後期更新世における氷床の後退

 後期更新世における氷床の後退についての研究(Wilson et al., 2018)が公表されました。地質学的な過去の氷床の挙動解明は、気候システムにおける雪氷圏の役割を評価し、将来の温暖化シナリオにおける海水準上昇の速さと規模を予測するのに不可欠です。東南極氷床には、50 mを超える海水準上昇に相当する氷があり、過去の温暖な時期に、主要な区域のどこかが不安定化した可能性があるか否か、という問題が提起されています。地質データと氷床モデルは共に、東南極氷床の海洋を基部とする部分は、鮮新世の温暖期に不安定だったことを示していますが、後期更新世の間氷期における氷床ダイナミクスはきわめて不明確です。

 本論文は、温暖な後期更新世の間氷期において東南極のウィルクス氷底盆地の周辺の氷床外縁が後退もしくは薄化したことを示す、海洋の堆積学的記録と地球化学的記録から得られた証拠を提示しています。堆積物供給源の最も極端な変化は、氷床侵食の場所の変化を記録しており、南極の気温が2500年以上にわたって産業革命以前より2°C以上高かった、海洋酸素同位体ステージ(MIS)5・9・11の時期に生じていました。

 したがって、この知見から、長期にわたる南極の温暖期とウィルクス氷底盆地からの氷の損失との間の密接な関連が示され、温暖な間氷期における東南極氷床の縮小の海水準への寄与を裏づける、氷床隣接部のデータが得られました。東南極氷床の他の領域の挙動はまだ評価されていませんが、ウィルクス氷底盆地からの氷の損失に関しては、将来の穏やかな温暖化で充分な可能性がある、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


気候科学:後期更新世の間氷期における東南極氷床からの氷の損失

気候科学:後期更新世における氷床の後退

 東南極氷床には、50 mを超える海水準上昇に相当する氷があり、過去の温暖な時期に、主要な区域のどこかが不安定化した可能性があるかどうかという問題が提起されている。今回D Wilsonたちは、後期更新世(この時代の気温は今後1世紀に予測されている気温と類似する)に、ウィルクス氷底盆地が後退したことを示している。今回の知見は、東南極からの大規模な氷床の減少が差し迫っていることを確証するものではないが、過去の高い気温に対する氷床の感度が高かったことを浮き彫りにしている。



参考文献:
Wilson DJ. et al.(2018): Ice loss from the East Antarctic Ice Sheet during late Pleistocene interglacials. Nature, 561, 7723, 383–386.
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0501-8

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