森恒二『創世のタイガ』第4巻(講談社)

 本書は2018年10月に刊行されました。第1巻第2巻第3巻がたいへん面白かったので、第4巻も楽しみにしていました。第4巻は、タイガが現生人類(Homo sapiens)の少女ティアリの集落で、戦士であると証明するために、ナクムという屈強そうな男性と対決する場面から始まります。まあ、集落と言うと定住性が強い感じなので、野営地と言うべきでしょうか。ただ、一時的な拠点というよりは、長期的な拠点のようにも見えます。あるいは、季節単位で移動するのではなく、ある程度の年数、通年過ごすための拠点かもしれません。

 タイガは、身体能力ではナクムに劣るため、圧倒されそうになりますが、かつて格闘技を習っていた経験を活かして、何とかナクムを締め落として勝利し、さらにナクムを蘇生させることで、現生人類の部族の長らしき賢者ムジャンジャから戦士と認められます。タイガは仲間と共にこの野営地に残ることを選択し、ティアリも喜びますが、タイガとの再会を喜ぶユカを見て複雑な表情を浮かべます。その夜、タイガに薬草と食べ物を持っていこうとしたティアリをナクムが呼び止めます。ここで、ナクムがティアリの兄だと明かされます。ナクムは、よそ者であるタイガと親密にしているティアリを咎めます。自分たちも「まざり者」の子供なのだから、よそ者と親密にしていると村にいられなくなる、というわけです。ナクムとティアリは、外見はあまりネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)に似ていないので、今いる部族と別の現生人類部族との間の子供ということでしょうか。

 タイガたちは、ティアリの集落の外れに住むことを許可されました。タイガたちは何とかこの時代の生活を学ぼうとしますが、中に入っていくことが叶わないので、もどかしい思いで過ごしていました。タイガは獲物を持ち帰ってきたナクムに、一緒に狩猟に行けないだろうか、と願い出ますが、ナクムは乗り気ではありません。そんな兄のナクムをティアリは責めます。ティアリに責められて反省したのか、ナクムはタイガたちから奪っていた服を返すとともに、なめした立派な毛皮を贈ります。

 ナクムはタイガたちに狩猟へ参加することを認めませんでしたが、ティアリとともに狩場へと案内します。タイガはアラタ・レン・狼のウルフとともに狩猟を始めますが、やはり上手くいきません。ウルフも、単に追いかけっこを楽しんでいるような感じです。しかし、ティアリの指導を受けて、タイガたちは狩猟のコツを掴んでいきます。ウルフが子ヤギ相手に闘争心をむき出しにして暴走するなど、懸念がないわけではありませんが、タイガたちはティアリとナクムに導かれて旧石器時代の生活に慣れていきます。さらに、リクが台車を開発し、ティアリの部族に譲ったことで、タイガたちはティアリの部族とさらに親密になり、ナクムが率いる場合だけですが、狩猟への参加も許されるようになります。

 こうして旧石器時代の生活に馴染んでいったタイガたちですが、現生人類とネアンデルタール人との抗争は続いていました。ある時、ネアンデルタール人に襲撃されて重傷を負ったティアリの部族の男性2人が集落に戻って来て、ティアリの部族の男性たちは復讐を誓います。ティアリの部族は、ネアンデルタール人の襲撃も目的とした狩猟に出て、少数のネアンデルタール人を発見し、勝てないと判断したネアンデルタール人たちが命乞いをしても、容赦なく殺します。ティアリも、重傷を負いながら向かってきたネアンデルタール人を槍で殺し、タイガに誇らしげな笑顔を向けますが、タイガは、改めて旧石器時代の人類が野蛮であることを見せつけられて衝撃を受け、そんなタイガを見てティアリは落ち込みます。

 ティアリの部族は、ネアンデルタール人の大きな野営地を発見し、襲撃に行くことになります。タイガもティアリから参加を要求され、タイガは一人で参加することにします。仲間たちには反対されますが、戦いたくなくてもネアンデルタール人は来るので仕方ない、とタイガは躊躇いながらも諭します。その夜(だと思います)、タイガは目覚めると、ウルフが殺気立っているのに気づきます。外を見ると多くの松明が見え、ネアンデルタール人が襲撃してきた、と悟ったタイガは仲間たちを起こし、ティアリの集落に行って人々を起こすよう伝えます。タイガは、襲撃してきたネアンデルタール人を撹乱するためにウルフとともに森に入り、槍を投げて見事にネアンデルタール人の体を貫きます。戦いの様子を、ネアンデルタール人の長らしき男性が崖の上から見守っている場面で、第4巻は終わりです。


 第4巻は、タイガたちが旧石器時代に馴染んでいく様子が描かれ、タイガとナクムの対決の後はわりと平穏に話が進みましたが、最後の方になって、ついに現生人類とネアンデルタール人との大規模な戦いが始まりました。これまで、本作におけるネアンデルタール人の現生人類にたいする敵意は、尋常ではないように思えたのですが、第4巻では、現生人類の側が、狩猟のさいにネアンデルタール人を発見して容赦なく殺害したばかりか、ネアンデルタール人の集落を襲撃する計画さえ立ていました。もっとも、ネアンデルタール人の集落を襲撃する前に、先手を打たれて自分たちの集落が夜襲されてしまいましたが。

 もちろん、以前から現生人類とネアンデルタール人の殺し合いは続いているのですが、第4巻の内容から推測すると、何か本作の謎解きの根幹に関わるような出来事があって、ネアンデルタール人が現生人類を異常に敵視しているというよりは、両者が接触した時に小競り合いで負傷者や死傷者が出て、双方が報復行為を選択し続けていくうちに、相互に集落というか野営地を襲撃するまでに敵対的感情が強くなっていったのかな、とも思われます。

 注目されるのは、第4巻でも、ティアリを除いて現生人類もネアンデルタール人も女性が登場していないことです。ティアリの部族では子供たちも登場していますが、全員男子のように見えます。そうした中で、ティアリが唯一の女性として男性たちに混じって活動しているのは不自然なように思えるのですが、これはティアリが「まざり者」の子供であることと関係あるのでしょうか。近年では、現生人類とネアンデルタール人との交雑が通説として定着した感があり、本作からは、人類進化についてよく調べられていることが窺えるので、そうした話もやがて描かれるのではないか、と期待しています。その時には、現生人類とネアンデルタール人の女性も少なからず登場するのかもしれません。また、現時点では現生人類とネアンデルタール人との関係はたいへん敵対的ですが、どこかで友好的な関係も描かれるのか、注目しています。

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    Excerpt: 本書は2019年5月に刊行されました。第5巻は、タイガが、住まわせてもらっている現生人類(Homo sapiens)の集落を襲撃してきたネアンデルタール人(Homo neanderthalensis).. Weblog: 雑記帳 racked: 2019-05-25 05:47