ネアンデルタール人の精密な手の動作
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の手の動作に関する研究(Karakostis et al., 2018)が報道されました。ネアンデルタール人は現生人類(Homo sapiens)よりもずっと筋肉が発達しており、手の動作に関しても、現生人類でよく見られるような精確なものではなく、強い握力に依存したものだろう、と考えられていました。しかし、ネアンデルタール人が角器やタールのような接着剤を用いた複合的な道具や小型の石器を製作していたと明らかになり、こうした考古学的な研究成果は、ネアンデルタール人の手の動作に関するじゅうらいの見解と整合的ではない、とも指摘されています。
本論文は、ネアンデルタール人と初期現生人類と現代人とを比較することで、ネアンデルタール人の手の動作を再評価しました。対象となったのは、いずれも中東とヨーロッパで発見された、6人のネアンデルタール人と6人の初期現生人類です。本論文の前提となるのは、手の骨の腱靱帯付着部が生涯にわたる手の動作を反映している、という研究です。そこで本論文は、煉瓦職人・石工・大工といった、力強い手の動作を要求される職業の人々と、仕立屋・靴職人・染物師・画家など、精密な手の動作を要求される職業の人々を分類し、三次元スキャンにより手の骨の腱靱帯付着部の状態を調べ、ネアンデルタール人や初期現生人類と比較しました。
その結果、力強い手の動作を要求される職業の人々は、親指と小指により顕著な腱靱帯付着部を有する傾向にあり、一方で、もっと細かい手の動作を要求される職業の人々は、親指と人差し指により大きな腱靱帯付着部を有する傾向がありました。ネアンデルタール人は全員が精密な手の動作を要求される職業の人々に分類されたのにたいして、初期現生人類は半数ずつ両方に分類されました。これは、初期現生人類において分業が発展したことと関連しているのではないか、と本論文では指摘されています。
アンデルタール人は日常的に精確な手の動作を要求される作業を行なっていたいたと推測されることから、力強い手の動作に依存していた、というじゅうらいのネアンデルタール人像は覆される、と本論文は強調しています。もちろんこれは、ネアンデルタール人が力強い手の動作を必要とする作業に従事しなかった、と意味しているわけではありません。また本論文は、この新たなネアンデルタール人像は、ネアンデルタール人の遺跡で精密な手の動作を必要としたと推測される遺物の発見例が蓄積されてきている、という考古学的研究成果とも整合的だと指摘しています。本論文の手法は、他の人類系統の手の動作にも適用できるでしょうから、今後の研究の進展が期待されます。
参考文献:
Karakostis FA. et al.(2018): Evidence for precision grasping in Neandertal daily activities. Science Advances, 4, 9, eaat2369.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aat2369
本論文は、ネアンデルタール人と初期現生人類と現代人とを比較することで、ネアンデルタール人の手の動作を再評価しました。対象となったのは、いずれも中東とヨーロッパで発見された、6人のネアンデルタール人と6人の初期現生人類です。本論文の前提となるのは、手の骨の腱靱帯付着部が生涯にわたる手の動作を反映している、という研究です。そこで本論文は、煉瓦職人・石工・大工といった、力強い手の動作を要求される職業の人々と、仕立屋・靴職人・染物師・画家など、精密な手の動作を要求される職業の人々を分類し、三次元スキャンにより手の骨の腱靱帯付着部の状態を調べ、ネアンデルタール人や初期現生人類と比較しました。
その結果、力強い手の動作を要求される職業の人々は、親指と小指により顕著な腱靱帯付着部を有する傾向にあり、一方で、もっと細かい手の動作を要求される職業の人々は、親指と人差し指により大きな腱靱帯付着部を有する傾向がありました。ネアンデルタール人は全員が精密な手の動作を要求される職業の人々に分類されたのにたいして、初期現生人類は半数ずつ両方に分類されました。これは、初期現生人類において分業が発展したことと関連しているのではないか、と本論文では指摘されています。
アンデルタール人は日常的に精確な手の動作を要求される作業を行なっていたいたと推測されることから、力強い手の動作に依存していた、というじゅうらいのネアンデルタール人像は覆される、と本論文は強調しています。もちろんこれは、ネアンデルタール人が力強い手の動作を必要とする作業に従事しなかった、と意味しているわけではありません。また本論文は、この新たなネアンデルタール人像は、ネアンデルタール人の遺跡で精密な手の動作を必要としたと推測される遺物の発見例が蓄積されてきている、という考古学的研究成果とも整合的だと指摘しています。本論文の手法は、他の人類系統の手の動作にも適用できるでしょうから、今後の研究の進展が期待されます。
参考文献:
Karakostis FA. et al.(2018): Evidence for precision grasping in Neandertal daily activities. Science Advances, 4, 9, eaat2369.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aat2369
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