深海熱水説の信用性が高まるとともに、太古の代謝および現在の深海生物圏の機能に関する手がかりも得られる可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


地球化学:海洋リソスフェアの凹部内での非生物的なアミノ酸合成

地球化学:トリプトファンの非生物的形成

 生命の起源、つまり生命がどこでどのようにして誕生したのかについては論争の的になっており、さまざまに推測されている。今回B Ménezたちは、芳香族アミノ酸(具体的にはトリプトファン)が実験室外の自然環境で非生物的に形成され得ることを示す証拠を提示している。これらのアミノ酸は、大西洋中央海嶺のアトランティス岩体(Atlantis Massif)の下の深部で形成され、保存されていたと考えられる。海洋リソスフェア内での流体–岩石相互作用による原始的なアミノ酸生成の可能性が実証されたことで、生命は深海の熱水噴出孔で誕生したとする説が支持された。



参考文献:
Ménez B. et al.(2018): Abiotic synthesis of amino acids in the recesses of the oceanic lithosphere. Nature, 564, 7734, 59–63.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0684-z

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