美川圭『公卿会議 論戦する宮廷貴族たち』

 中公新書の一冊として、中央公論社より2018年10月に刊行されました。本書は律令制成立の頃から室町幕府第三代将軍の足利義満の頃までの朝廷貴族(宮廷貴族)の会議の変遷を、おもに公卿を対象として検証・解説しています。一般向け書籍としてはなかなか詳しい制度史の解説となっているので、正直なところ、宮廷貴族の会議および朝廷の制度の変遷について、一読しただけではとても全容を把握できなかったので、今後時間を作って何度か再読したいものです。

 本書では色々と興味深い知見が提示されています。律令制における政治的決裁の規定に関しては、律令制導入前の作法も取り入れられているようです。日本における律令制の導入が、唐の規定をそのまま採用したのではなく、日本の実情も反映したものであることは以前より指摘されているでしょうが、政治的決裁の作法もその一例なのでしょう。本書は律令制成立の頃も対象としていますが、おもに取り上げているのは、いわゆる摂関政治の頃から鎌倉時代です。

 この間、宮廷貴族の会議は、参加者や位置づけに関して多様で、伝統への拘りも見せつつ、変容していきます。宮廷貴族は、先例に拘って現実の政治への対応力を失っていく一方ではなく、政治と社会の変容に対応していこき、それは一定以上の成果があったのだ、と了解されます。本書は、皇位継承権すら幕府に実質的に掌握された鎌倉時代においても、朝廷の政治機能が有効だったことを詳しく解説しています。しかし、南北朝時代に入り、足利義満の頃になると、朝廷独自の政治機能はほぼ喪失しました。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック