マルハナバチのコロニーの適応度に影響を及ぼすスルホキシイミン系殺虫剤
スルホキシイミン系殺虫剤のマルハナバチのコロニーの適応度への影響に関する研究(Siviter et al., 2018)が公表されました。集約農業では現在、作物の収量を最大にするために農薬に依存しています。ネオニコチノイド類は世界的に最も広く使用されている殺虫剤ですが、重要な花粉媒介者などの標的外生物に悪影響を及ぼしていることを示す証拠が増えていることから、法的な再評価が行なわれ、代替製品を開発する需要が生じています。これまで、当ブログでも何度か、ネオニコチノイド系殺虫剤のハチへの影響に関する研究を取り上げてきました。ネオニコチノイド系殺虫剤は、トウヨウミツバチ(Apis cerana)の長期嗅覚学習(関連記事)、ミツバチのコロニー(関連記事)、野生ミツバチ(関連記事)、セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)の女王バチの新コロニー形成(関連記事)に影響を及ぼすことが明らかになっています。
後継品として最も有望なのはスルホキシイミン系の殺虫剤で、ネオニコチノイド系殺虫剤に耐性を有する昆虫種を標的とする有効な殺虫剤であると明らかになり、中国・カナダ・オーストラリアで承認され、いくつかのEU加盟国で認可申請手続きが進められています。スルホキシイミン系農薬が花粉媒介者に及ぼす亜致死性の影響は、標準的な生態毒性評価で検出されることは稀ですが、より大きな生態学的規模で重大な影響を及ぼす可能性があるため、そうした潜在的な亜致死性影響の先制的な評価が急務となっています。また、スルホキシイミン系殺虫剤とネオニコチノイド系殺虫剤は生物学的作用機序が同じなので、花粉媒介生物に対するスルホキシイミン類の亜致死的影響の調査も必要となりますが、まだじゅうぶんには行なわれていません。
この研究は、実験室環境でセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)のコロニーを、スルホキシイミン系殺虫剤の一種であるスルホキサフロルに曝露させた上で、野外環境中に放出すると、セイヨウオオマルハナバチの働きバチと繁殖能力のある雄の生産量が有意に減少する、と明らかにしました。この実験で、成長期の初期にあった25のコロニーを控えめな量のスルホキサフロルに2週間曝露させたところ、曝露後2~3週間で、これらのコロニーと26の対照コロニーとの間で個体数の差が生じ始め、この差は、コロニーの生活環が完了するまで持続しました。スルホキサフロルに曝露されたコロニーでは、繁殖能力のある仔が54%減少しました。
この結果は、コロニーの生活史の初期段階においてセイヨウオオマルハナバチの小規模コホートがスルホキサフロルに曝露されると、コロニーの適応度に長期的な影響が及ぶ可能性のあることを示唆しています。これに対して、採餌行動や花粉量に差はありませんでした。この研究は、科学的根拠に基づく法律がなければ、スルホキサフロルへの曝露により、ネオニコチノイド系殺虫剤が花粉媒介生物に及ぼした環境影響と同じような結果が生じる可能性がある、と予測しており、規制当局に対し、新規殺虫剤の使用認可を行う前に致死的影響と亜致死的影響の評価を行なうよう、求めています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【生態学】スルホキシイミン系殺虫剤がマルハナバチのコロニーの適応度に影響を及ぼす
ネオニコチノイド系殺虫剤の重要な代替品と期待される新しいクラスの殺虫剤が、マルハナバチのコロニーに対して亜致死的影響を及ぼす可能性があることを報告する論文が、今週掲載される。
スルホキシイミン系殺虫剤は、ネオニコチノイド系殺虫剤に耐性を有する昆虫種を標的とする有効な殺虫剤であることが明らかになり、中国、カナダ、オーストラリアで承認され、いくつかのEU加盟国で認可申請手続きが進められている。ところが、スルホキシイミン系殺虫剤とネオニコチノイド系殺虫剤は、生物学的作用機序が同じで、花粉媒介生物に対するスルホキシイミン類の亜致死的影響の調査は十分に行われていない。
今回、Harry Siviterたちの研究グループは、実験室環境でセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)のコロニーをスルホキシイミン系殺虫剤の一種であるスルホキサフロルに曝露させた上で、野外環境中に放出すると、セイヨウオオマルハナバチの働きバチと繁殖能力のある雄の生産量が有意に減少することを明らかにした。この実験で、成長期の初期にあった25のコロニーを控えめな量のスルホキサフロルに2週間曝露させたところ、曝露後2~3週間でこれらのコロニーと26の対照コロニーとの間で個体数の差が生じ始め、この差は、コロニーの生活環が完了するまで持続した。スルホキサフロルに曝露されたコロニーでは、繁殖能力のある仔が54%減少した。この結果は、コロニーの生活史の初期段階においてセイヨウオオマルハナバチの小規模コホートがスルホキサフロルに曝露されると、コロニーの適応度に長期的な影響が及ぶ可能性のあることを示唆している。これに対して、採餌行動や花粉量に差はなかった。
Siviterたちは、科学的根拠に基づく法律がなければ、スルホキサフロルへの曝露によって、ネオニコチノイド系殺虫剤が花粉媒介生物に及ぼした環境影響と同じような結果が生じる可能性があると考えており、規制当局に対し、新規殺虫剤の使用認可を行う前に致死的影響と亜致死的影響の評価を行うことを求めている。
生態学:スルホキサフロルへの曝露はマルハナバチの繁殖成功率を低下させる
生態学:マルハナバチに対するスルホキシイミン系農薬の亜致死性の影響
スルホキシイミン系の殺虫剤は、ネオニコチノイド類の後継品となる可能性が最も高い農薬であり、世界の国々ですでに使用が認可されているか認可が検討されている。H Siviterたちは今回、スルホキシイミン系殺虫剤スルホキサフロルへの曝露が、野外で実際に曝露する量で、マルハナバチに対して亜致死性の影響を及ぼすことを報告している。この農薬にさらされたコロニーでは、生産されるワーカーや雄の生殖虫の数が著しく少なかった。この知見は、ネオニコチノイド類の直接的な代替品としてスルホキシイミン類を使用することに対して警告を発するものである。
参考文献:
Siviter H, Brown MJF, and Leadbeater E.(2018): Sulfoxaflor exposure reduces bumblebee reproductive success. Nature, 561, 7721, 109–112.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0430-6
後継品として最も有望なのはスルホキシイミン系の殺虫剤で、ネオニコチノイド系殺虫剤に耐性を有する昆虫種を標的とする有効な殺虫剤であると明らかになり、中国・カナダ・オーストラリアで承認され、いくつかのEU加盟国で認可申請手続きが進められています。スルホキシイミン系農薬が花粉媒介者に及ぼす亜致死性の影響は、標準的な生態毒性評価で検出されることは稀ですが、より大きな生態学的規模で重大な影響を及ぼす可能性があるため、そうした潜在的な亜致死性影響の先制的な評価が急務となっています。また、スルホキシイミン系殺虫剤とネオニコチノイド系殺虫剤は生物学的作用機序が同じなので、花粉媒介生物に対するスルホキシイミン類の亜致死的影響の調査も必要となりますが、まだじゅうぶんには行なわれていません。
この研究は、実験室環境でセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)のコロニーを、スルホキシイミン系殺虫剤の一種であるスルホキサフロルに曝露させた上で、野外環境中に放出すると、セイヨウオオマルハナバチの働きバチと繁殖能力のある雄の生産量が有意に減少する、と明らかにしました。この実験で、成長期の初期にあった25のコロニーを控えめな量のスルホキサフロルに2週間曝露させたところ、曝露後2~3週間で、これらのコロニーと26の対照コロニーとの間で個体数の差が生じ始め、この差は、コロニーの生活環が完了するまで持続しました。スルホキサフロルに曝露されたコロニーでは、繁殖能力のある仔が54%減少しました。
この結果は、コロニーの生活史の初期段階においてセイヨウオオマルハナバチの小規模コホートがスルホキサフロルに曝露されると、コロニーの適応度に長期的な影響が及ぶ可能性のあることを示唆しています。これに対して、採餌行動や花粉量に差はありませんでした。この研究は、科学的根拠に基づく法律がなければ、スルホキサフロルへの曝露により、ネオニコチノイド系殺虫剤が花粉媒介生物に及ぼした環境影響と同じような結果が生じる可能性がある、と予測しており、規制当局に対し、新規殺虫剤の使用認可を行う前に致死的影響と亜致死的影響の評価を行なうよう、求めています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【生態学】スルホキシイミン系殺虫剤がマルハナバチのコロニーの適応度に影響を及ぼす
ネオニコチノイド系殺虫剤の重要な代替品と期待される新しいクラスの殺虫剤が、マルハナバチのコロニーに対して亜致死的影響を及ぼす可能性があることを報告する論文が、今週掲載される。
スルホキシイミン系殺虫剤は、ネオニコチノイド系殺虫剤に耐性を有する昆虫種を標的とする有効な殺虫剤であることが明らかになり、中国、カナダ、オーストラリアで承認され、いくつかのEU加盟国で認可申請手続きが進められている。ところが、スルホキシイミン系殺虫剤とネオニコチノイド系殺虫剤は、生物学的作用機序が同じで、花粉媒介生物に対するスルホキシイミン類の亜致死的影響の調査は十分に行われていない。
今回、Harry Siviterたちの研究グループは、実験室環境でセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)のコロニーをスルホキシイミン系殺虫剤の一種であるスルホキサフロルに曝露させた上で、野外環境中に放出すると、セイヨウオオマルハナバチの働きバチと繁殖能力のある雄の生産量が有意に減少することを明らかにした。この実験で、成長期の初期にあった25のコロニーを控えめな量のスルホキサフロルに2週間曝露させたところ、曝露後2~3週間でこれらのコロニーと26の対照コロニーとの間で個体数の差が生じ始め、この差は、コロニーの生活環が完了するまで持続した。スルホキサフロルに曝露されたコロニーでは、繁殖能力のある仔が54%減少した。この結果は、コロニーの生活史の初期段階においてセイヨウオオマルハナバチの小規模コホートがスルホキサフロルに曝露されると、コロニーの適応度に長期的な影響が及ぶ可能性のあることを示唆している。これに対して、採餌行動や花粉量に差はなかった。
Siviterたちは、科学的根拠に基づく法律がなければ、スルホキサフロルへの曝露によって、ネオニコチノイド系殺虫剤が花粉媒介生物に及ぼした環境影響と同じような結果が生じる可能性があると考えており、規制当局に対し、新規殺虫剤の使用認可を行う前に致死的影響と亜致死的影響の評価を行うことを求めている。
生態学:スルホキサフロルへの曝露はマルハナバチの繁殖成功率を低下させる
生態学:マルハナバチに対するスルホキシイミン系農薬の亜致死性の影響
スルホキシイミン系の殺虫剤は、ネオニコチノイド類の後継品となる可能性が最も高い農薬であり、世界の国々ですでに使用が認可されているか認可が検討されている。H Siviterたちは今回、スルホキシイミン系殺虫剤スルホキサフロルへの曝露が、野外で実際に曝露する量で、マルハナバチに対して亜致死性の影響を及ぼすことを報告している。この農薬にさらされたコロニーでは、生産されるワーカーや雄の生殖虫の数が著しく少なかった。この知見は、ネオニコチノイド類の直接的な代替品としてスルホキシイミン類を使用することに対して警告を発するものである。
参考文献:
Siviter H, Brown MJF, and Leadbeater E.(2018): Sulfoxaflor exposure reduces bumblebee reproductive success. Nature, 561, 7721, 109–112.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0430-6
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