アフリカ東部の気候変動と現生人類の進化

 アフリカ東部の気候変動と現生人類(Homo sapiens)の進化との関連についての研究(Owen et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。人類進化と気候変動とを関連づける仮説は多くあります。気候変動の証拠となるのは、陸上や湖や海洋のコア、花粉記録などです。しかし本論文は、そうした気候記録の多くは継続性がなく、その根拠となったコアなどが採取された地域と、人類遺骸や石器など人類の痕跡が発見されている地域との間の大きな地理的隔たりがあるので、気候変動と人類進化との相関性の証明は困難だと指摘します。

 本論文が気候変動の根拠としたのはケニアのマガディ湖(Lake Magadi)の堆積物で、575000年前頃以降の長期の乾燥化傾向と、それが湿潤-乾燥周期によりたびたび中断されたことを明らかにしました。本論文が強調しているのは、マガディ湖は人類の痕跡が多数発見されているオロルゲサイリー盆地(Olorgesailie Basin)に近い、ということです。そのため、マガディ湖の気候変動とオロルゲサイリー盆地の人類進化との相関性の検証に相応しい、というわけです。

 オロルゲサイリー盆地では、50万年前頃と32万年前頃とで石器技術に大きな違いがある(この間の層は浸食により失われているので、詳細は不明です)、と指摘されています(関連記事)。前期石器時代から中期石器時代への変化です。マガディ湖からの古気候記録が示すのは、この地域の激しい乾燥化は525000~40万年前の間に起き、35万年前頃以降は、現在へと続く比較的持続した乾燥気候となります。周辺地域では、50万~40万年前頃に多くの哺乳類が絶滅しており(オロルゲサイリー盆地では80%以上)、激しい気候変動の前後で石器技術に大きな変化が見られることから、本論文はアフリカ東部における気候変動と人類進化との相関性を指摘しています。

 より具体的には、激しい乾燥化というか、気候変動の予測困難性が、それへの適応のためにより大きな脳の進化を促し、新技術の石器の製作や、じゅうらいは見られなかった長距離輸送・交易といった新たな行動をもたらしたのではないか、という見通しを本論文は提示しています。つまり、予測困難な激しい気候変動が、アフリカにおいて現生人類の出現を促進したのではないか、というわけです。じっさい、30万年前頃には、アフリカ北部において現生人類的な人類遺骸が発見されています(関連記事)。もちろん、気候変動は人類進化に大きな影響を及ぼしているでしょうが、人口密度や接触機会の増加なども、人類進化の選択圧になり得たでしょう。今後は、より広範な地域での古気候の復元と人類進化との相関性の検証の進展が期待されます。


参考文献:
Owen RB. et al.(2018): Progressive aridification in East Africa over the last half million years and implications for human evolution. PNAS, 115, 44, 11174–11179.
https://doi.org/10.1073/pnas.1801357115

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