血液の起源


 血液の起源に関する研究(Rosental et al., 2018)が公表されました。造血は多細胞動物で進化した極めて重要な仕組みで、造血幹細胞(HSC)がこの仕組みの中心です。HSCは多能性と自己複製能を合わせ持つ細胞で、動物の一生を通じて血液細胞や免疫細胞の全レパートリーを作り出します。脊椎動物のHSCでは、自己複製・分化・生理学的調節・ニッチの占有についての包括的な研究が行なわれてきましたが、HSCの進化的起源やニッチについては比較的わずかしか知られていません。

 この研究は、群体被嚢類のウスイタボヤ(Botryllus schlosseri)の造血系について報告しています。ウスイタボヤは、血管系と循環する血液細胞を持ち、興味深い幹細胞の生物学的特徴や免疫学的特徴が知られています。遺伝学的に適合するウスイタボヤコロニー間で自己認識が起こると、血液循環を共有する癒合の形成につながりますが、遺伝学的に適合しないウスイタボヤコロニー間では相互に拒絶が起きます。

 この研究は、フローサイトメトリーや、特徴を明らかにした各細胞集団の全トランスクリプトーム塩基配列解読や、さまざまな機能解析を用いて、HSC・前駆細胞・免疫エフェクター細胞・HSCニッチを特定し、自己認識によりアロ特異的な細胞傷害性応答が抑制されることを実証しました。この知見は、被嚢類と脊椎動物の共通祖先にHSCと骨髄系免疫細胞が出現したことを示しており、また、造血性骨髄とウスイタボヤのエンドスタイル・ニッチが共通の起源から進化したことも示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


幹細胞:群体脊索動物で見つかった哺乳類様の複雑な造血系

幹細胞:血液の起源

 造血は、多能性を持ち自己複製を行う幹細胞が血液系や免疫系の全ての細胞を作り出す過程で、多細胞動物で見られる。しかし、この過程の進化についてはほとんど解明されていない。B Rosentalたちは今回、群体被嚢類の一種で血液系の編成を詳しく調べ、哺乳類の造血幹細胞に類似した幹細胞、骨髄ニッチに類似したニッチから生じる免疫細胞を特定して、動物の血液系の進化について、その一端を明らかにした。



参考文献:
Rosental B. et al.(2018): Complex mammalian-like haematopoietic system found in a colonial chordate. Nature, 564, 7736, 425–429.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0783-x

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック