ジュラ紀の魚竜類と現代のハクジラ類の類似性

 ジュラ紀の魚竜類と現代のハクジラ類の類似性に関する研究(Lindgren et al., 2019)が公表されました。魚竜類は絶滅した海生爬虫類で、現生のハクジラ類(イルカなど)に似ています。魚竜類とクジラ類は、流線形の体など外観が似ていることから、海洋での生活に適応するために類似した戦略を持つようになったと考えられ、収斂進化の一例とされます。また、魚竜類は温血動物だったとする学説が長らく提起されてきましたが、保存されている化石がひじょうに少ないため、この点を含めて数々の類似点の確認が困難になっています。

 この研究は、約1億8000万年前のものとされる保存状態の良好な魚竜類ステノプテリギウス(Stenopterygius)属の化石標本に含まれる皮膚組織の組成を調べました。その結果、ステノプテリギウスの元々の滑らかな皮膚の遺残物がいまだに柔軟性を保っており、明確な内層(真皮層)と外層(表皮層)から構成され、その下に脂肪層がある、と明らかになりました。脂肪層は現生海洋哺乳類の特徴で、断熱性によって低温から身を守り、浮力を増し、脂肪を貯蔵する作用があります。魚竜類の化石で脂肪層が同定されたのは今回が初めてで、魚竜類が温血動物だった、と確認されました。

 さらにこの研究は、魚竜類の皮膚には色素によるパターンがあり、これが爬虫類のカウンターシェイディング(体表の日陰になる腹側が明るい色、光の当たる背側が暗い色になること)を示唆するものである、と明らかにしました。この皮膚の配色は多くの現生海洋哺乳類に見られ、カムフラージュとして作用し、紫外線から身を守り、温度調節にも役立っています。このように、魚竜類と現生海生哺乳類との収斂は超微細構造や分子のレベルにまで及んでおり、外洋生活への共通した適応には遍在する制約があることを反映しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【古生物学】ジュラ紀の魚竜類と現代のハクジラ類の類似性は表面上だけではなかった

 皮膚の外層と内層、およびその下にある脂肪層と色素沈着が保存されている魚竜類化石について説明する論文が、今週掲載される。化石化した魚竜類の脂肪層に関する知見が報告されるのは今回が初めてで、魚竜類が温血爬虫類であったことが示唆されている。

 魚竜類は、絶滅した海生爬虫類で、現生のハクジラ類(イルカなど)に似ている。魚竜類とクジラ類は、外観が似ていることから、海洋での生活に適応するために類似した戦略を持つようになったと考えられ、収斂進化の一例とされる。また、魚竜類は、温血動物だったとする学説が長らく提起されてきたが、保存されている化石が非常に少ないため、この点を含めて数々の類似点の確認が困難になっている。

 今回、Johan Lindgrenたちの研究グループは、約1億8000万年前のものとされる保存状態の良好な魚竜類ステノプテリギウス(Stenopterygius)属の化石標本に含まれる皮膚組織の組成を調べた。その結果、ステノプテリギウスのもともとの滑らかな皮膚の遺残物が、いまだ柔軟性を保っており、明確な内層(真皮層)と外層(表皮層)から構成され、その下に脂肪層があることが明らかになった。脂肪層は、現生海洋哺乳類の特徴であり、断熱性によって低温から身を守り、浮力を増し、脂肪を貯蔵する作用がある。魚竜類の化石で脂肪層が同定されたのは今回が初めてで、魚竜類が温血動物だったことが確認された。

 さらにLindgrenたちは、魚竜類の皮膚には色素によるパターンがあり、これが爬虫類のカウンターシェイディング(体表の日陰になる腹側が明るい色、光の当たる背側が暗い色になること)を示唆するものであることを見いだした。この皮膚の配色は、多くの現生の海洋哺乳類に見られ、カムフラージュとして作用し、紫外線から身を守り、温度調節にも役立っている。


古生物学:ジュラ紀の魚竜の恒温性および保護色を示す軟組織の証拠

古生物学:ジュラ紀の海生爬虫類に見られる皮膚の配色および脂肪層

 魚竜類は、恐竜類と同じ時代に生きた海生爬虫類で、流線形の体など水中生活へのさまざまな適応で古くから知られている。今回、軟組織が極めて良好な状態で保存されているジュラ紀の魚竜ステノプテリギウス(Stenopterygius)の標本を、領域横断的な実験手法によって調べた結果が報告されている。ステノプテリギウスの皮膚は、クジラ類のように滑らかで黒色素胞を含んでおり、黒色素胞の分布パターンは、生前のステノプテリギウスがカウンターシェイディング(背部が暗くて腹部が明るい)という保護色を有していたことを示唆している。この標本で特に目を引くのは、現生の海生哺乳類に見られるような脂肪層の記録であり、これは、魚竜類が温血性であったばかりか、他のどの爬虫類にも見られないほどの哺乳類との収斂性を有していたことも示している。



参考文献:
Lindgren J. et al.(2018): Soft-tissue evidence for homeothermy and crypsis in a Jurassic ichthyosaur. Nature, 564, 7736, 359–365.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0775-x

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