個体の鳴き声を聞き分けるジャイアントパンダ

 ジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)は個体の鳴き声を聞き分ける、と報告した研究(Charlton et al., 2018)が公表されました。ジャイアントパンダは単独行動性の動物であるため、配偶相手の居場所を知り、攻撃的かもしれない競争相手を避けるために、実効性のある情報伝達が不可欠である可能性は高い、と考えられています。雄のジャイアントパンダは、発情期の雌に遭遇すると高い確率で鳴き声を発することが知られており、こうした鳴き声が交尾活動の調整に重要なことが示唆されています。ただし、鳴き声で明らかになる情報は、生息地である竹林環境において確実に伝達されない限り、ジャイアントパンダの役に立ちません。

 この研究は、アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンディエゴ動物園サファリパーク内の竹林を含む、植生密度がパンダの自然の生息地に近い混合人工林で、ジャイアントパンダの鳴き声100回分(10頭の成体のそれぞれ10回分の鳴き声)の録音を再生し、再生装置のスピーカーからそれぞれ10・20・30・40m離れた地点でその音声を再録音しました。分析の結果から、ジャイアントパンダの鳴き声の音響構造の明瞭さは、竹林環境において最大20mまで保持されるものの、10mを超えると、鳴き声を発した個体が雄なのか雌なのか分からなくなる、と明らかになりました。

 この研究は、ジャイアントパンダが交尾関連の鳴き声の中で区別できる可能性の高い範囲を明らかにすることで、その繁殖戦略に関する新たな手掛かりをもたらしています。鳴き声に含まれる発声個体の同一性と性別に関する手掛かりは、視認機会が限定的な環境となる鬱蒼とした竹林において至近距離で相互作用するパンダにとって、重要な情報となる可能性がある、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【動物行動学】ジャイアントパンダは別の個体の鳴き声を近くで聞けば誰の声だか分かる

 ジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)の鳴き声は、20メートル以内の距離では、鳴いたのがどの個体かを、10メートル以内では鳴いた個体の性別を伝えていることを明らかにした論文が、今週掲載される。鳴き声に含まれる発声個体の同一性と性別に関する手掛かりは、うっそうとした竹林という視認機会が限定的な環境において至近距離で相互作用するパンダにとって重要な情報となる可能性がある。

 ジャイアントパンダは、単独行動する動物であるため、配偶相手の居場所を知り、攻撃的かもしれない競争相手を避けるために、実効性のある情報伝達が不可欠である可能性が高い。雄のジャイアントパンダは、発情期の雌に遭遇すると高い確率で鳴き声を発することが知られており、こうした鳴き声が交尾活動の調整に重要なことが示唆されている。ただし、鳴き声で明らかになる情報は、生息地である竹林環境において確実に伝達されない限り、ジャイアントパンダの役に立たない。

 今回、Benjamin Charltonたちの研究グループは、サンディエゴ動物園サファリパーク(米国カリフォルニア州)内の竹林を含む混合人工林で、ジャイアントパンダの鳴き声100回分(10頭の成体のそれぞれ10回分の鳴き声)の録音を再生して、再生装置のスピーカーからそれぞれ10、20、30、40メートル離れた地点でその音声を再録音した。この人工林における竹林の植生密度は、パンダの自然の生息地に近い。分析の結果から、ジャイアントパンダの鳴き声の音響構造の明瞭さは、竹林環境において最大20メートルまで保持されるが、10メートルを超えると鳴き声を発した個体が雄なのか雌なのかが分からなくなることが明らかになった。

 今回の研究は、ジャイアントパンダが交尾関連の鳴き声の中で区別できる可能性の高い範囲を明らかにすることで、その繁殖戦略に関する新たな手掛かりをもたらしている。



参考文献:
Charlton BD. et al.(2018): Sound transmission in a bamboo forest and its implications for information transfer in giant panda (Ailuropoda melanoleuca) bleats. Scientific Reports, 8, 12754.
https://doi.org/10.1038/s41598-018-31155-5

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