鮮新世~更新世におけるアフリカ東部の大型草食動物の絶滅要因

 鮮新世~更新世におけるアフリカ東部の大型草食動物の絶滅要因に関する研究(Faith et al., 2018)が報道されました。アフリカの多様な草食大型哺乳類(体重1000kg以上)の絶滅に関しては、人類の影響が指摘されてきました。たとえば、世界規模で後期更新世以降の大型動物の絶滅を検証した研究は、5万年前頃以降のアフリカからの現生人類(Homo sapiens)の拡散にともない大型動物が絶滅していった、と推測していますが、アフリカではすでに125000年前の時点で、生態系から予想されるよりも大型動物は少なく、人類による長期的な影響の結果ではないか、と指摘しています(関連記事)。

 しかし本論文は、鮮新世~更新世におけるアフリカの大型草食動物の絶滅を人為的要因で説明する見解は、まだ厳密に検証されたことはない、と指摘し、アフリカ東部における過去700万年間の大型草食動物の多様性の低下を調べました。これは、最初期の人類(候補)化石が発見された年代(関連記事)も含んでおり、アフリカ東部における大型草食動物の多様性の低下への人類の影響を検証するのに適した時間的範囲と言えるでしょう。

 分析の結果明らかになったのは、アフリカ東部における大型草食動物の多様性低下は、中新世には顕著ではなく、鮮新世の460万年前頃から始まる、ということです。しかも、大型草食動物の多様性の低下率は、460万年前頃以降、特定の時期に増大するのではなく、長期にわたって安定的でした。この低下率は、より洗練された道具を使い、狩猟も行なっていたのではないか、と言われるホモ・エレクトス(Homo erectus)の出現(190万年前頃)以降も変わりませんでした。アフリカ東部における大型草食動物の多様性低下は、人類の持続的な肉食と道具使用の少なくとも100万年以上前に始まり、その低下率は長期にわたって安定的だったことから、人為的影響が要因ではないだろう、との見解を本論文は提示しています。

 本論文は、アフリカ東部における大型草食動物の多様性低下の要因として、C4植物の拡大を挙げています。本論文は古気候データも調査し、大気中の二酸化炭素濃度の低下によりC4植物が増大した結果として、多くの大型草食動物が食資源として依存していた樹木環境が衰退し、逆に草原が拡大したことで、大型草食動物の多様性は低下していったのではないか、と推測しています。人類ではなく気候変動が、アフリカ東部における大型草食動物絶滅の要因だった、というわけです。

 また本論文は、アフリカにおける肉食獣の多様性低下の要因として、ホモ属が肉食の競合相手として加わったこともあるものの、大型草食動物の絶滅も要因だったのではないか、と推測しています。たとえば、現代には近縁種の存在しない剣歯虎のような更新世の肉食獣のいくつかの系統の食性は若い大型草食動物に特化しており、大型草食動物の絶滅は自らの絶滅の直接的要因になったのではないか、というわけです。もっとも本論文は、更新世以前のアフリカの生態系に人類が影響を及ぼさなかった、と主張しているわけではなく、過去30万年間の現生人類の行動に注目する必要性も指摘しています。

 人類の狩猟は200万年以上前までさかのぼるかもしれませんが、その対象は小型動物で、中型動物に関しては死肉漁りだった可能性が指摘されています(関連記事)。200万年以上前の人類の肉食については、評価の難しさも指摘されていますが(関連記事)、200万年前頃以降に人類というかホモ属が肉食への依存度を高めた可能性は、低くないと思います。ただ、人類が大型動物を恒常的に解体処理していた証拠は、現時点では50万年前頃以降となるでしょうから(関連記事)、少なくとも現生人類の出現する前のアフリカ東部においては、460万年前頃以降に始まる大型草食動物の絶滅に人類が及ぼした影響はかなり小さかったのではないか、と思います。人類出現以降の動物相の変化については、さらに対象となる地域・年代を拡大した、より詳細な研究の進展が期待されます。


参考文献:
Faith JT. et al.(2018): Plio-Pleistocene decline of African megaherbivores: No evidence for ancient hominin impacts. Science, 362, 6417, 938-941.
https://doi.org/10.1126/science.aau2728

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