数千年にわたる牧畜が築き上げたアフリカのサバンナ
牧畜によるアフリカのサバンナへの影響に関する研究(Marshall et al., 2018)が報道されました。草原は世界で最も広範に及ぶ陸上生物群系(バイオーム)の一つで、牧畜民・家畜・大型野生哺乳類の多様な群集の生存に重要です。アフリカでは、熱帯土壌は概して栄養が制限されていますが、草原に樹木が散生するサバンナ生態系に点在する生産力の高いパッチ状の草地は、地質学的要因・土壌要因・大型動物相・火事・シロアリにより生じた肥沃な土壌で成長します。移動性の牧畜民もまた、夜間家畜を囲いに入れることにより、周囲のサバンナでの放牧に由来する排泄物(栄養素)を集中させ、土壌肥沃度のホットスポットを生み出しています。歴史的な人為的ホットスポットはアフリカのサバンナにおいて、質の高い飼料を生産し、野生動物を誘引して、空間的不均一性を増大させています。考古学的な研究からは、この効果が少なくとも1000年前までさかのぼると示唆されていますが、1000年という規模での栄養の維持に関しては。ほとんど知られていません。
本論文は、化学分析・同位体分析・堆積物分析を用いて、放射性炭素年代測定法による較正年代で3700~1550年前頃となる、ケニア南西部の新石器時代の牧畜遺跡5ヶ所における遺跡内の分解された糞便堆積物には、周辺土壌よりもカルシウム・マグネシウム・リンなど栄養素が多く、高い窒素同位体(15N)濃縮が認められる、と明らかにします。これらは、放牧草食動物の排泄物の痕跡と一致します。こうした知見は、栄養ホットスポットの長い持続性と古代牧畜民の長期的な遺産を実証するとともに、こうした牧畜民の居住が3000年間にわたりアフリカのサバンナ景観を肥沃化し、多様化させてきたことを示しています。これまで草原に関しては、自由に歩き回る家畜の群れは景観破壊に関わっている、と考えられてきました。しかし、牧畜がアフリカのサバンナを豊かで多様にしてきた側面も明らかになったわけで、牧畜の拡大が環境の悪化と本質的に結びついている、という見解に疑問が呈されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【生態学】マラ-セレンゲティの「手付かずの」自然は数千年にわたる牧畜が築き上げたものだった
マラ-セレンゲティのようなアフリカの草原は、数千年にわたって遊牧民によって支えられ、豊かになったことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、マラ-セレンゲティを手付かずの自然のままのサバンナだとする従来の考え方に異論を唱えるものとなっている。
草原は、大型の野生哺乳類集団に加えて、牧畜民とその家畜を支える上で重要な役割を果たしている。一方で、自由に歩き回る家畜の群れはこれまで、景観破壊に関わっていると考えられてきた。最近の研究では、家畜が一夜を過ごす囲いの中に堆積する畜産廃棄物が肥沃なホットスポットとなって植物の成長と草原の多様性を促進することで、景観を豊かなものにしていることが明らかになった。ただし、この効果がどれほど長く継続するかは、現在のところほとんど分かっていない。
今回、Fiona Marshallたちの研究グループは、ケニア南西部のナロック郡にある3700~1550年前の新石器時代のものとされる牧畜地(5カ所)で化学分析、同位体分析、および堆積物分析を行った。その結果、この牧畜地で見つかった分解された畜糞堆積物には、周辺の土壌に比べて栄養素(カルシウム、マグネシウム、リンなど)と重窒素同位体が多量に含まれており、またこの肥沃化が最長3000年間継続したことが判明した。この結果は、マラ-セレンゲティのようなアフリカのサバンナが、「手付かずの」ままの景観では決してなく、牧畜民の影響を数千年間受けてきたことを示唆している。
以上の研究知見は、人間が作り上げた栄養素のホットスポットの重要性に関する生態学的研究に歴史的視点を導入するもので、牧畜の拡大が環境の悪化と本質的に結び付いているという考えに異を唱えている。
参考文献:
Marshall F. et al.(2018): Ancient herders enriched and restructured African grasslands. Nature, 561, 7723, 387–390.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0456-9
本論文は、化学分析・同位体分析・堆積物分析を用いて、放射性炭素年代測定法による較正年代で3700~1550年前頃となる、ケニア南西部の新石器時代の牧畜遺跡5ヶ所における遺跡内の分解された糞便堆積物には、周辺土壌よりもカルシウム・マグネシウム・リンなど栄養素が多く、高い窒素同位体(15N)濃縮が認められる、と明らかにします。これらは、放牧草食動物の排泄物の痕跡と一致します。こうした知見は、栄養ホットスポットの長い持続性と古代牧畜民の長期的な遺産を実証するとともに、こうした牧畜民の居住が3000年間にわたりアフリカのサバンナ景観を肥沃化し、多様化させてきたことを示しています。これまで草原に関しては、自由に歩き回る家畜の群れは景観破壊に関わっている、と考えられてきました。しかし、牧畜がアフリカのサバンナを豊かで多様にしてきた側面も明らかになったわけで、牧畜の拡大が環境の悪化と本質的に結びついている、という見解に疑問が呈されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【生態学】マラ-セレンゲティの「手付かずの」自然は数千年にわたる牧畜が築き上げたものだった
マラ-セレンゲティのようなアフリカの草原は、数千年にわたって遊牧民によって支えられ、豊かになったことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、マラ-セレンゲティを手付かずの自然のままのサバンナだとする従来の考え方に異論を唱えるものとなっている。
草原は、大型の野生哺乳類集団に加えて、牧畜民とその家畜を支える上で重要な役割を果たしている。一方で、自由に歩き回る家畜の群れはこれまで、景観破壊に関わっていると考えられてきた。最近の研究では、家畜が一夜を過ごす囲いの中に堆積する畜産廃棄物が肥沃なホットスポットとなって植物の成長と草原の多様性を促進することで、景観を豊かなものにしていることが明らかになった。ただし、この効果がどれほど長く継続するかは、現在のところほとんど分かっていない。
今回、Fiona Marshallたちの研究グループは、ケニア南西部のナロック郡にある3700~1550年前の新石器時代のものとされる牧畜地(5カ所)で化学分析、同位体分析、および堆積物分析を行った。その結果、この牧畜地で見つかった分解された畜糞堆積物には、周辺の土壌に比べて栄養素(カルシウム、マグネシウム、リンなど)と重窒素同位体が多量に含まれており、またこの肥沃化が最長3000年間継続したことが判明した。この結果は、マラ-セレンゲティのようなアフリカのサバンナが、「手付かずの」ままの景観では決してなく、牧畜民の影響を数千年間受けてきたことを示唆している。
以上の研究知見は、人間が作り上げた栄養素のホットスポットの重要性に関する生態学的研究に歴史的視点を導入するもので、牧畜の拡大が環境の悪化と本質的に結び付いているという考えに異を唱えている。
参考文献:
Marshall F. et al.(2018): Ancient herders enriched and restructured African grasslands. Nature, 561, 7723, 387–390.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0456-9
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