240万年前頃までさかのぼるアフリカ北部の石器
アフリカ北部の石器の年代が以前の見解よりもさかのぼることを報告した研究(Sahnouni et al., 2018)が報道されました。AFPでも報道されています。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。アフリカ北部における人類の痕跡は遅くとも180万年前頃にまでさかのぼり、アルジェリア北東部のアインハネヒ(Ain Hanech)研究地域のエルハーバ(El-Kherba)では、180万年前頃のオルドワン(Oldowan)石器と解体痕(cut marks)や打撃痕(percussion marks)のある動物の骨(おもにウマ)が発見されています(関連記事)。
本論文は、同じくアインハネヒ研究地域にあるアインブーシェリ(Ain Boucherit)とその近くの地点の発掘成果を報告しています。アインブーシェリでは多数の石器と動物遺骸が発見されました。石器は、180万年前頃のエルハーバと同じくオルドワンで、アフリカ東部のオルドワン石器と類似していますが、微妙な違いも見られます。その理由としては、石材の種類と品質やその他の機能的要因が推測されています石材は石灰岩(17点)と燧石(236点)で、剥片や丸い石核が確認されています。
アインブーシェリでは動物遺骸も発見されており、おもに中型のウシとウマです。下部では全体の5.7%となる17点の骨に解体痕が見られ、そのうち約半分は小型動物のものです。解体痕は四肢骨・肋骨・頭蓋骨に見られ、肉をそぎ落としたり内臓を摘出したり骨髄を抽出したりした、と推測されます。これは、狩猟を行なっていたか否かはともかく、当時の人類が最初に動物遺骸を食べていた、と示唆します。つまり、当時の人類は肉食獣の食べ残しを消費するだけで、もっぱら死肉漁りに依存していたわけではない、ということです。
アインブーシェリの年代は、古地磁気年代測定法および電子スピン共鳴法(ESR)と、発見された大型哺乳類から推定されました。本論文は、アインブーシェリの上部は192万±5万年前、下部は244万±14万年前と推定しています。これは、アフリカ北部の石器の年代としてはエルハーバより50万~60万年も古く、現時点では最古となります。アフリカ東部では260万年前頃よりオルドワン石器が製作され始めたので、アフリカ東部と北部では、最古の石器の出現年代の差が以前の想定よりもずっと近かったことになります。
しかし、アフリカ北部では200万年以上前の人類遺骸が発見されていないので、アインブーシェリの石器群の製作者がどの人類系統なのか、定かではありません。もっとも、それを言えば、アフリカ東部においても、初期オルドワン石器と直接的に関連した人類遺骸は確認されていません。アフリカ東部においては、280万年前頃にホモ属的な特徴を有する人類遺骸が発見されており(関連記事)、240万~230万年前頃には(ホモ属との区分に異論もあるとはいえ)ホモ属が存在していたので、オルドワン石器の製作者が初期ホモ属である可能性は高そうです。
本論文は、アフリカ東部で石器を製作し始めた人類系統が、じゅうらいの想定とは異なり、素早く北部も含むアフリカ全域に拡散したか、アフリカ東部と北部で人類集団がそれぞれ独自に石器を開発したのではないか、と推測しています。本論文の著者の一人であるセマウ(Sileshi Semaw)氏は、300万年以上前にアフリカ北部には人類が存在し、その子孫が石器を製作していた可能性を提示しています。また、本論文に関わっていないプラマー(Thomas Plummer)氏は、アフリカ東部では240万年前頃の決定的な解体痕が発見されていないのにたいして、アインブーシェリでは240万年前頃の確実な解体痕が確認されている、と指摘しています。ただ、本論文に関わっていないシャープ(Warren Sharp)氏は、アインブーシェリの240万年前頃という年代は確定的ではない、と指摘しています。
なお、アフリカ東部では330万年前頃の石器(関連記事)と、340万年前頃の解体痕(関連記事)も主張されていますが、これらに関しては議論が続いています。仮に人類が340万~330万年前頃に石器を製作していたとしても、それとオルドワン石器が技術的につながっているのか、定かではありません。人類が200万年以上前より狩猟を行なっていた可能性も指摘されていますし(関連記事)、東アジア北部では212万年前頃と推定されている石器も発見されています(関連記事)。これらの見解はまだ確定的ではないのですが、アフリカ北部に250万年前頃に人類が拡散し、狩猟を行なっていたとしても、不思議ではないと思います。今後は、アフリカ北部における200万年以上前の人類遺骸の発見が期待されます。
参考文献:
Sahnouni M. et al.(2018): 1.9-million- and 2.4-million-year-old artifacts and stone tool–cutmarked bones from Ain Boucherit, Algeria. Science, 362, 6420, 1297-1301.
https://doi.org/10.1126/science.aau0008
本論文は、同じくアインハネヒ研究地域にあるアインブーシェリ(Ain Boucherit)とその近くの地点の発掘成果を報告しています。アインブーシェリでは多数の石器と動物遺骸が発見されました。石器は、180万年前頃のエルハーバと同じくオルドワンで、アフリカ東部のオルドワン石器と類似していますが、微妙な違いも見られます。その理由としては、石材の種類と品質やその他の機能的要因が推測されています石材は石灰岩(17点)と燧石(236点)で、剥片や丸い石核が確認されています。
アインブーシェリでは動物遺骸も発見されており、おもに中型のウシとウマです。下部では全体の5.7%となる17点の骨に解体痕が見られ、そのうち約半分は小型動物のものです。解体痕は四肢骨・肋骨・頭蓋骨に見られ、肉をそぎ落としたり内臓を摘出したり骨髄を抽出したりした、と推測されます。これは、狩猟を行なっていたか否かはともかく、当時の人類が最初に動物遺骸を食べていた、と示唆します。つまり、当時の人類は肉食獣の食べ残しを消費するだけで、もっぱら死肉漁りに依存していたわけではない、ということです。
アインブーシェリの年代は、古地磁気年代測定法および電子スピン共鳴法(ESR)と、発見された大型哺乳類から推定されました。本論文は、アインブーシェリの上部は192万±5万年前、下部は244万±14万年前と推定しています。これは、アフリカ北部の石器の年代としてはエルハーバより50万~60万年も古く、現時点では最古となります。アフリカ東部では260万年前頃よりオルドワン石器が製作され始めたので、アフリカ東部と北部では、最古の石器の出現年代の差が以前の想定よりもずっと近かったことになります。
しかし、アフリカ北部では200万年以上前の人類遺骸が発見されていないので、アインブーシェリの石器群の製作者がどの人類系統なのか、定かではありません。もっとも、それを言えば、アフリカ東部においても、初期オルドワン石器と直接的に関連した人類遺骸は確認されていません。アフリカ東部においては、280万年前頃にホモ属的な特徴を有する人類遺骸が発見されており(関連記事)、240万~230万年前頃には(ホモ属との区分に異論もあるとはいえ)ホモ属が存在していたので、オルドワン石器の製作者が初期ホモ属である可能性は高そうです。
本論文は、アフリカ東部で石器を製作し始めた人類系統が、じゅうらいの想定とは異なり、素早く北部も含むアフリカ全域に拡散したか、アフリカ東部と北部で人類集団がそれぞれ独自に石器を開発したのではないか、と推測しています。本論文の著者の一人であるセマウ(Sileshi Semaw)氏は、300万年以上前にアフリカ北部には人類が存在し、その子孫が石器を製作していた可能性を提示しています。また、本論文に関わっていないプラマー(Thomas Plummer)氏は、アフリカ東部では240万年前頃の決定的な解体痕が発見されていないのにたいして、アインブーシェリでは240万年前頃の確実な解体痕が確認されている、と指摘しています。ただ、本論文に関わっていないシャープ(Warren Sharp)氏は、アインブーシェリの240万年前頃という年代は確定的ではない、と指摘しています。
なお、アフリカ東部では330万年前頃の石器(関連記事)と、340万年前頃の解体痕(関連記事)も主張されていますが、これらに関しては議論が続いています。仮に人類が340万~330万年前頃に石器を製作していたとしても、それとオルドワン石器が技術的につながっているのか、定かではありません。人類が200万年以上前より狩猟を行なっていた可能性も指摘されていますし(関連記事)、東アジア北部では212万年前頃と推定されている石器も発見されています(関連記事)。これらの見解はまだ確定的ではないのですが、アフリカ北部に250万年前頃に人類が拡散し、狩猟を行なっていたとしても、不思議ではないと思います。今後は、アフリカ北部における200万年以上前の人類遺骸の発見が期待されます。
参考文献:
Sahnouni M. et al.(2018): 1.9-million- and 2.4-million-year-old artifacts and stone tool–cutmarked bones from Ain Boucherit, Algeria. Science, 362, 6420, 1297-1301.
https://doi.org/10.1126/science.aau0008
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