日本のODA貢献を報じるよう中国政府が指示

 安倍首相の明日(2018年10月25日)からの訪中を控えて、中華人民共和国政府が共産党・政府系メディアに対し、中国の経済発展に対する日本の政府開発援助(ODA)の貢献を積極的に報じるよう指導したと分かった、と報道されました。アメリカ合衆国との関係が今年になって悪化するなか、中国が日本との関係改善に乗り出すのは合理的選択だと思います。もちろん、日本側にも経済的に対中関係の改善に乗り出す動機は大きいのですが、それはともかく、米国のトランプ政権の一連の対中強硬策が、来月に迫った米国の中間選挙までの有権者対策ではなく、長期的なものだと中国政府は判断しているのでしょう。

 確かに、数年前より、米国エリート層の対中認識が変わってきた、との報道は日本語記事でもたびたび見かけてきました。米国をはじめとして先進諸国が中国に関わることにより、中国も先進諸国のような自由で民主的な体制へと向かう、という長年の構想・期待は間違っていた、との認識が定着しつつある、というわけです。こうした認識は、トランプ政権、さらには共和党陣営のみならず、広く米国エリート層で共有されているようなので、米中の緊張関係は、どちらかが耐えられなくなって大きく譲歩するまで続くのではないか、と思います。

 それが冷戦のように40年ほど続くのか、もっと早く終結するのか、あるいはもっと長引くのかは、私程度の見識ではとても的確に予想できません。すでに、この「新たな冷戦」の勝者はどちらなのか、という日本語記事もそれなりに見かけますが、冷戦当初のソ連と比較して、米国との経済力の比較では現在の中国の方がずっと強力でしょうし、世界経済への関与・影響力という点でも現在の中国の方がずっと強いでしょう。その意味で、米国が中国の覇権確立を阻止しようとしても手遅れではないか、とも思えるのですが、中国には現時点では日本ほどではないとしても、少子高齢化の進展という人口構造上の弱点があるので、トランプ政権の要人の一部はそこに勝機を見出しているのでしょうか。

 米中関係の悪化が日中関係の改善を促しているのは明らかだと思いますが、今後もその傾向が続くのかは、米中の緊張関係がいつまで続くのか、ということが大きく関わっていると思います。5年前に述べましたが(関連記事)、日中関係の悪化は、中国の高度経済成長により経済面で日中の競合が強くなった、という経済的側面や、それと関連して、日本の相対的な衰退に伴う日中の国力差の縮小・さらには逆転による、中国の海洋侵出の強化などが要因として考えられますが、その根本的原因は、冷戦構造の崩壊というかソ連の消滅だと思います。「魂の悪い」日本人が増えたことによる日本社会の「右傾化」ではなく、ソ連という日中共通の巨大な敵が崩壊したというか没落したことこそ、日中関係悪化の根源だと私は考えています。

 その意味で、トランプ政権の強硬な対外経済政策が中国だけではなく、日本など同盟国にもさほど変わらない程度で続けば、トランプ政権という共通の巨大な敵の存在により、日中関係の緊密化は進んでいくと思います。もっとも、米中の「新たな冷戦」が短期間で終結したり、トランプ政権やその後継政権が同盟国を重視するような路線に変更したりすれば、日中関係の改善は停滞するでしょう。そうした場合、日中関係が「改善」するとしたら、日中のどちらかが大きく譲歩するしかないでしょうが、やはり相対的にずっと衰退し続けている日本側の譲歩の可能性が高そうです。

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  • 意外に安倍政権好きな中国知識人

    Excerpt: 表題の記事が公開されました。中華人民共和国体制内のインテリ層の安倍政権評価は意外と高い、とのことです。安倍首相の訪中を目前にして、中国体制内のインテリ層が日本人ジャーナリストにこのように発言したのは、.. Weblog: 雑記帳 racked: 2018-10-25 04:38