キンカチョウの発声行動の文化伝達

 キンカチョウの発声行動の文化伝達に関する研究(Tanaka et al., 2018)が公表されました。行動の文化伝達は、生徒が適切な教師のみを模倣することで可能になっています。しかし、生徒の脳がどのようにして適切な教師を見つけ、その行動を符号化するのかは、ほとんど解明されていません。幼いキンカチョウは、身近な成鳥を教師(チューター)としてその囀りを容易に真似ますが、スピーカー越しに聞かされた囀りは真似ないことから、チューターが発する社会的手掛かりが囀りの模倣を促進している、と示唆されます。

 本論文は、幼いキンカチョウの中脳水道周囲灰白質のニューロンが、チューターの囀りによって選択的に興奮し、囀りを司る皮質の神経核HVCでドーパミンを放出することによって、チューターの囀り表現の符号化を助け、発声の模倣を可能にすることを明らかにしています。チューターの囀りを聞いている時に幼鳥のHVCでドーパミンシグナル伝達を阻害すると、その模倣が阻害されたのに対して、HVCで中脳水道周囲灰白質ニューロンの末端を刺激すると、スピーカー越しに聞いた囀りでも模倣しました。

 チューターの囀りを聞くと、それが引き金となって幼鳥のHVCでその囀りに対する応答が急速に現れ、幼鳥の囀りの複雑さが増すという、模倣の初期の兆候が見られました。これらの知見から、中脳から皮質へ投射するドーパミン作動性ニューロンは、チューターの存在を検出し、その囀りの符号化を助けることで、発声行動の文化伝達を促進する、と明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


神経科学:発声行動の文化伝達を可能にする中脳皮質系ドーパミン回路

神経科学:師匠に学ぶ

 キンカチョウの雄の幼鳥は手本となる成鳥のチューターからさえずりを学ぶ。これは、行動の文化伝達の十分に確立された例だが、幼鳥がどのようにして適切なチューターを見つけ、そのさえずりをまねるのかは分かっていない。今回R Mooneyたちは、幼鳥の中脳水道周囲灰白質のニューロンはチューターのさえずりによって興奮するが、スピーカー越しに聞かされたさえずりには反応しないことを明らかにしている。これらのニューロンは感覚運動皮質内でドーパミンを放出することで、適切なチューターが存在するときにだけさえずりを正しく符号化し、そのさえずり表現を模倣するのを可能にしている。



参考文献:
Tanaka M. et al.(2018): A mesocortical dopamine circuit enables the cultural transmission of vocal behaviour. Nature, 563, 7729, 117–120.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0636-7

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