中世デンマーク人の歯石の解析

 中世デンマーク人の歯石の解析に関する研究(Jersie-Christensen et al., 2018)が公表されました。歯石にはさまざまな分子が保存されており、ヒト由来の分子の他、細菌や食物などに由来する分子も含まれています。この分子組成は、健康時と疾病時で異なっており、指紋のように一意であると考えられてきました。本論文は、デンマークのジャービー(Tjærby)にある中世の教区墓地の埋葬者21人の歯石のタンパク質を分析しました。埋葬者の年代は、紀元後1100~1450年です。その結果、3671のタンパク質集団が識別されましたが、そのうち細菌由来のタンパク質は85~95%で、ヒト由来のタンパク質は4~14%と推定されました。この他に、1%未満ですが、他の分類群に由来するタンパク質が確認されました。これら中世デンマーク人から得られた試料は、7人の口腔状態の健康な現代デンマーク人から採取された試料と比較されました。

 中世デンマーク人の試料は、大きく2集団(G1およびG2)に分類され、それぞれ細菌構成が異なります。G1には病原性細菌種が多く、G2は健康な口腔の共生体と考えられる多くの細菌から構成されています。ただ、歯根尖部病変などの病理学的基準からは、両集団の健康度に違いはなく、ともに不健康だったと推測されています。しかし、G1ではではほぼ半数に虫歯が見られるのにたいして、G2で虫歯が見られるのは1個体のみで、これは、口内細菌叢の違いに起因するかもしれません。本論文は、口腔のタンパク質解析により、健康な人と口腔疾患にかかりやすい人を区別できるのではないか、と示唆しています。現代人との比較では、G1よりはG2の方が現代人と類似していますが、ともに現代人よりも均質性が高いという点は共通しています。また、中世デンマーク人の歯石からは食物由来のタンパク質も確認され、ウシとヤギの乳の消費が確認されましたが、現代人ではヤギの乳の消費は確認されませんでした。この研究は、過去の人物の口腔健康状態をより詳細に再構築できる可能性を示したという点でも、注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【考古学】中世の村民21人の歯の健康状態を評価する

 歯石の解析によって中世デンマークの定住者21人の口腔健康状態が明らかになったことを報告する論文が、今週掲載される。この研究では、タンパク質の特定のプロファイルによって健康な人と口腔疾患にかかりやすい人を区別できることが示唆されている。こうした違いは従来の方法では観察できないことから、著者たちは、過去の人々の口腔の健康状態を解明できる今回の手法の有用性が明示されたと主張している。

 歯石にはさまざまな分子が保存されており、ヒト由来の分子の他、細菌や食物などに由来する分子も含まれている。この分子組成は、健康時と疾病時で異なっており、指紋のように一意であると考えられてきた。

 今回、Jesper Olsen、Enrico Cappelliniたちの研究グループは、メタプロテオミクスという方法を用いて、デンマークTjaerbyの墓地の考古学的発掘調査で回収された西暦1100~1450年頃のものとされるヒトの遺骸21体の歯石に含まれるヒト由来、細菌由来、および食物由来のタンパク質の同定と定量を行った。著者たちは、この遺骸の試料を現代の健常者7人から採取した試料と比較した。解析の結果、遺骸の試料は2つのグループに分けることができ、一方は主に病原菌によって構成されており、もう一方は現代の健常者の口腔細菌相との類似性が高いことが明らかになった。また、タンパク質プロファイルからは、中世の人々と現代人の歯石の一般的な違いも示され、これは生活様式と衛生状態の変化を反映したものである可能性がある。

 著者たちは、今回の知見から、メタプロテオミクスを用いることで、考古学的調査で発掘されたヒト集団の健康状態をより詳細に再構築できる可能性のあることが示唆されたと結論付けている。



参考文献:
Jersie-Christensen RR. et al.(2018B): Quantitative metaproteomics of medieval dental calculus reveals individual oral health status. Nature Communications, 9, 4744.
https://doi.org/10.1038/s41467-018-07148-3

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