アフリカゾウの皮膚の微細な割れ目

 アフリカゾウの皮膚の微細な割れ目に関する研究(Martins et al., 2018)が公表されました。物理的割れ目のパターンは非生物において発生することが多く、生物系で生じるのは稀です。アフリカゾウの皮膚には、マイクロメートル幅の割れ目が互いにつながって形成された、複雑な網目模様が深く刻み込まれています。この割れ目により、保水性は平面の場合の5~10倍に向上しており、これによって熱調節と寄生虫予防の有効性も高まっています。ただし、この割れ目の形成過程は未解明でした。

 本論文は、顕微鏡観察と物理学に基づくモデル化により、この割れ目が皮膚の最外層(角質層)の破断だとする見解を提示しています。本論文は、この皮膚の割れ目が、徐々に増殖する表皮の曲げ応力により発生する物理的ひび割れによって生じる、と推測しています。この仮説は、このような割れ目がゾウの新生仔には見られないという観察結果からも裏づけられています。本論文は、この割れ目パターンがアジアゾウの皮膚には見られない理由、およびアフリカゾウの皮膚細胞の生理学的特徴を解明するには、さらなる研究が必要と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【動物学】アフリカゾウの皮膚に微細な割れ目が広範に見られる理由

 アフリカゾウの皮膚の表面には網状の割れ目が見られるが、その原因は、表皮が増殖する時に生じる物理的なひび割れだとする知見を報告する論文が、今週掲載される。

 物理的割れ目のパターンは、非生物において発生することが多く、生物系で生じるのはまれである。アフリカゾウの皮膚には、マイクロメートル幅の割れ目が互いにつながって形成された複雑な網目模様が深く刻み込まれている。この割れ目により、保水性は平面の場合の5~10倍に向上しており、これによって熱調節と寄生虫予防の有効性も高まっている。ただし、この割れ目の形成過程は解明されていない。

 今回、Michel Milinkovitchたちの研究グループは、顕微鏡観察と物理学に基づくモデル化によって、この割れ目が皮膚の最外層(角質層)の破断だとする考えを示している。Milinkovitchたちは、この皮膚の割れ目が、徐々に増殖する表皮の曲げ応力によって発生する物理的ひび割れによって生じると考えている。この仮説は、このような割れ目がゾウの新生仔には見られないという観察結果からも裏付けられている。

 この割れ目パターンがアジアゾウの皮膚には見られない理由、およびアフリカゾウの皮膚細胞の生理学的特徴を解明するには、さらなる研究が必要とされる。



参考文献:
Martins AF. et al.(2018): Locally-curved geometry generates bending cracks in the African elephant skin. Nature Communications, 9, 3865.
https://doi.org/10.1038/s41467-018-06257-3

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック