父方祖父の子供期の栄養状態と男孫の死亡リスクの関係

 父方祖父の子供期の栄養状態と男孫の死亡リスクの関係についての研究(Vågerö et al., 2018)が公表されました。この研究は、「ウプサラ多世代出生コホート研究」の対象となった、スウェーデン国内の地域における1874~1910年の作物の収量データを集めた上で、このデータを用いて、祖父母9039人にとって、思春期前の成長の鈍化する時期に食料を取得するのがどれだけ難しかったのか、推定しました。この研究は、これらの祖父母の孫11561人の1961~2015年の死亡データを用いて、父方祖父の思春期前の成長鈍化時期(9~12歳)に作物の収量が例年よりもはるかに多かったことと、その男孫の総死亡率および癌による死亡リスクが高いことは相関している、と明らかにしました。ただ、この関連は女孫の場合には見られませんでした。

 この知見は、複数世代にわたるエピジェネティックな遺伝(環境曝露の影響が生殖細胞系列のエピジェネティックな修飾を介して遺伝すること)という考えを支持しますが、この仮説の間接証拠でしかありません。父方祖父の食料の入手とその男孫の死亡リスクとの直接的な因果関係を断定するには、生殖細胞系列のエピジェネティックなマーカーへの直接的な影響、さらにはそうしたマーカーの3世代にわたる伝播を今後の研究によって示す必要があります。ひじょうに興味深い研究で、他の動物にも当てはまるのかということや、進化的観点からも今後の研究が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【栄養】祖父が子どもの頃に食料を十分に得ていたかが男孫の死亡リスクと相関している

 父方の祖父が思春期前の成長が鈍化する時期(9~12歳)に食料を十分に得ていたかが、その孫の死亡リスクに関連していることを明らかにした論文が、今週掲載される。ただし、この関連が見られるのは、男孫の場合のみである。今回の3世代にわたる大規模コホート研究は、先行研究をさらに発展させるものであり、ある世代における環境曝露がその後の世代の健康転帰に影響を及ぼす可能性があるとした仮説を裏付けている。ただし今回の研究では、この関係を生じさせる機構は突き止められていない。

 今回、Denny Vageroたちの研究グループは、「ウプサラ多世代出生コホート研究」の対象となったスウェーデン国内の地域における1874~1910年の作物の収量データを集めた上で、このデータを用いて、祖父母(9039人)が思春期前の成長が鈍化する時期に食料を取得するのがどれだけ難しかったかを推定した。Vageroたちは、これらの祖父母の孫(1万1561人)の1961~2015年の死亡データを用いて、父方の祖父の成長の鈍化する時期に作物の収量が例年よりもはるかに多かったことが、その男孫の総死亡率およびがんによる死亡リスクが高いことと相関していることを明らかにした。ただし、この関連は、女孫の場合には見られなかった。

 以上の結果は、複数世代にわたるエピジェネティックな遺伝(環境曝露の影響が生殖細胞系列のエピジェネティックな修飾を介して遺伝すること)という考えを支持するが、この仮説の間接証拠でしかない。祖父の食料の入手とその男孫の死亡リスクとの直接的な因果関係を断定するには、生殖細胞系列のエピジェネティックなマーカーへの直接的な影響、そしてそうしたマーカーの3世代にわたる伝播が今後の研究によって示される必要がある。



参考文献:
Vågerö D. et al.(2018B): Paternal grandfather’s access to food predicts all-cause and cancer mortality in grandsons. Nature Communications, 9, 5124.
https://doi.org/10.1038/s41467-018-07617-9

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