哺乳類の生殖形質の進化時期
哺乳類の生殖形質の進化時期に関する研究(Hoffman, and Rowe., 2018)が公表されました。哺乳類はおもに生殖様式によって定義され、卵生種もごくわずかに存在しますが、一般に胎生で、母乳で仔を育てます。哺乳類ステム系統における形態・生理・行動の変化は、少数の仔に対する母親の高い投資を特徴とする生殖戦略や、脳の拡大に関連した初期の頭蓋発達における異時的変化の出現など、生殖および成長の著しい変化を伴っていました。哺乳類やその祖先の仔が成体と一緒に化石に保存されることは珍しく、新生仔や胎仔はさらに稀少なので、これらの変化の時期および順序はまだ明らかになっていません。
本論文は、非哺乳類単弓類としては初となる、孵化前あるいは孵化直後の幼体の化石記録について報告しています。アメリカ合衆国アリゾナ州北東部のカイエンタ累層の前期ジュラ紀(約1億8400万年前)の堆積物から、哺乳形類(Mammaliamorpha)犬歯類に属するトリティロドン類カイエンタテリウム(Kayentatherium wellesi)の良好な保存状態の多数の孵化期幼体が、母親のものと推定される骨格と共に発見されました。トリティロドン類カイエンタテリウムは真正の哺乳類ではないものの、形態的には爬虫類と哺乳類の中間体である、いわゆる「哺乳類型爬虫類(哺乳類様動物)」と称される分類群(単弓類)に属し、哺乳綱トリティロドン科に分類されています。これらの幼体の単一の集合体は少なくとも38個体で、これは現生哺乳類で報告されている一腹仔数の範囲を大きく上回りますが、ワニなどの爬虫類では範囲内に収まり、一腹仔数の減少は哺乳類進化においてより後に起こった、と明らかになりました。
この発見は、仔数の多さが羊膜類の祖先的状態であったことを裏づけるとともに、哺乳類ステム群における一腹仔数の減少の時期を絞り込むものとなります。発見された孵化期幼体は、サイズはきわめて小さいものの、頭骨の全体的な形状は成体のものと類似しており、個体発生におけるアロメトリー(相対成長)的な顔の伸長は認められませんでした。その成長パターンは、「大きな眼と短い顔」という哺乳類の幼体を連想させる顔つきよりも、トカゲのものによく似ているのではないか、というわけです。唯一認められる正のアロメトリーは、咀嚼筋系を支える骨と関連するものでした。カイエンタテリウムは、哺乳型類(Mammaliaformes)の基部において頭蓋構造の再構成をもたらしたと仮定されている、急激な脳拡大事象の直前に分岐した、と考えられます。カイエンタテリウムに見られる仔数の多さとほぼアイソメトリー(等成長)的な頭蓋成長との関連は、大脳化とそれに伴う代謝および発生の変化が、哺乳類の生殖におけるその後の変化を駆動した、というシナリオと一致します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【進化】哺乳類の生殖形質の進化時期の特定に役立つ動物の家族の化石
哺乳類に似た動物の成体と仔が一緒に保存された化石について記述された論文が、今週掲載される。米国アリゾナ州で出土したこの新しい化石標本は、1億8400万年前のものとされ、現生哺乳類の生殖戦略と成長戦略が進化した道筋に光を当てる。
哺乳類を定義する特徴が生殖であることは、ほぼ間違いないだろう。つまり、ほとんど全ての哺乳類が卵生ではなく胎生であり、母乳で仔を育てる。哺乳類は進化するにつれて、産仔数が相対的に減少して個体当たりの母親の投資が大きくなるとともに、幼少期の頭蓋骨の発達に変化が生じて脳が大型化する傾向を示している。しかし、哺乳類やその祖先の仔が成体と一緒に化石に保存されることは珍しく(新生仔や胎仔はさらに稀少)、こうした進化のタイミングは正確に分かっていない。
今回、Eva HoffmanとTimothy Roweは、現在の米国アリゾナ州北東部で発掘されたジュラ紀初期のKayentatherium wellesiの、成体(母親と推定されている)と共に埋没した仔の一群の化石の発見を報告している。K. wellesiは、真正の哺乳類ではないが、哺乳類様動物の1種である哺乳綱トリティロドン科に属している。
この一群には38体の仔が含まれていたが、これは哺乳類で予想される産仔数の2倍で、爬虫類の場合に匹敵する。K. wellesiの仔の頭蓋骨は、成体とは大きさが異なるが、形状は似ている。このことは、K. wellesiが現生爬虫類と同じように成長し、現生哺乳類の成熟段階に見られる頭蓋骨の伸長は起こらなかったことを示唆している。このように産仔数の多さと頭蓋骨の均一な成長とが結び付いていることは、脳の大型化が哺乳類の生殖と発達に変化を生み出したとする学説を裏付けている。
古生物学:ジュラ紀のステム群哺乳類の孵化期幼体と哺乳類の生殖および成長の起源
古生物学:哺乳類の生殖様式の起源
哺乳類は、その名称が示すように、主に生殖様式によって定義される。現生哺乳類には卵を産むものがごくわずかに存在するが、哺乳類は一般に胎生であり、母乳で仔を育てる。哺乳類の生殖の進化史をたどるのは難しく、それは哺乳類の成体が歯以外の痕跡を後世に残すことがまれで、幼体の化石はさらに希少なためである。今回E HoffmanとT Roweは、北米西部の前期ジュラ紀(1億8400万年前)の堆積層で発見された、カイエンタテリウム(Kayentatherium wellesi)という動物の少なくとも38個体の孵化期幼体からなる化石の集合体とその母親と推定される成体の骨格を報告している。カイエンタテリウムは真の哺乳類ではなくトリティロドン類で、形態的には爬虫類と哺乳類の中間体である、いわゆる「哺乳類型爬虫類」と称される分類群(単弓類)に属する。38個体という一腹仔数は哺乳類に考えられるものとしては多過ぎるが、ワニなどの爬虫類では十分範囲内で、一腹仔数の減少は哺乳類進化においてより後に起こったことが示された。また、これらの幼体の頭蓋は成体のそれを縮小したものに似ており、その成長パターンは「大きな眼と短い顔」という哺乳類の幼体を連想させる顔つきよりもトカゲのものによく似ていることが示唆された。こうした顔つきの変化も同様に、その後の哺乳類進化において生じたと考えられる。今回の発見は、哺乳類進化の幕開けにおける動物の家族生活の1こまを映し出すものである。
参考文献:
Hoffman EA, and Rowe TB.(2018): Jurassic stem-mammal perinates and the origin of mammalian reproduction and growth. Nature, 561, 7721, 104–108.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0441-3
本論文は、非哺乳類単弓類としては初となる、孵化前あるいは孵化直後の幼体の化石記録について報告しています。アメリカ合衆国アリゾナ州北東部のカイエンタ累層の前期ジュラ紀(約1億8400万年前)の堆積物から、哺乳形類(Mammaliamorpha)犬歯類に属するトリティロドン類カイエンタテリウム(Kayentatherium wellesi)の良好な保存状態の多数の孵化期幼体が、母親のものと推定される骨格と共に発見されました。トリティロドン類カイエンタテリウムは真正の哺乳類ではないものの、形態的には爬虫類と哺乳類の中間体である、いわゆる「哺乳類型爬虫類(哺乳類様動物)」と称される分類群(単弓類)に属し、哺乳綱トリティロドン科に分類されています。これらの幼体の単一の集合体は少なくとも38個体で、これは現生哺乳類で報告されている一腹仔数の範囲を大きく上回りますが、ワニなどの爬虫類では範囲内に収まり、一腹仔数の減少は哺乳類進化においてより後に起こった、と明らかになりました。
この発見は、仔数の多さが羊膜類の祖先的状態であったことを裏づけるとともに、哺乳類ステム群における一腹仔数の減少の時期を絞り込むものとなります。発見された孵化期幼体は、サイズはきわめて小さいものの、頭骨の全体的な形状は成体のものと類似しており、個体発生におけるアロメトリー(相対成長)的な顔の伸長は認められませんでした。その成長パターンは、「大きな眼と短い顔」という哺乳類の幼体を連想させる顔つきよりも、トカゲのものによく似ているのではないか、というわけです。唯一認められる正のアロメトリーは、咀嚼筋系を支える骨と関連するものでした。カイエンタテリウムは、哺乳型類(Mammaliaformes)の基部において頭蓋構造の再構成をもたらしたと仮定されている、急激な脳拡大事象の直前に分岐した、と考えられます。カイエンタテリウムに見られる仔数の多さとほぼアイソメトリー(等成長)的な頭蓋成長との関連は、大脳化とそれに伴う代謝および発生の変化が、哺乳類の生殖におけるその後の変化を駆動した、というシナリオと一致します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【進化】哺乳類の生殖形質の進化時期の特定に役立つ動物の家族の化石
哺乳類に似た動物の成体と仔が一緒に保存された化石について記述された論文が、今週掲載される。米国アリゾナ州で出土したこの新しい化石標本は、1億8400万年前のものとされ、現生哺乳類の生殖戦略と成長戦略が進化した道筋に光を当てる。
哺乳類を定義する特徴が生殖であることは、ほぼ間違いないだろう。つまり、ほとんど全ての哺乳類が卵生ではなく胎生であり、母乳で仔を育てる。哺乳類は進化するにつれて、産仔数が相対的に減少して個体当たりの母親の投資が大きくなるとともに、幼少期の頭蓋骨の発達に変化が生じて脳が大型化する傾向を示している。しかし、哺乳類やその祖先の仔が成体と一緒に化石に保存されることは珍しく(新生仔や胎仔はさらに稀少)、こうした進化のタイミングは正確に分かっていない。
今回、Eva HoffmanとTimothy Roweは、現在の米国アリゾナ州北東部で発掘されたジュラ紀初期のKayentatherium wellesiの、成体(母親と推定されている)と共に埋没した仔の一群の化石の発見を報告している。K. wellesiは、真正の哺乳類ではないが、哺乳類様動物の1種である哺乳綱トリティロドン科に属している。
この一群には38体の仔が含まれていたが、これは哺乳類で予想される産仔数の2倍で、爬虫類の場合に匹敵する。K. wellesiの仔の頭蓋骨は、成体とは大きさが異なるが、形状は似ている。このことは、K. wellesiが現生爬虫類と同じように成長し、現生哺乳類の成熟段階に見られる頭蓋骨の伸長は起こらなかったことを示唆している。このように産仔数の多さと頭蓋骨の均一な成長とが結び付いていることは、脳の大型化が哺乳類の生殖と発達に変化を生み出したとする学説を裏付けている。
古生物学:ジュラ紀のステム群哺乳類の孵化期幼体と哺乳類の生殖および成長の起源
古生物学:哺乳類の生殖様式の起源
哺乳類は、その名称が示すように、主に生殖様式によって定義される。現生哺乳類には卵を産むものがごくわずかに存在するが、哺乳類は一般に胎生であり、母乳で仔を育てる。哺乳類の生殖の進化史をたどるのは難しく、それは哺乳類の成体が歯以外の痕跡を後世に残すことがまれで、幼体の化石はさらに希少なためである。今回E HoffmanとT Roweは、北米西部の前期ジュラ紀(1億8400万年前)の堆積層で発見された、カイエンタテリウム(Kayentatherium wellesi)という動物の少なくとも38個体の孵化期幼体からなる化石の集合体とその母親と推定される成体の骨格を報告している。カイエンタテリウムは真の哺乳類ではなくトリティロドン類で、形態的には爬虫類と哺乳類の中間体である、いわゆる「哺乳類型爬虫類」と称される分類群(単弓類)に属する。38個体という一腹仔数は哺乳類に考えられるものとしては多過ぎるが、ワニなどの爬虫類では十分範囲内で、一腹仔数の減少は哺乳類進化においてより後に起こったことが示された。また、これらの幼体の頭蓋は成体のそれを縮小したものに似ており、その成長パターンは「大きな眼と短い顔」という哺乳類の幼体を連想させる顔つきよりもトカゲのものによく似ていることが示唆された。こうした顔つきの変化も同様に、その後の哺乳類進化において生じたと考えられる。今回の発見は、哺乳類進化の幕開けにおける動物の家族生活の1こまを映し出すものである。
参考文献:
Hoffman EA, and Rowe TB.(2018): Jurassic stem-mammal perinates and the origin of mammalian reproduction and growth. Nature, 561, 7721, 104–108.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0441-3
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