小野林太郎「東南アジア・オセアニア海域に進出した新人の移住戦略と資源利用」
本論文は、文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究)2016-2020年度「パレオアジア文化史学」(領域番号1802)計画研究A02「ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明」の2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)に所収されています。公式サイトにて本論文PDFファイルで読めます(P19-27)。この他にも興味深そうな報告があるので、今後読んでいくつもりです。
更新世の寒冷期に、オーストラリア大陸はタスマニア島・ニューギニア島と陸続きでサフルランドを形成していました。後期更新世における現生人類(Homo sapiens)のサフルランドへの拡散にさいしては、80km以上の渡海が必要だったと推測されています。これは、現生人類による当時の渡海距離としては最長なので、サフルランドへの出発点となった東南アジア海域において、現生人類の海洋適応が進んでいたのではないか、と考えられています。本論文は、サフルランドへの経路として注目されていながら考古学的研究が遅れていた、スラウェシ中部沿岸からマルク諸島を通ってニューギニア島の西端まで連なる島々の考古学的研究の現状を取り上げています。
東南アジア海域からサフルランドへの経路としては、北マルク諸島を通る北方経路と、東ティモールを通る南方経路の二つが提示されています。最大渡海距離は、北方経路では約95km、南方経路では約150kmとなるので、北方経路の方が渡海の難易度は低そうです。しかし、現時点では、南方経路の方で更新世のより古い遺跡が発見されています。本論文は、北方経路の考古学的調査があまり進んでいないことも、北方経路で南方経路より古い遺跡が発見されていない一因かもしれない、と慎重な姿勢を示しています。
本論文は、こうした現状を打開するために、スラウェシ島で著者も参加しての考古学的調査が進められていることを取り上げています。その中でも本論文で大きく紹介されているのは、中スラウェシ州のモロワリ県の沿岸から3.5km内陸にある石灰岩丘陵上に位置する、標高約90mのトポガロ洞窟群遺跡です。ここでは、3つの洞窟(トポガロ1・2・3)と、その上部に形成されるドリーネ内にある4つの岩陰が確認されています。29000年前頃のまでさかのぼりそうなトポガロ洞窟群遺跡では、今後も調査が継続される予定とのことです。
北方経路の資源利用として、まず石器に関しては、遺跡で廃棄された石器の具体的な利用目的が、中・大型動物の捕獲や解体などではなく、小型哺乳類の捕獲や解体だった可能性が指摘されています。また、不定形を特徴とする東南アジア海域の石器利用としてかねてより指摘されてきたように、木製品などの加工具等としての利用なども推測されています。食資源に関しては、更新世寒冷期には、安定性の高い貝類への依存度が高まったのにたいして、魚類への依存度はかなり低かったようです。一方、南方経路では、魚類遺骸や釣針などの出土から、魚類への依存度がかなり高かったのではないか、と推測されています。
参考文献:
小野林太郎(2017)「東南アジア・オセアニア海域に進出した新人の移住戦略と資源利用」『パレオアジア文化史学:ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)』P19-27
更新世の寒冷期に、オーストラリア大陸はタスマニア島・ニューギニア島と陸続きでサフルランドを形成していました。後期更新世における現生人類(Homo sapiens)のサフルランドへの拡散にさいしては、80km以上の渡海が必要だったと推測されています。これは、現生人類による当時の渡海距離としては最長なので、サフルランドへの出発点となった東南アジア海域において、現生人類の海洋適応が進んでいたのではないか、と考えられています。本論文は、サフルランドへの経路として注目されていながら考古学的研究が遅れていた、スラウェシ中部沿岸からマルク諸島を通ってニューギニア島の西端まで連なる島々の考古学的研究の現状を取り上げています。
東南アジア海域からサフルランドへの経路としては、北マルク諸島を通る北方経路と、東ティモールを通る南方経路の二つが提示されています。最大渡海距離は、北方経路では約95km、南方経路では約150kmとなるので、北方経路の方が渡海の難易度は低そうです。しかし、現時点では、南方経路の方で更新世のより古い遺跡が発見されています。本論文は、北方経路の考古学的調査があまり進んでいないことも、北方経路で南方経路より古い遺跡が発見されていない一因かもしれない、と慎重な姿勢を示しています。
本論文は、こうした現状を打開するために、スラウェシ島で著者も参加しての考古学的調査が進められていることを取り上げています。その中でも本論文で大きく紹介されているのは、中スラウェシ州のモロワリ県の沿岸から3.5km内陸にある石灰岩丘陵上に位置する、標高約90mのトポガロ洞窟群遺跡です。ここでは、3つの洞窟(トポガロ1・2・3)と、その上部に形成されるドリーネ内にある4つの岩陰が確認されています。29000年前頃のまでさかのぼりそうなトポガロ洞窟群遺跡では、今後も調査が継続される予定とのことです。
北方経路の資源利用として、まず石器に関しては、遺跡で廃棄された石器の具体的な利用目的が、中・大型動物の捕獲や解体などではなく、小型哺乳類の捕獲や解体だった可能性が指摘されています。また、不定形を特徴とする東南アジア海域の石器利用としてかねてより指摘されてきたように、木製品などの加工具等としての利用なども推測されています。食資源に関しては、更新世寒冷期には、安定性の高い貝類への依存度が高まったのにたいして、魚類への依存度はかなり低かったようです。一方、南方経路では、魚類遺骸や釣針などの出土から、魚類への依存度がかなり高かったのではないか、と推測されています。
参考文献:
小野林太郎(2017)「東南アジア・オセアニア海域に進出した新人の移住戦略と資源利用」『パレオアジア文化史学:ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)』P19-27
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