デニソワ洞窟の新たな人骨

 ロシアの南シベリアのアルタイ地域のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で新たに確認された人類の骨に関する研究(Brown et al., 2018)が報道されました。この研究は今月(2018年9月)13日~15日にかけてポルトガルのファロで開催された人間進化研究ヨーロッパ協会の第8回総会で報告されており、まだ論文としては刊行されていません。この研究の要約は、PDFファイルで読めます(P31)。

 更新世の人類化石は稀ですが、その一因として、動物の骨は少なからず発見されているものの、あまりにも断片的なので、どの種なのか形態学的には同定できない、という事情があります。そこで、断片的な骨でも種を同定できるような手法が開発され、すでに成果を挙げつつあります。たとえば、デニソワ洞窟で発見された2000個以上の小さく断片的な骨の中から、重量1.68g・長さ24.7mm・幅8.89mの骨(DC1227)がデニソワ人のものと同定でき、デニソワ11(Denisova 11)と命名されました(関連記事)。具体的には、DNAやペプチドの特異的配列パターンから物質を同定するコラーゲンフィンガープリント法により、小さく断片的な骨の種が同定されています。骨に含まれるコラーゲンのペプチド配列が動物種間でわずかに異なることを利用し、既知の基準配列と比較して種を同定する、というわけです。

 この方法を用いて、デニソワ洞窟で発見された数百個もの断片的な骨から新たに4個、人類のものが確認されました。これは「FINDER」計画の一環で、ユーラシアの20ヶ所の遺跡の4万個の断片的な動物の骨から人類のものを同定する、という目的で進められています。今後、デニソワ洞窟で新たに確認された4個の人骨のDNAが解析される予定です。デニソワ洞窟ではネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のデニソワ人(Denisovan)の存在が確認されています(関連記事)。これら新たに確認された4個の人骨のDNA解析に成功したら、どの人類系統に分類されるのか、たいへん注目されます。

 デニソワ人はこれまで4個体しか確認されておらず(関連記事)、いずれもデニソワ洞窟で発見されています。「FINDER」計画で期待されるのは、やはり、デニソワ人が他の地域でも確認されることです。デニソワ洞窟で発見された人骨デニソワ11は最近、ネアンデルタール人とデニソワ人の交雑第一世代と確認されました(関連記事)。交雑第一世代の発見には本当に驚かされましたが、新たに確認されたデニソワ洞窟の人骨4個に関しても、DNA解析に成功したらたいへん興味深い知見が得られるのではないか、と大いに期待されます。


参考文献:
Brown S. et al.(2018): The FINDERproject: Identifying hominin bones in the Altai Mountains using collagen finger printing. The 8th Annual ESHE Meeting.

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