地球最古の化石とされる岩石構造への異論
地球最古の化石とされる岩石構造を再検証した研究(Allwood et al., 2018)が公表されました。本論文は、2年前(2016年)の研究(Nutman et al., 2016)の見直しとなります。グリーンランドの古始生代の表成岩帯は地球最古の岩石を含み、地球上の生命に関する最古の証拠の探索において主要な研究対象となっています。しかし、変成作用により岩石の本来の組織および組成はほとんど失われているため、生物の痕跡の保存は困難です。
グリーンランド南西部のイスア表成岩帯で発見された、37億年前のものとされる複数の円錐構造(それぞれ高さ1~4センチメートル)に関する2年前の研究では、変形の少なさと閉鎖系の変成作用により初期の堆積岩としての特徴(微生物を介した堆積により形成された、円錐状およびドーム状のストロマトライトと推定される層状堆積構造物など)が保存されている、希少な帯状岩石構造が報告されています。これらの構造物の形態・成層構造・鉱物的性質・化学的性質・地質学的状況は、37億年前という地球の岩石記録の始まりの時期までに、海の浅瀬環境で微生物マットが形成されたことに起因する、と推測されました。
本論文は、新たな調査により、これらの構造物が非生物的で、堆積後に生じたものであることを明らかにしています。これらの構造物の母岩構造状況内での形態および配向性の三次元分析と、主要元素と微量元素の化学的性質の組織特異的な分析との組み合わせから、「ストロマトライト」とされたこれらの構造は、炭酸塩が変質した変堆積岩内で埋没のはるか後に形成された、変形構造の集合体の一部だと解釈する方がより妥当である、と示されました。イスア表成岩帯の構造物に関するこの調査は、火星において生命が存在したことを示す証拠を探索するさいの教訓になるとともに、形態・岩石構造・地球化学的性質を適切なスケールで三次元的に総合分析することの重要性を浮き彫りにしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【化石】地球最古の化石とされる岩石構造に異論
これまで最古の生命の痕跡を有するとされてきた岩石構造が、非生物学的なものに由来する可能性があることを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、地球上の初期生物に関する理解を深める一方で、地球以外の、例えば火星のような環境で同じように生物を探索する上で三次元の統合解析が重要であることを明確に示している。
グリーンランドで発見された地球で最古の岩石は、最も初期の生命の痕跡を探索する活動において最重要の調査対象である。岩石の当初の組成と組織は、変成作用の屈曲、延伸、加熱などの過程によって消失しているため、この探索活動は一筋縄ではいかない。
2016年にNatureで発表された論文では、グリーンランド南西部で発掘された岩石から見つかった37億年前のものとされる複数の円錐構造(それぞれ高さ1~4センチメートル)が記述されている。この論文の著者は、この構造がストロマトライト(単細胞微生物の塊によって形成された浅瀬の層状堆積物)であり、これによって最も古い化石記録がこれまで考えられていたものより2億年さかのぼることが示唆されると主張した。
今回、Abigail Allwood、Joel Hurowitzたちの研究グループは、こうした化石の三次元形状、定位、化学組成などの統合解析を行った。その結果、この構造物はストロマトライトと異なり、内部が層状になっておらず、微生物活動の化学的特徴がなく、三次元的に観察すると、円錐形ではなく隆線形であることが判明した。彼らは、これらの特徴が生物学的なものではなく、海洋堆積物が埋没してから長期間の変成作用によって変質・変形した結果だと解釈する方が適切だと主張している。
この論文に関連したMark van ZuilenのNews & Viewsでは、「太古代のストロマトライトに対する生物学的な見解を巡っては、長年の論争がある。今後の研究によって、この岩石の形成に至る一次過程と二次過程が正確に解明される可能性がある」という意見が示されている。
地質学:グリーンランドの37億年前の岩石に見いだされた生命の証拠の再評価
地質学:地球最古の生命の痕跡への疑義
以前の研究でストロマトライトであるとされた構造物(黄色の矢印)。この露出には下向きの類似構造(赤色の矢印)も認められ、一連の構造物が海底からの上向きの成長を示唆するものではないことが示された。
地球上の生命は、地球環境が生命の生存を支えるのに十分適したものになるのとほぼ同時に出現したように見受けられる。最古の微生物が34億年以上前に存在したことを示す証拠は、かつては物議を醸したものの、現在では広く受け入れられている。2016年、A Nutmanたちは、グリーンランドの岩石から37億年前の微生物由来の構造物の証拠を発見し、報告した。この年代の岩石は希少で、屈曲や伸展、褶曲、加熱などの変成作用を受けていることが多いため、その特徴の解釈は常に議論の的となっている。今回A Allwoodたちは、Nutmanたちが調べた露出を訪れてこれを再評価し、ストロマトライト(微生物群集が作り出した巨視的な層状構造物)であるとされた構造物が、有機生命体が関与する過程とは無関係の、変形の特徴であることを示している。一方、地球上の初期の生命の存在に関してはこれをさらにさかのぼる年代のものも主張されており、地球最古の生命の痕跡を探す旅、そしてそれに伴う議論は今後も続くだろう。
参考文献:
Allwood AC. et al.(2018): Reassessing evidence of life in 3,700-million-year-old rocks of Greenland. Nature, 563, 7730, 241–244.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0610-4
Nutman AP. et al.(2016): Rapid emergence of life shown by discovery of 3,700-million-year-old microbial structures. Nature, 537, 7621, 535–538.
https://doi.org/10.1038/nature19355
グリーンランド南西部のイスア表成岩帯で発見された、37億年前のものとされる複数の円錐構造(それぞれ高さ1~4センチメートル)に関する2年前の研究では、変形の少なさと閉鎖系の変成作用により初期の堆積岩としての特徴(微生物を介した堆積により形成された、円錐状およびドーム状のストロマトライトと推定される層状堆積構造物など)が保存されている、希少な帯状岩石構造が報告されています。これらの構造物の形態・成層構造・鉱物的性質・化学的性質・地質学的状況は、37億年前という地球の岩石記録の始まりの時期までに、海の浅瀬環境で微生物マットが形成されたことに起因する、と推測されました。
本論文は、新たな調査により、これらの構造物が非生物的で、堆積後に生じたものであることを明らかにしています。これらの構造物の母岩構造状況内での形態および配向性の三次元分析と、主要元素と微量元素の化学的性質の組織特異的な分析との組み合わせから、「ストロマトライト」とされたこれらの構造は、炭酸塩が変質した変堆積岩内で埋没のはるか後に形成された、変形構造の集合体の一部だと解釈する方がより妥当である、と示されました。イスア表成岩帯の構造物に関するこの調査は、火星において生命が存在したことを示す証拠を探索するさいの教訓になるとともに、形態・岩石構造・地球化学的性質を適切なスケールで三次元的に総合分析することの重要性を浮き彫りにしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【化石】地球最古の化石とされる岩石構造に異論
これまで最古の生命の痕跡を有するとされてきた岩石構造が、非生物学的なものに由来する可能性があることを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、地球上の初期生物に関する理解を深める一方で、地球以外の、例えば火星のような環境で同じように生物を探索する上で三次元の統合解析が重要であることを明確に示している。
グリーンランドで発見された地球で最古の岩石は、最も初期の生命の痕跡を探索する活動において最重要の調査対象である。岩石の当初の組成と組織は、変成作用の屈曲、延伸、加熱などの過程によって消失しているため、この探索活動は一筋縄ではいかない。
2016年にNatureで発表された論文では、グリーンランド南西部で発掘された岩石から見つかった37億年前のものとされる複数の円錐構造(それぞれ高さ1~4センチメートル)が記述されている。この論文の著者は、この構造がストロマトライト(単細胞微生物の塊によって形成された浅瀬の層状堆積物)であり、これによって最も古い化石記録がこれまで考えられていたものより2億年さかのぼることが示唆されると主張した。
今回、Abigail Allwood、Joel Hurowitzたちの研究グループは、こうした化石の三次元形状、定位、化学組成などの統合解析を行った。その結果、この構造物はストロマトライトと異なり、内部が層状になっておらず、微生物活動の化学的特徴がなく、三次元的に観察すると、円錐形ではなく隆線形であることが判明した。彼らは、これらの特徴が生物学的なものではなく、海洋堆積物が埋没してから長期間の変成作用によって変質・変形した結果だと解釈する方が適切だと主張している。
この論文に関連したMark van ZuilenのNews & Viewsでは、「太古代のストロマトライトに対する生物学的な見解を巡っては、長年の論争がある。今後の研究によって、この岩石の形成に至る一次過程と二次過程が正確に解明される可能性がある」という意見が示されている。
地質学:グリーンランドの37億年前の岩石に見いだされた生命の証拠の再評価
地質学:地球最古の生命の痕跡への疑義
以前の研究でストロマトライトであるとされた構造物(黄色の矢印)。この露出には下向きの類似構造(赤色の矢印)も認められ、一連の構造物が海底からの上向きの成長を示唆するものではないことが示された。
地球上の生命は、地球環境が生命の生存を支えるのに十分適したものになるのとほぼ同時に出現したように見受けられる。最古の微生物が34億年以上前に存在したことを示す証拠は、かつては物議を醸したものの、現在では広く受け入れられている。2016年、A Nutmanたちは、グリーンランドの岩石から37億年前の微生物由来の構造物の証拠を発見し、報告した。この年代の岩石は希少で、屈曲や伸展、褶曲、加熱などの変成作用を受けていることが多いため、その特徴の解釈は常に議論の的となっている。今回A Allwoodたちは、Nutmanたちが調べた露出を訪れてこれを再評価し、ストロマトライト(微生物群集が作り出した巨視的な層状構造物)であるとされた構造物が、有機生命体が関与する過程とは無関係の、変形の特徴であることを示している。一方、地球上の初期の生命の存在に関してはこれをさらにさかのぼる年代のものも主張されており、地球最古の生命の痕跡を探す旅、そしてそれに伴う議論は今後も続くだろう。
参考文献:
Allwood AC. et al.(2018): Reassessing evidence of life in 3,700-million-year-old rocks of Greenland. Nature, 563, 7730, 241–244.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0610-4
Nutman AP. et al.(2016): Rapid emergence of life shown by discovery of 3,700-million-year-old microbial structures. Nature, 537, 7621, 535–538.
https://doi.org/10.1038/nature19355
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